当院で3歳未満の乳幼児にアレルギーの採血の検査を原則していない理由

まずまじめに、言っておきたいことがあります。私は大分県の小児科診療所では今のところ唯一の小児科分野の学会認定アレルギー専門医であり、こどもさんの食物アレルギー診療においては、日本小児アレルギー学会が編纂した「食物アレルギー診療ガイドライン」の最新版である2016年改訂版に沿った診療を心がけていることは誓えます。また、3歳以上のお子さんには、診療上必要をみとめ、保護者の方が希望されれば、普通にアレルギーの採血検査も行っています。2歳までの赤ちゃんでも、必要に応じてプリックテストなどの皮膚テスト小児食物アレルギー負荷検査もどんどんやっています。そのうえで、当院では3歳未満の乳幼児に採血を行っていない理由をご説明します。医学的理由と経営的な理由です。

医学的理由

  • 食物アレルギー診療ガイドラインには、2歳までの乳幼児の食物アレルギー(多くはアトピー性皮膚炎の状態)では、スキンケア、ステロイド軟膏療法、環境整備の指導をすることが先決で、採血検査はそれでも改善しない場合に考慮する、と後回しになっています。

 

  • 残念ながら現行法では、鶏卵、小麦、牛乳、ピーナツの4品目で、食物経口負荷試験の陽性率がわかるだけです(しかも現時点では古くからおこなわれているイムノキャップ法で行われている場合に限る)。血液検査の値がわかっても、どれくらい食べられるのか、いつになったら食べられるのか本当に知りたいことはわからないので、食物アレルギーの診療にあまり役に立たっていません。

 

  • 乳幼児の採血は大変難しく、採血量も多く、侵襲性が高い検査の部類にはいります。

経営的理由

  • 当院のように小児科を標ぼうしているクリニック(いわゆる町の小児科医院)は、3歳未満の乳幼児の保険診療は、小児科外来診療料という包括制で診療報酬をいただいています。検査会社に支払う検査代は患者側ではなく医院側の負担となり、アレルギー検査のような高価な検査を行うと、小児科外来診療料をいただいても一人当たり1万円以上の赤字となります。

 

長文になりますが、詳しく説明させてください。採血での検査に関して、採血結果でアレルギーがわかると信じている方は多いです。しかし食物アレルギーの診断を含む診療はそんなに簡単ではありません。“食物アレルギー研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017 7ページ”に、「抗原特異的IgE抗体陽性(=感作されていることを示す)と食物アレルギー症状が出現することとは必ずしも一致しないことを念頭におくべきである」と最初に明記されています。

例えば、採血検査や皮膚テストで感作が証明されていなくても食べればアレルギー症状を起こす人もいるし、逆に感作が証明されている人でもどんどん食べて症状が出ない人もたくさんいます。一番有名な例は、「新生児ー乳児消化管アレルギー」の赤ちゃんはIgE検査をしても全く上昇がなく、しかしミルクなどを飲んだら激烈なアレルギー症状をきたす病気もあります。採血検査でアレルギーかどうかわかるのであれば、アレルギー科やアレルギー専門医は不要です。

採血をイムノキャップ法で検査された場合は、卵白、牛乳、小麦、ピーナツの4品目に限れば、年齢によってIgEの値がこの数字であれば、どのくらいの確率で、食物経口負荷試験(例えば茹で卵1個たべる)をしたら陽性になるかはわかります。「確率」なので、お宅のお子さんが食べたときに起こすか起こさないかは、経口負荷試験をしないとはっきりしないけど、確率が高ければ最初から負荷試験する際に負荷する量や調理法を指定することができます。負荷試験の際に参考になるので、負荷試験していない施設や検査値の解釈ができない施設でやっても、保護者を混乱させるだけです。そもそも4品目以外の食物(エビやイカ、タコ、果物、さかな、などなどのたくさんの食べ物)に関しては、その値が示すことといったら感作されている、ということを示しているだけで、負荷試験陽性率もまだ研究段階で公開されていません。負荷試験をしてみないとどれくらい食べられるかわからないのです。

