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スギ花粉症治療薬の改良型「シダキュア」の14日ルールが終わり、長期処方が可能となりました

スギ花粉症治療薬の改良型「シダキュア」の14日ルールが終わり、長期処方が可能となりました

2018年7月から発売されていたスギ花粉症治療薬の改良型、「シダキュア」ですが、新薬だったので、いわゆる14日ルールにのっとって、市販後調査終了するおおむね1年間は、長期処方が禁止されていました。ようやく市販後調査が終わり、今日、5月1日から長期処方が解禁となりました。

2019年5月号のシックキッスニュースは、それを記念して、免疫療法、特にスギの花粉症治療薬、「シダキュア」にフォーカスを当てたものなのですが、10連休で印刷のほうが間に合わず、新聞の配布が5月1日に間に合いませんでした。仕方がないので、とりあえず、新聞の原稿をブログにのせました。

 

2019年5月。日本は皇位継承もあり、それであたらしい年号も令和と決ました。さて、2月3月と、花粉症に苦しめられた方、多かったのではないでしょう?その方々にとって朗報です。昨年7月から保険で使えるようになっていたスギ花粉症のアレルギー免疫療法のための改良型の治療薬、シダキュア舌下錠が、ようやく5月から投薬日数制限、いわゆる「14日ルール」がとれ、長期処方が可能となります。これを機会に、日本でも免疫療法が身近になることが期待されます。そこで今月のフォーカスは、ずばり「シダキュア舌下錠」でいきましょう。

今月のフォーカス シダキュア舌下錠

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① アレルゲン免疫療法とは

② アレルゲン免疫療法(皮下免疫療法・注射法)の歴史

③ 舌下免疫療法の登場

④ 世界発のスギ花粉症の舌下免疫療法「シダトレン」の誕生まで

⑤ シダトレン舌下液から、使いやすく効果的な舌下錠の「シダキュア」へ

⑥ 5月からスギの舌下免疫療法の治療薬、「シダキュア舌下錠」の投薬日数制限、いわゆる「14日ルール」がとれ、1か月以上の長期処方が可能となります

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① アレルゲン免疫療法とは

スギやダニ、ハウズダスト(室内塵)などのアレルゲンを少しずつ長い間投与して症状を緩和させる治療法です。実は日本でも、古くから身近なところでアレルゲン免疫療法が習慣的に行われていたのです。漆器職人たちのように漆を扱う職業の親方が、徒弟の舌下に少量の漆を置いて少しずつ量を増やすことで漆かぶれをおきにくくする、というあれです。アレルゲン免疫療法のイメージとしては、この漆かぶれを直すやり方をイメージすればいいと思います。スギの花粉を少量舌の下において舐めると、スギ花粉に体が反応しなくなり、つらい目のかゆみ、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりがおきなくなるというものです。

 

② アレルゲン免疫療法(皮下免疫療法・注射法)の歴史

学術的にも報告は古く、100年以上前になります(豆知識の欄参照)。1911年、ロンドンのセント・メリー病院予防接種科のNoonが発表した枯草熱(こそうねつ)に対するカモガヤ(牧場に生えている雑草や家畜のえさとして生やしている牧草)の皮下免疫療法(注射)による減感作療法が最初だといわれています。1900年くらいから、ヨーロッパではジフテリア毒素に対するトキソイドやワクチンの研究が盛んになって、アレルゲン免疫療法もこの流れに乗って考えられた最先端医療だったのです。

日本でもヨーロッパに遅れること50年後の1963年にハウスダスト(室内塵)の診断(皮膚テスト)と治療(皮下免疫療法・注射)のエキスが発売されたのが始まりで、6年後の1969年にはスギ花粉とブタクサ花粉の治療エキスも発売され、皮下免疫療法(注射)が始まりました。しかし材料となるハウスダスト、スギ、ブタクサの抗原の量が「標準化」されていなかったので、治療の効果がばらばらで無効の人もたくさんいました。ようやく日本でも2000年にスギ花粉治療用の標準化エキスが、そして2015年に待望の標準化治療用ダニアレルゲンエキスが発売されました。

