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シックキッズニュース5月号(No.36) 全国一斉休校措置は新型コロナ流行蔓延防止に効果があるのか?

シックキッズニュース5月号(No.36) 全国一斉休校措置は新型コロナ流行蔓延防止に効果があるのか?

昨年の今頃は令和改元の祝賀ムードにあふれていた日本。しかし今年はいつもと違うゴールデンウイークを迎えた方も多いのではないでしょうか? 3月に引き続きコロナウイルス第二弾をお伝えいたします。フォーカスするのは、小中学校で行われている「休校措置」に関して。果たして感染症防止効果に役立っているのでしょうか?早くも世界ではその有効性に関した論文が発表されています。イギリスのグループが、ランセットという臨床系ではメジャーなジャーナルの一つの姉妹紙、Lancet Child Adolesc Health(2020; 4: 397–404)に報告した、「新型コロナを含むコロナウイルス感染症やインフルエンザ流行の拡大抑制に全国一斉休校措置が効果的なのか、そしてその問題点」について検証した論文をご紹介します。

 

今月のフォーカス 全国一斉休校措置は新型コロナ流行蔓延防止に効果があるのか?

 

3月2日に全国一斉休校措置が取られてはや2ヶ月。緊急事態宣言は5月いっぱいまで延期されることが決まりましたが、学校の一斉休校は段階的に解除されることになりましたね。大分は県立高校が11日から、クラスを分けて登校させるなどの措置をとり再開されることになりましたが、4月28日の報道によると大分市の小中学校は、5月末まで延長することに決めたそうです(???)。

そもそもなんで小中学校が全国一斉に休校措置が取られるようになったのですか?なぜ3月2日からだったのですか?いつになったらどうなったら学校が再開されるのですか?最近では9月新学期スタート説を唱える人も出てきて・・・。首相は何でもかんでも検討するらしいですが、あまりにもすべてが猪突過ぎませんか?2月27日に首相が突然言い出した時に、違和感ありませんでしたか?休校措置や学級閉鎖は、インフルエンザの流行の時によくやられます。中国や香港でも1月の蔓延期に全国一斉に休校しました。首相のブレインの誰かがこの辺から発想を得たのでしょうか?少なくともいわゆる感染症専門家グループの人たちも耳に水の発表だったようです。

ところで先月4月に、過去のインフルエンザ、SARSやMERS、そして今回のCOVID-19(以後「新型コロナ」と称します)流行での全国一斉の休校措置が感染症蔓延にどれくらい寄与したのか、また休校措置の負の側面に関して、過去の論文を調べて調査、検討した論文が一流雑誌から報告されました。これから新型コロナでの休校措置の影響の検証が進むにつれて、どんどん論文が出てくるとは思います。とくに新型コロナに関しては、3月中に休校措置を解除していたのは台湾くらいなので、まだまだ検証が足りないとは思いますが、新型コロナ以外のSARS、MERS、風邪コロナ流行時の休校措置の影響も書かれているので、読んでみました。大変興味深いものでした。お子さんをお持ちの皆様方の関心も高いと思いますので、ご紹介いたします。大変長いものですが、このような国難ともいえる時期に、科学者は過去の経験を詳しく検証して、バランスをもって有用な情報を世界に向けて発しているのか。今の早期お段階でも大変得ることが多い有用な論文だと思います。実際論文が大変長くて、イマイチ翻訳がおかしいところがあるかもしれず大変読みずらいとは思いますが、ぜひ頑張って読んいただき、皆様がたにも感染蔓延期の休校措置についてじっくり考えていただけたら幸いです。

紹介する論文は、Lancet Child Adolesc Health(2020; 4: 397–404)に掲載されたイギリスの研究者が過去の論文を解析したレビューです。タイトルは「School closure and management practices during coronavirus outbreaks including COVID-19: a rapid systematic review:速報:新型コロナを含むコロナウイルス感染症流行中の休校措置に関するレビュー」です。

イントロダクション

大変長いイントロダクションです。が、論文投稿者が執筆中は新型コロナに関してまだ流行収束をしている国が中国、台湾、香港くらいだったので、過去の流行について詳細にまとめたこのイントロ部分がこの論文のここが肝となります(ブログ筆者コメント)。