プロパビリティーカーブ

それ以上に問題のケースも見られます。一番問題なのは、コメを含めて離乳食で使用する食材すべて検査をして、例えばすべて陽性でコメまで陽性だったため、これまでたべていたものも陽性だからダメ、結局食べるものがなくなり芋しか食べたらダメ、母乳の場合は、お母さんもお米ダメ、芋だけはOK、と指導されることがホントに起こっていることです。さすがにここまで言われると、保護者のほうがおかしいのではないかと思い、ネットで調べたり、他の病院にいってセカンドオピニオンを聞いたりして、考えを修正していることが多いとは思います。けれども、いらない検査をしたがために、保護者の方のほうが神経質になられ、自分で勝手に密かに食べられていたものまで除去してしまい、本当に食べられない子供になったり、栄養障害をおこしたり・・・知ってしまったがためにおこってしまう問題も多いのです。

今では信じられませんが、私が医師になった1990年初頭は、食物アレルギー診療ガイドラインもなく、アレルギー診療は自己流でやっていた時代がありました。湿疹などでアレルギーを疑う猪口才な医者(私も含んでいた)がアレルギー検査をして、ほら陽性だ!と鬼の首でも取ったように保護者に説明、陽性のものはすべて除去を指示していたことも本当にあったのです。そこで普通の親であれば、私のようななりたての医者の言うことを聞くような方は“幸いにも”おらず、だんだん知らないうちに気にせずどんどん食べさせて、いつの間にか食事が食べられるようになっていました。ところが、アレルギーを持った親御さんで、我が子がアレルギーで全身真っ赤になってしまったショックからか、罪悪感のためか几帳面になられるかたもいて、本当に医者のいうことをまじめに聞いて、つなぎを含めて除去される方もいました。そのようなしっかりきっちりした方のお子さんに限って、本当にその食物が食べられなくなるという笑えない話も本当にありました。

こんなそこまで大事とは思えない検査(と言うと語弊がありますが)のために、1歳にもならないような赤ちゃんの腕に、緊急性もないのにブスリと針を刺して5mL以上、時には10mL近く採血することになります。ここまで聞けば、「なんか病気を作るために、かわいい赤ちゃんに何度も針を刺して検査をしている」ようにも思えてきます。

保護者の方の中には、保育園、幼稚園、こども園の入園のために、あるいは毎年1回は採血検査結果を添付した診断書をください、と園から言われました、といって来られる方もいます。必要ないから、と説明し、診断書にその旨を記載しても、園からは役所バリの、「決まりだから…」とのセリフをいわれて、どうしても聞かない園もあるそうです。我々医師でもアレルギーの検査の結果解釈はむずかしく慎重に扱わないといけないのに、どうして医学的な知識がない園の方に検査結果の解釈ができるのだろうか、と大変理解に苦しみます。そもそもこの園の方針は、医師の診療の裁量権を犯しているばかりか、採血データをむやみに人に見せるという個人情報保護義務違反にも当たる場合もあると考えています。医学的には必要性を認めない検査データがどうしても必要な場合、健康診断と同じように公的な健康保険は使えません。つまり自費診療となります。通常13項目のアレルギー検査をした場合、検査料と診察料合わせ、自費診療の場合、普通のケースでアレルギー採血検査13項目で2万円以上(診察料3,620円+検査料17,040円)かかるので、保護者の方に多大な負担を強いてしまいます。未就学児の保険診療はタダだからしてもらったら、とけしかける方もおられるそうです。確かに親御さんの払うお金はタダ、かもしれませんが、3歳以上の場合、3割は公的保険から、7割は皆様も納めている市県民税から出ていること、また、2歳までは高額な検査料は小児科診療所が負担しているので、診療料数千円ほど診療報酬を支払基金からいただいても焼け石に水。採血検査をされている小児科のクリニックは、多くは包括制なので1万円以上は赤字だけど「やせ我慢」してやっていることをお忘れなく。