標準化されているということは、「生物学的活性濃度が一定に保証されている」ということです。標準化されているアレルゲンエキスであれば、例えばこの量を接種すれば、どれくらい腫れるか、や、この量を接種つつければどのくらい効率的に脱感作できるか、などの生物学的な活性がわかります。アレルゲン免疫療法の治療の期間は数年にも及ぶので、この生物学的活性濃度が一定に保証された標準化アレルゲンエキスは、治療を安全におこない、治療効果を上げるためには重要だったのです。おおむね5歳以上の人からダニ・スギ花粉の皮下免疫療法(注射)でのアレルギー性鼻炎などの根本療法が可能となりました。

 

③ 舌下免疫療法の登場

今回、中心に取り上げる「舌下免疫療法」ですが、スギの花粉を含んだ錠剤を舌の下において、舌下や顎下のリンパ節に投与するルートをとるやり方です。注射での皮下免疫療法に比べると、歴史は浅いです。約30年前の1986年、やはりイギリス、インペリアルガレッジのScaddingたちのグループが、通年性アレルギー性鼻炎の患者さんでダニアレルゲンの舌下免疫療法の治験を初めて行い、効果・安全性ともに高いことを発表したのが最初の報告です。以後、同じような臨床試験が行われ、1993年に欧州アレルギー臨床免疫学会から、舌下免疫療法が免疫療法の有望な投与ルートの一つとして取り上げられました。1998年には、世界保健機構(WHO)が、舌下免疫療法が皮下免疫療法の代替となる治療法であると声明書を出しました。2001年には各国のアレルギー研究者たち37名が「アレルギー性鼻炎とその気管支喘息への影響(ARIA)」というコンセンサスレポート(全会一致の報告書)をまとめました。その中のアレルギー性鼻炎治療の治療管理ガイドラインで、舌下免疫療法は成人だけでなく小児にも有効であり安全にできると指示されてきました。

 

④ 世界発のスギ花粉症の舌下免疫療法「シダトレン」の誕生まで

日本では1960年ころからスギの花粉症が問題になっていましたが、世界的にみたらスギ花粉症はそこまで問題になっておらず、免疫療法先進地ヨーロッパをふくめ、どこもスギ花粉症の舌下免疫療法の治験は行われていませんでした。そこで、2005年から千葉大学を中心にスギ花粉の舌下免疫療法の開発が始まり、順次臨床試験が始まりました。最初は「パン屑にスギ花粉エキスを垂らして舌下に置く」、というものだったと聞いています。2008年に有効性と安全性が確かめられた臨床試験結果が論文として報告され、これが、厚労省から第1/2相前期試験として認められました。

2010年からは鳥居製薬が舌下免疫療法開発と臨床試験を引き継ぎ、第3/4相試験が始まりました。2012年、治療エキスの舌下投与により、スギ花粉症症状の軽減効果と安全性が確認されました。2014年10月から鳥居製薬から世界で最初のスギ花粉症の舌下免疫治療のためのスギ花粉エキス(液体)、「シダトレン」が発売されました。「シダ」は英語で「スギ」、「トレン」は耐性をあらわる「トレランス」、つまりスギ花粉に対して耐性化をもたらす薬という意味で付けられた名前だと推測されています。

 