WHOが3月12日に新型コロナのパンデミック宣言をした直後の3月18日、ユネスコは、107か国で学校の休校措置がとられ、世界の半分、8億6200万人のこどもが影響を受けていると発表しました。その後も日本をはじめ、休校措置をとる国が増えてきています。休校措置ですが、インフルエンザの流行を抑える際に行われることが多く、実際効果があったとするエビデンスもあります。ただ休校措置をとることで、市民の接触機会が半分に減った一方、当然学校以外の自宅や外での子供や大人同士の接触は増えたという報告もあります。休校措置が何となくよさそうに感じるのは、こどもが流行の蔓延に大きく寄与するインフルエンザの流行時の経験からきているのであり、新型コロナはもちろんのこと、SARSやMERSでさえ、休校措置が本当に流行拡大抑制しているのか、本当のところはわかっていないのです。

インフルエンザの流行のとき、どれくらい休校措置が流行拡大防止に寄与していたのか。イギリスの保健省は2014年に100の疫学調査と45のモデル調査のシステマテックレビューを行い、流行の初期に休校措置をとればインフルエンザの流行拡大阻止に有効であると結論付けました。インフルエンザの場合は、累積感染者数ではなく、感染ピーク数を抑えることができたようです。大事な点は、インフルエンザのように基本再生産数(一人が何人に感染させるか、RO)が2未満で新型コロナみたいに感染力がそこまでないこと、そして大人より子供で感染数が多いことで早期の休校措置が流行のピークの規模を抑えられたようです。どれくらいピーク数を下げれることができたか?2018年の31の論文をレビューした解析によると、一斉休校措置でインフルエンザピークの数を平均29.7%下げ、平均11日間ピーク到来を遅らせる効果があったそうです。一方2015年のレビューによれば、インフルエンザ時の休校措置の患者減少効果は1%から50%とまちまちで、あまり効果がなかったケースでは、休みになった後に最大70%のこどもたちが外で会って遊んでいたため、と考察されています。2020年今年発表されたシステマテックレビューでは5歳から17歳、つまり学童学生に対する休校措置は確かに効果がありましたが、学校再開したらまたインフルエンザの流行が起きてしまうという問題も浮き彫りにされました。いろいろありますが、うまくやればインフルエンザのケースでは一斉休校措置はおおむね有効で妥当のようです。

休校期間は親が仕事を休んで家にいなくてはならず、職場でのヒトとの接触が減ることも流行蔓延阻止効果がある理由なのかもしれません。一方、一斉休校措置の問題点も浮き彫りになりました。経済的なマイナス面に加え、祖父母にこどもを預けることによる高齢者への感染リスク、給食がなくなることによる栄養面の悪影響も指摘されました。心理的にも大きな影響を及ぼすこともわかっています。無計画な休校措置によってこどもの活動性がおちたという報告もあり、特に年長児や休校措置反対の親の子に影響が強い傾向にありました。

様々な問題点の中でも経済的損失は無視できません。2008年のイギリスのデータでは、大人の労働力が子育てに占める割合は約16%に上り、こどもの世話のために仕事に行けない労働者が増える危険性があり、特に医療・介護施設では働きにでれない従業者が30%にまでのぼったと報告されました。アメリカでは、非公式な見解ですが、やはり医療従事者うち29%がこどもの養育が必要であったと試算されています。イギリス、フランス、ベルギー、オランダのモデル研究によれば、4週間、あるいは13週間の休校措置が感染率を下げる効果はしょぼいものですが、一方親が仕事に行けないことによる経済的負担はとてつもなく大きいことが示されました。イギリスでは12~13週の一斉休校措置にかかる費用は国民総生産(GDP)の0.2%から1%と推定され、アメリカでは8週間の一斉休校措置にGDP3%を要したそうです。中国や香港でのインフルエンザ休校措置での解析では、費用対効果からみて、都市部全体で行うより地方で限定的に行う方が効果は高かったとされています。休校措置があろうとなかろうと、インフルエンザの流行期間は病気の発症、あるいは予防のために学校や仕事を休む率が大変高い。ということは、学校の先生も病気で休むケースがあり、はからずも学級閉鎖になります。休校措置より軽い措置、例えば、どうしても仕事に出ないといけない医療従事者などのこどもだけ学校で預かる方式に関しては十分な検討がなされていません。