患者さんの大部分が、経費がほとんどからない鼻水などの感冒や下痢などの胃腸炎をメインでたくさんみて患者さんの多いような小児科クリニックでしたら、アレルギー検査希望者が月に数件、とかならばやせ我慢できますが、当院のようにアレルギー科を標ぼうしている場合、残念ながら経費が掛からない風邪や腸炎の患者さんよりも、診療に時間がかかり、いろいろな検査が必要なアレルギー児がむしろ多くこられます。それ自体は大変ありがたいのです。しかし必要ないような患者さんにもご希望通りにみんな検査をしていたら、早晩経営が成りたたないのはご理解していただけると思います。いやらしいお金の話になって、ホント申し訳ないですがご理解ください。

それでは、当院では2歳までのこどもさんにアレルギーの採血検査をせずに、実際どのように診療しているのでしょうか?日本小児アレルギー学会の編纂した「食物アレルギーの診療ガイドライン2006年版」には、2歳までの乳児では、慢性的な湿疹があり、アトピー性皮膚炎があり、食物アレルギーではないか、と思われて受診されることが多いので、乳児のアトピー性皮膚炎のケースでお話を進めます。乳児のアトピー性皮膚炎を診療する場合は、いきなり食物アレルギーが原因とは考えません。ふつうは、遺伝的に皮膚のバリア機能が弱いと考えます。それで、まずはスキンケアやステロイド軟膏療法、環境整備を指導して実践してもらい、それでも症状が変わらなかった場合に、問診で疑われる食品に対してのみ採血検査や皮膚テストを行う、とされています(食物アレルギー研究班による食物アレルギー診療の手引き2017 p11の図を以下に貼りました)。

食物アレルギー診断のフローチャート

当院では15分で結果が出て、赤ちゃんにも痛みや貧血などの負担がない皮膚テスト(プリックテスト)でその食物の感作状態を調べています。皮膚テストで陽性が出た場合には、それらの食品の摂取を2週間ほどやめてもらいます。完全にやめていただくために、母乳の方は母親に対してもその食品をやめていただきます。その間もスキンケアや軟膏療法、環境整備は続けます。摂取した食品と皮膚の経過を食事日記に記載していただきます。2週間後、湿疹の症状が改善していたら、今度は逆に本人や母親にも原因食品を食べてもらい、皮膚の状態がどうなるか観察します。これを除去負荷試験といいます。もちろんスキンケア、軟膏療法などは継続したままです。それで湿疹が悪化してきたら、赤ちゃんのアトピーはその食品を食べることで悪くなる、と考え、皮膚の状態が安定するまで除去していただきます。皮膚がボロボロの状態であれば、もろくなった皮膚を通していろいろなものに対してアレルギーの状態になってしまうので、皮膚の管理が優先します。皮膚がキレイになったら、今度は湿疹の症状が出ない程度に量を減らしたり加熱などの処理を加えたりして、再び症状が出ない量を食べていただきます。このように、アレルギー診療を診療する側も、受ける側もたいへんな時間と労力をかけて、こどもさんのアレルギーを直すために頑張っています。

もちろん、3歳以上のお子さんであれば、アレルギーの採血検査の必要を認めればこれまで通り積極的に行っておりますし、2歳までのお子さんでも、他の医院がやられていない赤ちゃんのいたくない皮膚テスト食物経口負荷試験については、診療ガイドライン通り、むしろ積極的に行っていますので、ご相談ください。

なお、2歳までのお子様で、どうしても採血検査でないとダメ、といわれたりして強い採血希望のあられる方は、大分市の方であれば、大分こども病院(097-567-0050)にご相談されますことをお勧めいたします。アレルギー外来もあり、2名の小児科の先生による専門診療しております。どちらも優秀な女医さんで相談しやすく信頼できます。予約も可能ですが、大人気で予約が取れないことも多いそうです。しかし、月曜から土曜の日中の一般外来の診療時間であれば、外来医の先生がたが採血指示を出してくれると思います。ちなみに、大分こども病院や県立病院のような病院や、小児科以外の耳鼻科や皮膚科、眼科のクリニックの場合は出来高制なので検査代は診療報酬から支払われ、病院が負担することはありませんので。

以上、ご迷惑をおかけしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。