⑤ シダトレン舌下液から、使いやすく効果的な舌下錠の「シダキュア」へ

シダトレンは標準化スギ花粉舌下液です。液体なので、保存するには冷蔵が必要です。旅行中は持ってゆけず、治療の一時中止を余儀なくされていました。エキスを舌下に専用容器でスプレーするのですが、最低2分間は保持しなければなりません。液体なので舌下保持が困難で容易に口の中に広がってしまいます。より免疫療法の効果が高いといわれている幼児や小学生にとってシダトレン舌下液の2分間の舌下保持は困難です。このため、年齢制限が12歳以上とされてしまいました。また、舌下液ではスギ花粉濃度を上げるのにも上限があり、2,000JAU/mLが最大で、舌下には1mLしか事実上投与できないので、最大投与量は2,000JAUが最大でした。それでもエキスだと口にひろがりやすいので、舌下からのリンパ管への取り込みの効率も落ちてしまいます。また口腔内に広がるため、のどの違和感や目や耳のかゆみなどの刺激症状も起きやすいと考えられましたので、0.2mLから2週間かけて少しずつ毎日投与エキス量を上げてゆく複雑なやり方をせざるを得ませんでした。スギ花粉症を治すためとはいえ、これでは面倒くさすぎてなかなかやりたいという人がおらず、普及もイマイチでした。

そこで、鳥居製薬は、スギ花粉のエキスから、口腔内崩壊錠である「シダキュア」(シダは英語でスギ、キュアはキュア:治癒するという意味で命名されたと推定)を開発、昨年2018年7月から発売開始しました。錠剤なので室温保存が可能。量も1錠5,000JAUまで上げることが可能となりました。これでエキスであるシダトレンの2,000JAUの時に比べて2.5倍の量を投与することができます。エキスよりも口腔内崩壊錠のほうが効率的に舌下に保持でき、口にも広がらず、刺激症状も軽減。だから、増量方法も最初から2,000JAUからスタートしてそのまま1週間慣らして、異常なければ以後5,000JAUに増量するという2ステップで簡便に増量することができます。シダトレンの時には2週間かけて10ステップで2,000JAUまで上げていたのに比べて断然簡便です。また効率がいいので舌下への保持時間もわずか1分。なので、シダキュアでは12歳以上の年齢制限が取っ払われ、舌下に保持できる聞き分けのいい子であれば、幼稚園生や小学生にもできるようになりました。スギ花粉エキス「シダトレン」から舌下錠「シダキュア」にかわり、シダトレンの欠点がすべて改善され、また量・質ともに改善され、治験での結果もシダトレンより良好でした(図)。初代のシダトレンとシダトレンの比較を表にまとめました。

                                                            

 

⑤ 5月からスギの舌下免疫療法の治療薬、「シダキュア舌下錠」の投薬日数制限、いわゆる「14日ルール」がとれ、1か月以上の長期処方が可能となります。

昨年7月から発売された口腔内崩壊錠、シダキュア。こちらとしてはスギ花粉エキスのシダトレンよりも使い勝手が良かったので、すぐにでもシダトレンから切り替えたり、花粉症の人たちに大々的に宣伝して、使っていただこうと考えていました。ところが、シダキュアは新薬なので、「14日ルール」、すなわち販売後の市販後調査で大きな問題がないことがはっきりするまでは、長期投与はできませんでした。免疫療法は3-5年の長い治療時間が必要なので、長期処方ができないと、患者さんは薬をもらうだけのために何度も面倒な受診が必要なので、市販後調査が済むまでじっと待つしかありませんでした。

この度、ようやく市販後調査もシダキュアの優位性や安全性が示されて(図参照)、晴れてこの5月から処方日数制限、いわゆる14日ルールが取れ、1か月以上の長期投与が可能となり、より簡便になります。

 

 

 

スギ花粉の舌下免疫療法は、ダニの舌下錠と比べて口腔内の刺激症状も少ないこと、皮下免疫療法に比べて痛みもなく、頻繁受診も必要なく、また舌下液シダトレンに比べて圧倒的に簡便にできることから、処方期間制限が取れたことをきっかけに、日本でも免疫療法が身近になることが期待されます。当院でも3年前の開院以来、これまでシダトレン10名、シダキュア24名、ダニアレルゲン治療薬「ミティキュア」43名、またダニ・スギの注射での免疫療法である皮下免疫療法26名の方に行っており、期待以上の効果を上げていますが、これからは花粉症の苦しむ患者さんたちにもっともっと免疫療法が身近になり、スギ花粉症の苦しい症状から解放されてゆくこととなると思われます。