全国一斉休校措置という厳しいやり方のほかにも、接触を減らす方策はあると思うのですが、実際には休校以外の措置は試されていないのが実情のようです。2018年のレビューで、休校措置よりも軽い方策、例えば日本でインフルエンザ蔓延期に行われる学級閉鎖学年閉鎖、運動場閉鎖、必修科目のみの授業にする、生徒をクラスから出さない、生徒と生徒の距離を話して座らせる、授業日数を減らす、クラスや学年ごとの変則登校時間、などで検討をしています。例えば台湾では2009年の新型インフルエンザ流行時には一斉休校措置ではなく学級閉鎖を行いました。生徒は担任の先生と一緒に自分のクラスにとどまり、専任の先生たちが教室に赴いて授業を行いました(日本の中学、高校では一般的に行われているやり方ですが、外国では受講する科目ごとに生徒が教室を移動する方式が一般的なのでしょう:ブログ筆者コメント)。この方式で社会的な損失はほとんど出すことなく十分に接触を減らすことができたとのことです(つまり日本の部分的閉鎖措置は正しい:ブログ筆者コメント)。

今年の3月22日までに多くの国が新型コロナを打ち負かすため国内一斉の大規模な休校措置をとっています。理由に科学的根拠はなく、多分インフルエンザ流行阻止に効果があったから新型コロナでも有効なんでないかい、という希望的観測に基づいて行われているようです。残念ながら、新型コロナではインフルエンザほど休校措置は効かないんじゃないかと思わせる科学的根拠がいくつかあります。インフルエンザではこどもの免疫力が低く、かかれば症状が出現しやすいこともあり、こどもがインフルエンザの流行に大きく関わっているのは周知の事実です。一方新型コロナは、これまでの知見からみて、こどもでは予想よりはるかに低い診断率で、これにはまだいろいろ言われているが、どうやらこどもも普通に感染しているけど、症状が出ない、又は軽症のようです。中国でのこどもの新型コロナ報告数が極めて低い理由が、こどもは実際感染しにくいのか、あまりに軽症もしくは症状がなく見逃されているためか、あるいは一人っ子政策などの特殊な理由があるのかはいまだ不明です。家族内感染に関しては感染の広がりに重要な役割を果たしているのは確実ですが、こどもからこどもへの感染や学校内感染に関して、どれくらい感染拡大に影響しているのかわかっていないことが多いのです。

過去にあったコロナウイルスの流行、例えばSARS、MERSの流行時の休校措置に関しては流行に歯止めをかける効果はほとんどなかったことが既に報告されています。中国の速報データによると、やはり新型コロナが学校内で流行していることを示唆するようなものはありませんでした。台湾は4月3日に新型コロナの流行をうまく抑え込んだと思われたが、国内一斉休校措置は取らず、地域の流行に合わせて段階的、限定的に休校させています。国の政策立案者は情報が少ないにもかかわらず、どうしないといけないか即断即決しないといけないです。国内一斉休校措置を行うべきかどうか、このため、これまで発表された休校措置と流行拡大阻止に関する研究論文を詳細に検討し、実際に新型コロナで一斉休校は効果があるのか、費用対効果はどうなのか、一斉休校以外の方策は流行拡大防止に効果があるのか検証してみました。国の政策立案者たちが休校を決定する際のヒントになれば幸いです。

検証の方法

コロナウイルス感染症流行時の休校措置やそれ以外の接触制限措置の効果を検証するために、幅広く多様な研究論文を集めて検証しました。学校や保育所に関するものならばすべて検証の対象に含めました。論文の言語制限を設けず、2020年3月9日と3月19日に電子データベース検索を行いました。検索に使用した単語は“SARS”、“MERS”、”coronavirus”、“COVID-19“、”schools”、”nursery”、”child day care”、“preschools”、”kindergarten”、”child”、”infant”、“baby”、”pediatric”などのキーワードをPubmedやWHOのグローバルリサーチデータベース、medRxivでサーチしました。

結果

Pubmedサーチで119の論文(22の主論文と8つのレビューを含む)がヒットしました。WHOのCOVID-19グローバルデータベースから17編の論文が、それにmedRxiv(速報記事、ネットのオープンアクセス、重大な発見をとにかく早く報告できる一方、査読されていないものも多く注意は必要:ブログ筆者コメント)では36編の無査読論文を含む480の論文と8つのレビューがヒット。それを取捨選択して14編の論文に絞り込みました。またハンドサーチで1編の参照文献と1篇の未査読のモデル研究論文を加え、合計16編の論文を検証しました。

すべての論文で2003年のSARS流行について触れています。コロナに関しては、1篇で風邪コロナ(229E、NL63、OC43、HKU1)での休校措置について、5つの発表前論文と1篇の既発表論文が新型コロナについて論じています。全16論文の内訳ですが、6篇はSARS流行時の休校措置の効果分析で台湾、シンガポール、中国北京から。2編がSARS流行時の学校内流行と休校措置の効果に関して。1篇がSARS流行時の休校措置に伴う医療従事者への影響についての質的研究。5編の発表前論文は中国と香港での新型コロナ流行時の休校措置について。1篇の発表前論文は風邪コロナの冬季流行時の休校措置についての検証。1篇はイギリスでの新型コロナ流行時の休校措置についての検証でした。

・休校などの学校に関する接触制限の効果について

2020年1月終わりから、中国国内全土で一斉休校措置が取られました。当初は、新型コロナ流行拡大阻止のため、大規模な都市封鎖の一環として行われ、春節休暇終了までの計画でした。どの時期から始めるのが効果的であったかの検証は、中国全土で一斉に行われ、比較対象がないのでできていません。この中国の新型コロナ対策としての一斉休校に関して2編の論文で検証され、中国全土での新型コロナの封じ込めに効果があったと結論付けられていますが、休校措置をとらないケースとの比較検証が行われていないので、どれくらい貢献できたかについては検証できませんでした。

まだ未発表論文ですが、香港からの報告。香港では1月下旬に初めての感染者が出た1週間後の2月1日から4週間の休校措置の検証結果が発表されました。やはり都市封鎖措置に組み込まれて行われました。当初、休校期間は4週間の予定だったのですが、3月まで延長、結局4月にまで再延長されました。これら休校措置を含めた都市封鎖で、基本再生産数ROを1以下にまで下げることができ、流行蔓延を阻止できたとしています。中国からの論文では、その他外出制限措置とくらべ休校措置に効果があったのか、データを得ることはできませんでした。コーリングらの論文によると、香港では新型コロナで人と人との接触が44%制限されたとのことですが、これは2009年の新型インフルエンザの際の10~15%の減少をはるかに凌駕するものでした。

SARS流行の際、北京で2003年4月24日から6週間の予定で休校措置をはじめましたが、これも結局2か月以上延長されました。残念ながらSARSでは休校措置ではほとんど感染蔓延防止にならなかったと結論づけています。おそらくSARSのこどもの罹患率がとても低く、休校しても意味がなかったのではないかと考察しています。別の北京からのSARSの報告でも、基本再生産数(R0)がすでに1を切っている段階で休校措置をとっても流行防止にあまり影響しないだろうと結論付けています。シンガポールのSARS流行時の対策として、6歳から16歳のこどもの全員に1日2回体温測定を義務付けて、12歳以下であれば37.8度以上、それ以上の生徒は37.5度以上で登校禁止措置をとりました。が、この体温スクリーニングでSARSを発見できた例は皆無でした(骨折り損のくたびれ儲け:ブログ筆者コメント)。結局シンガポールのその後2003年3月27日から3週間の休校措置にきりかわりました。台湾では2003年のSARSの流行時や2009年の新型インフルエンザ流行時に、学校施設を医療崩壊が起きた際の代替施設として指定できるようにしました。2009年の新型インフルエンザ時には学級閉鎖を行ったけれども、SARS流行時には学校で休校を含め人込みを避けるような措置は一切取らなかったそうです。香港ではSARSの流行の際、多くの学校で休校措置は行いましたが、一部は授業を続けました。しかし学校を通してクラスター形成したようなケースはなかったそうです。ジャクソンたちは2019年2月にシアトルで冬季感冒防止目的に5日間一斉休校したケースを調査しています。風邪コロナでだいたい5.6%の発症を防げたと見積もられたそうです。ソ連型インフルエンザで7.6%減少とほぼ同様。香港型インフルエンザで3.1%だったので、香港風邪に比べたら風邪コロナやソ連型フルでは効果はあったようです。