 

 

豆知識 花粉症の出現の秘話

花粉症の歴史は新しいです。花粉症の症状が、初めて医学の視野に入ったのは、19世紀初頭のイギリスでした。いち早くその症状を的確に描写して、一つの病気として特定したのは、子供の頃から毎夏に花粉症の症状で悩まされたイギリス人医師の John Bostock (ジョン・ボストク, 1773- 1846)でした。当時の医学ではその病理がまったくわからなかったため、Bostock catarrh(ボストクの風邪)、summer cold(夏風邪)、hay fever(枯草熱)、hay asthma(枯草喘息)などの様々な名前で呼ばれました。

この新しいタイプの「風邪」は、19世紀の前半に非常に早いスピードでヨーロッパやアメリカで流行るようになりました。また不思議なことに、主に街に住んでいる、教養の高い人たちや富裕層の内で流行?しました。いま花粉症で悩んでいる人にとっては、ちょっと理解しにくいかもしれませんが、19世紀の後半まで、花粉症は一種のステータスシンボルでした。野暮でがさつな田舎者や植民地の原住民は花粉症にかからなかったため、花粉症は、感受性や教養が高く、進歩的で開化的な社会層の特権であると見なされ、悩みながらも誇りに思う人が多かったのです。

花粉症出現の理由は、意外なところにありました。16世紀後半にスペインの無敵艦隊を撃破したイギリスは、7つの海の制覇をたくらみ、軍艦の増産の必要性ができてきました。このため、イギリスの森は19世紀初頭から軍艦建造目的でどんどん伐採され、伐採された後に牧草地が広がり、アレルゲンとなるカモガヤが大繁殖して世界最初の花粉症が出現したそうです。なんせ軍艦1隻作るのに、樹齢100年以上のオークの巨木は2000本ほど必要だったそうです。スペインの無敵艦隊が復活できなかったのは、国内に軍艦建装用の木材がなくなったから、というから、その当時木材は国力を左右するものだったのです。それまで長く続けられてきた森林伐採は、牧草の拡大を招き、やがては花粉症という現代病の登場を引き起こすことになりました。

では罹患患者数2500万人といわれている日本特有国民病、スギ花粉症はどうでしょうか?太平洋戦争の戦後復興や都市開発で、日本で木造の需要が急激に高まりました。このため農林水産省は戦後に拡大造林政策を行い、その一環として各地にスギやヒノキなどの成長率が高く、建材としての価値が高い樹木の植林や代替植樹を大規模に行いました。スギ植林が増えるにつれ、1960年ころからスギ花粉の飛散量が増えてきました。時代は下り、高度経済成長を経て、林業が衰退し、木材も外国からの質が良くて安い輸入品に押されて国内スギの需要が低迷するようになりました。すると大量に植えたスギの伐採や間伐が停滞傾向となり、花粉症原因物質であるスギの個体数が増加したのです。一方、近現代の日本の都市化により土地が土や草原からアスファルトやコンクリートなどの花粉が吸着・分解されにくい地盤となり、一度地面に落ちた花粉が風に乗り何度も舞い上がって再飛散するという状態が発生するようにもなりました。加えて排気ガスや工場からの排気などの光化学スモッグなどを長期間吸引し続けることでアレルギー反応が増幅され、スギ花粉症を発症・悪化させているのではないか、との指摘もあります。これらの事象により、今日では離島などを除く日本各地でスギ花粉症が発生するようになったといわれています。スギ花粉症禍、まだまだ続きそうですね。

診療内容:小児科・予防接種・乳児健診
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