・モデル研究での休校措置の評価

今回の新型コロナ流行において、武漢で休校措置を含む都市封鎖が流行阻止に及ぼす効果を調べるモデル調査が行われました。結論としては、都市封鎖は最終的な流行の規模やピーク、それにピークを遅らせる効果があったようです。しかし、休校措置が他の封鎖措置とくらべて効果があるのかに関しては解析していません。また都市封鎖をいつになったら緩めることができるか検証していますが、2か月の短期間のロックダウンは第二波の感染爆発が起きるリスクがあるが、3か月以上の長きにわたる封鎖を行えば第二波は来ないという予想になりました。

1篇だけですが、休校措置単独での新型コロナ流行阻止効果を検証したモデル研究がありました。査読は受けていませんが公式な機関からひろく引用されている論文です。ファーガソンらの検証で、休校措置を含むさまざま人込みを避ける措置と、それらの組み合わせでどれくらいの効果があるかをモデル研究で推定しています。このグループは、イギリスの人口動態と学校分布を、武漢でのCOVID-19流行のデータに当てはめて、休校措置や都市封鎖をしたときの効果をシュミレーションしました。過去のインフルエンザ流行時のデータから、学校では、世帯や職場、地域社会に比べて約2倍のヒトーヒト接触が認められ、これによりインフルエンザでは全体の約三分の一の感染は学校で起きていると予想しました。一方、全小中高校と四分の一の大学を休校措置とる場合、家庭でのこどもとの接触は50%増加し、市中でのヒト―ヒト接触も25%増加するという負の側面も浮かび上がりました。結果、休校措置で新型コロナ流行によるイギリスでの死亡率は、わずか2~4%だけしか減らすことができないと予想しました。こどもが感染蔓延に大きな役割を果たすインフルエンザの流行のケースとは異なり、新型コロナでもSARSなどの他のコロナ同様、休校措置がもたらす流行蔓延抑制効果は不十分といわざるを得ないという結果になりました。

SARS様の疾患では一斉休校措置で基本再生産数を12~41%程度減らすことができるようです。予測減少幅が大変広いですが、その減少の程度は日中にどれだけこどもが家族と接触してしまうかどうかに依存するようです。SARSは急速に抑え込みに成功してしまったために、SARS封じ込めに何か良かったか疫学的要因を評価するのは難しいようです。

ちなみに病院と学校内での感染状況を、2003年のSARS流行時のデータを使用して行った台湾のモデル調査では、病院内では基本再生産数が平均2~6であるのに対し、学校内での基本再生産数は1を切る程度であったとされています。

・休校措置が引き起こす幅広い社会的な問題

今回SARS流行について解析した論文の中で、SARS患者にたずさわった100人のカナダの救急部門で働く看護師の調査で、医療従事者が職場と家庭のはざまで苦労したことが浮き彫りにされました。とくに問題となったのは、休校措置や保育所が閉鎖されたときに、子供の世話を誰がみるのか、家庭と仕事でジレンマに陥るケースが目立ったそうです。医療従事者を最大限活用するには、それらの家族を守るために十分な手立てを施すことが必要とであると結論付けています。

今回の調査結果を受けて、まとめの討議

本レビューは、コロナウイルス関連感染症流行の際の休校措置やほかの接触制限に関するデータをまとめた最初の論文である。とはいえ、まだ新型コロナが収束していないさなかであり、9編の公表論文と7編の未査読の論文の計16篇しか解析に足る論文を集めることができませんでした。このように、コロナウイルス関連の流行に関して、休校措置の有効性を検討したデータが著しく少なくまだまだ足りないことが判明しました。もちろん、まだ新型コロナ流行は収まっていない時期であり仕方ないことかもしれませんが、過去のSARSやMERSの流行でも休校措置が有効であったかどうか十分検討してきたとは言えないし、これらのコロナ流行時の休校措置の費用対効果の検討でさえまだ全く検討されていませんでした。休校措置以外の学校での接触機会減少を促す措置に関するデータも得ることはできませんでした。

中国、香港、シンガポールでの2003年SARS流行の際のデータからは、学校がクラスターの発生に重大な影響及ぼすという証拠はなく、よって休校措置や学生の体温モニタリングは感染拡大措置には何の効果もありませんでした。休校措置が流行拡大阻止に一定の役割をした可能性はゼロではないかもしれないけれど、流行拡大の初期にはまだ普通に開校していたので、流行蔓延期になってあとから慌てて閉めても果たして効果があるのでしょうか?

モデル調査の結果は2つのグループの意見は割れました。イギリスのグループはこどもが日中一人で誰とも会わなければ、休校措置で基本再生産数を41%まで下げることができると主張しているのに対し、台湾のグループはそもそも学校内での基本再生産数はすでに1を切っていたと主張しています。

2020年頭から中国や香港では早くから一斉休校措置をとっています。中国全土の広範囲の移動規制とパッケージで行ったため、休校措置の効果を比較検証できるデータをうることができませんでした。論文の筆者は、休校措置は大規模な都市封鎖の一環として行い、ある一定の効果はあったようだ、と結論付けています。これを支持するデータを出してはいませんが、実際休校措置に感染蔓延防止があるか解きほぐすのは難しいのかもしれません。

新型コロナ流行蔓延のモデル調査では、都市封鎖など人込みを避けるさまざまな施策とのパッケージで全国一斉休校措置も行うことに関して肯定的でした。しかし休校しても今度は家庭や社会での接触が増えてしまうことを考えると、休校措置が流行阻止に与える影響は限定的と言わざるをえません。休校措置の効果に関しては、ほとんど効果がないとするものから実際に有効だったとするものまで一定の評価は得ていないのが現状ですが、休校措置で確実に起きることは、経済的なコストを押し上げ、経済活動に悪影響を与えることです。

休校措置のコロナウイルス感染症流行拡大阻止効果の研究が少ないので、研究が多いインフルエンザ流行期の休校措置の効果に目を向けてみましょう。インフルエンザに関しては休校措置が流行拡大やピークを減じさせるのに有効であるとする研究がたくさんあります。しかし、血清型の違い(香港型やソ連型など)で休校措置の有効性に差があるのも事実です。特に感染力や症状が強いこどもでは、基本再生産数があまり高くない(つまり感染力が比較的低い)血清型のインフルエンザ(R0が2を切る)に関しては、休校措置が流行拡大を止めるのみ有効であることはこれまでの研究でわかっています。今回のSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)では、休校措置の効果は、まだ多くのデータがあるわけではなりませんが、残念ながらインフルエンザのようにはいかないでしょう。基本再生産数はインフルエンザより高いといわれ(ROは2.5以上)、こどもは大人と同程度の感染力とは言われていますが、大部分は軽症あるいは無症状で、(正確なところはまだ不明ですが:ブログ筆者コメント)咳や鼻汁を介してウイルスが広がる飛沫感染はあまりおこっていないようにも思えます。実際に基本再生産数が今回のコロナと同程度(ROが2.5から3.5)で感染力が強かった1957年のアジア風邪(香港型インフルエンザ)では、一斉休校措置の感染拡大抑制効果は10%以下としょぼいものであったことがイギリスから報告されています。休校しても実際には民間の託児所や学童保育に預けたり、町で友人と遊んだりしていることを考慮してもモデル研究などで想定された有効性はないだろうというのが本当のところでしょう(今回日本でも同じような風景が見られています:ブログ筆者コメント)。新型コロナのように高齢者が重症化しやすく死亡率が高い感染症だと特にこの点は大変危険で、やはりイギリスの40%前後の祖父母たちは日常的に孫の世話を引き受けているというそうです。結局、新型コロナのような感染力の強い感染症では、国内一斉休校措置の蔓延防止効果は大きくなく、臨床的にもあまり異議はなく、むしろ経済的、社会的に悪影響が強すぎるとのではないかという論調になっています。

休校措置や都市封鎖が流行拡散防止に有効だ、無効だ、などというにはデータがまだまだ足りないようです。また一斉休校措置の新型コロナの流行阻止効果は、こどもの新型コロナの感染しやすさや感染後の感染力が強いかどうかに依存することはわかっているので、こどもが新型コロナにかかるとどうなるのか、もうすこし詳細なデータも必要です。ところが、今回のように、全国で一斉に休校措置が取られ、しかも都市封鎖などほかの蔓延防止策が同時に実施されている場合は、比較対象がない(つまり休校措置を取らなかった場合のデータが取れない:ブログ筆者コメント)ので、きちんとした検証ができません。今後、新型コロナが終息した後に、流行蔓延対策で各国が行ってきた都市封鎖や休校措置など、やり方が異なる方法で行われていたはずなので(例えば、開始時期、両親が在宅勤務かどうか、一律ではなく段階的な学級滑降閉鎖や閉鎖解除などなど)、それらを一つ一つ検証することで有益な情報が得られるかもしれません。

この調査の結果は、国民を守る政策立案者たちに様々なジレンマにおちいらせるでしょう。「休校措置が流行蔓延を劇的に収束させることは常識だろう」と思ったから国内一斉休校措置をとっているのでしょう。インフルエンザでは実際そうだったし。しかし流行中の学級閉鎖には非常にコストがかかります。新型コロナ流行時に全国、あるいは地方の休校措置をとろうとする政策立案者たちは、新型コロナのことはたとえ専門家でも(ブログ筆者コメント)本当はまだあまりわかっていないということを認識する必要があります。政策立案者には学校閉鎖やその期間、閉鎖解除のタイミングの決定には相反するたくさんの要素があり、それらのバランスをとりながらやらなければならないという難しいかじ取りが求められます。特に、休校措置により医療従事者が育児に大変負担がかかるなど、医療遂行維持に重大な問題が生じる恐れがあることを忘れてはならないでしょう。

休校措置をとる国々は急速に広がっています。厳しい都市封鎖で国民に自粛疲れが襲う前に止めたいが、どのくらい期間行えばいいのかは依然不明です。場所によっては、数か月いや年単位で行う必要があるという人もいます。だからこそ、どのようにすれば国はこどもたちを安全に学校に戻して教育を受けさせることができるのか、親を仕事場に戻すことができるか、明らかにするのは喫緊の課題です。教育は国の将来の担い手を育て、健康で豊かな国にするのに最も大事なものの中の一つです。長期間の休校措置に伴う教育の劣化、収益ロス、若者の健康、将来の国の生産性に及ぼすの影響は想像がつきません。

新型コロナが徐々に減ってきた国では、都市封鎖の程度を徐々に緩め始めたところもでき来ています。執筆中の3月の時点で、中国の一部では学校再開が始まっています。学校再開が新型コロナの再流行を促していないか注視する必要があります。休校措置をとらなかった国がどうなったか注目する必要もあります。台湾は2月下旬の早い段階で学校再開に踏み切りました。大規模な休校措置は取りませんでしたが、台湾は新型コロナの流行を最小に抑えることができたといえます。政策立案者や研究者たちは、全国一切休校措置のような混乱や悪影響が大きいものではなく、より社会的な影響の少ない段階的な閉鎖(発生地のみの一時的段階的な閉鎖)などの接触軽減措置にも実質的な感染蔓延抑制効果があるかどうかきちんと検証する必要があります。このような段階的な措置は今のところ強く示唆する証拠はありませんが、混乱を最小限に抑え、財政コストを抑え、社会的問題を抑えて現実的である可能性はあります。新型コロナの流行が終息傾向に至り、学校再開の指針を立てるためにも、今回の経験を糧にして徹底的に調査してよりよい方策を探ることが必要です。

以上が論文の和訳です。で、結論は・・・

〇 インフルエンザとは違い、新型コロナやSARSなどでは全国一斉の学校の休校措置に流行拡大を止める効果が薄い(ないことはないでしょうが)。

〇 一方、休校に伴うこどもの様々な悪影響(生活習慣の破綻、栄養状態の悪化・・・給食がないので食事ができないこどもが実際に存在する、学力低下、運動機能低下、情緒的問題、社会問題)。それ以外にも財政コストがかかる、親が職場に行けない(特に医療介護従事者について検証されていました)、経済的影響、など負の問題は確実にやってくる。

科学的にコロナの休校措置に有効性は低く、逆に社会的問題は少なくないことはわかりました。だからといって、もし意味がないし害のほうが多いからやめましょう、という勇気のある上の方、いたでしょうか?いないでしょう。休校措置を辞めますと報道しただけでもやばいのに、万一休校やめて校内でクラスターが1件でも出てしまったら・・・学校関係者、校長先生や教育委員会、県知事、市長さんたち、それに感染したこどもたちやその御家族はどんな目にあうのか。これがあるから悪い予感がしていても声をあげれない、外れたことをしてぼこぼこにリンチにあうくらいならば声をあげずみんなで集団自決したほうがまし・・・みんなで渡れば怖くない・・・本当に怖い。

でも我々小児科医は、「こどものアドボケーター」(いわゆる代弁者)という重要な役割があります。こどもは国の宝です。その大切なこどもにとってかけがえのないのは「学校」というコミュニティーです。時と場合によっては家族よりも大事かもしれません。オンラインで授業すればいいだろう、と話をすり替えてはいけません。みんなで集って先生から学んだり、給食を食べたり、遊んだり、喧嘩したりする「場所」がこどもたちには重要なのです。コロナにかかれば多くの子供の命が危険にさらされるという事実でもあれば別ですが、「大切な人を守るため、今は我慢しましょう」とかいう、いつか聞いたことのあるような美名のもと、コロナでいつまでも休校措置にして、こどもを家に塩づけにしてしまってホントにいいのでしょうか?

事実、今回うまく収束させた台湾は休校を2月中にはやめたそうだし、そもそもスウェーデンは休校措置や非常事態宣言などしておらず、ソーシャルディスタンスの呼びかけだけで集団免疫をつけさせようとしています。イギリスでは、この戦略は途中で医療崩壊が起きてしまい、あろうことか首相や閣僚まで発病してしまい無残にも失敗しましたし、アメリカのトランプ大統領などはスウェーデンのコロナの死亡率がアメリカより高いことを声高に主張して自分への批判を必死にかわそうとしている模様です。しかし判断するのは時期尚早。疫学者の数理モデルによれば、5月中には集団免疫を得ることができる、と自信を持っているそうです。感染爆発が起きたヨーロッパやアメリカだけでなく、日本国内でも実は免疫抗体ができている層が無視できないほどに多いことも判明しています。これを見てもスウェーデンの疫学者が豪語するのもうなずけます。ホントのところスウェーデンはどうなっていくのか?いま日本でワイドショーのコメンテーターや政治家たちをおびえさせているコロナはホントに強毒コロナなのか??ヨーロッパやアメリカ、武漢に比べ、日本だけ異常に軽症が目立るようにみえるのはなのはなぜか?ほんとは弱毒株かも?伝染している間に弱毒化していくのか?インフルエンザの時期に第2波、第3波が来たらどうなるのか?今のうちに免疫つけていなくて丈夫なのかな?などなど、実はどうなのか?はやく早くいろいろ知りたいところです。これからもコロナ関連の新発見、注目です。

編集後記

今日の5月5日、ある病院施設で番をしています。昼の検食にこどもの日ランチが出ました。私の大好きな鯉のぼり(ブログ・鯉のぼりの思いでも見てください)を模した玉の寿司です。コロナコロナで、小児科医なのにすっかり今日がこどもの日であること忘れていました。最近朝ドラのエールで古関裕而が脚光を浴び、昔の歌もラジオから流れるようになりましたね。で、鯉のぼりの歌。作詞者は不詳だそうです。作曲者は古関裕而ではありません、念のため。

甍の波と雲の波、重なる波の中空を、橘かおる朝風に、高く泳ぐや、鯉のぼり。

開ける広き其の口に、舟をも呑まん様見えて、ゆたかに振う尾鰭には、物に動ぜぬ姿あり。

百瀬の滝を登りなば、忽ち竜になりぬべき、わが身に似よや男子と、空に躍るや鯉のぼり。

診療内容:小児科・予防接種・乳児健診
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