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シックキッズニュース 1月号 No56 コロナの新たな変異体「オミクロン」とは?

シックキッズニュース 1月号 No56 コロナの新たな変異体「オミクロン」とは?

新年おめでとうございます。皆様方には良き新春をお迎えのこととお喜び申し上げます。そんな新年のおめでたいムードを蹴散らすように、コロナのオミクロンがでてきました。ワイドショーで有名になった専門家や政治家たちも、最後の出番がやってきた!といわんばかりにいそいそテレビに出て盛んに盛り上げているようですね。私は最近テレビを一切見なくなったので、ほんとのところは知りません。

私としては、もう正直コロナは飽きたところでして、本当は調べる気にもならなかったのですが、なんも知らんというのもどうかと考えなおし、12月末の時点での知見をざっと調べてみました。すると12月末までの時点では、オミクロンは夏に猛威を振るった強毒なデルタを駆逐してくれるスーパーマイルドなありがたいかもしれない変異体との認識が広がっているようです。そしてテレビでも話題になっている日本の対応のヘンなところが心ならず見えてきて、ついつい夢中になってしまいました。それでは詳しく見てゆきましょう。

今月のフォーカス コロナの新たな変異体「オミクロン」とは?

1.「オミクロン」騒動を振り返る(一部不謹慎なコメントも含まれています)

2.イギリスでのオミクロンの感染力はデルタの5.57倍!

3.「オミクロンの病原性はデルタより弱い」ことを東大Kei Sato研が動物実験モデルで見事に証明

4.オミクロンは福音か?おそらくそうでしょう

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1.「オミクロン」騒動を振り返る(一部不謹慎なコメントも含まれています・・・正月に免じてお許しください)

南アフリカで最初にB.1.1.529変異体(のちのオミクロン)よる感染が初めて確認されたのは11月9日のことでした。そのころ南アフリカのコロナ感染状況は第3波の最中で、他の国と同様「デルタ」で占められていたそうです。ところが、その後ヨハネスブルクがあるハウテン州で学校や若者たちの間でコロナが流行し、取り急ぎウイルスの遺伝子解析をしたところ、11月20日から20日までに採取された77検体すべてが「オミクロン」に替わっていたそうです。

11月15日、香港の保健省健康保険センターから、10月中旬から11月にかけて南アフリカに渡航歴のある36歳男性が「オミクロン」だったことが判明。同様のケースは、11月27日までにイスラエルやベルギー、イギリス、イタリア、ドイツ、チェコからも次々と報告され、オミクロンは南アフリカの外にも感染が広がっていることが決定的になりました。

11月24日、南アフリカはWHOにB.1.1.529変異体を報告。WHOは「VUM」、つまり「監視下の変異体」に分類しました。翌25日に「VOI」・・・「注目すべき変異体」に格上げされ、その翌26日には「VOC」・・・「懸念される変異体」に再分類し、「オミクロン変異体」と命名しました。同日11月26日、日本の国立感染症研究所も「VOI」として位置づけ、監視体制の強化を開始。2日後の11月28日に「VOC」に格上げしています。

11月29日、外務省から突然「水際対策強化に係る新たな措置について(オミクロン株に対する水際措置の強化)」と銘打ち、突然緊急避難的対応として当面1か月間、外国人の新規入国禁止やワクチン接種証明書保持者に対する行動制限緩和措置に係る新規申請受付や審査済証の交付の停止、モニタリングの強化とともに、入国者総数の引き下げのために12月1日午前0時以降、日本に到着する航空便について新規予約を抑制する、とプレスリリースしました。

11月30日、ついに国内初のオミクロン確認が発表されました。ナミビア国籍の外交官男性でした。この時点で世界17か国と地域で感染が確認されています。その後も国内空港検疫でぽつぽつとオミクロン陽性者の報告がありましたが、しばらく国内市中感染例は報告されていませんでした。

12月1日には医療関係者などに対する3回目のコロナワクチンブースター接種も開始されました。

同日、航空運輸を担当する国交省は、航空各社に12月いっぱいまでの国際線の新規予約の停止要請を行いました。これで海外の日本人駐在員や出張者たちが帰国できなくなる、といった苦情が相次つぎました。

12月2日、世間の批判に慌てた首相官邸は、「オミクロン株に関する水際対策などについての会見」を開き、「日本人の帰国については十分配慮するように国交省に指示した」と首相自ら国交省が勝手にやったんじゃないの、ともとれる驚きの弁解をおこなっています。まさに朝令暮改。いずれにしろ海外赴任中の邦人や航空会社には吉報で、12月4日からANAやJALは新規予約受付を再開しました。

12月3日にはメルク社が新型コロナの飲み薬「ラゲブリオカプセル」(一般名モルヌピラビル)を厚労省に承認申請を行いました(12/24に国内初のコロナ飲み薬として特例承認されました)

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FDAが緊急使用で承認したメルク社「ラゲブリオ錠」(モルヌピラビル)ロイター

アメリカでも12月3日くらいから相次いでオミクロン感染が報告していました。しかしさすがアメリカ。12月5日(米国時間)にアメリカ政府主席医療顧問ファウチ博士が、南アメリカからの情報として、「これまでのところ重症化の度合いはそれほど高くないようだ」との見解をCNNのインタビューで発表。オミクロンが爆発的に増えているアフリカ南部の流行地ではすでに高病原性のデルタを駆逐してむしろ重症者が減ったというハッピーな状況になっている、ということです。さすがアメリカの首席医療機関。きっちり米国民の不安を打ち消しました。まあ、「断定するのは時期尚早」と責任回避用の定例句を付け加えるのを忘れてはいませんでしたが。アメリカに発令中のアフリカ南部への渡航中止勧告も適当な期間内(オミクロンの弱体の正体がはっきりしたら、ということ)に解除できるようにしたいと述べました。12月7日(米国時間)ではホワイトハウスで同様の記者会見を行っています。

12月6日、国内3例目が初めての日本人だったと報道。イタリア滞在歴があり、空港検疫所で引っ掛かったとのことです。厚労省はオミクロンによる第6波で、第5波の2倍程度で感染が起きた場合は入院受け入れ人数を2割増やす必要がある、として都道府県に体制整備をするよう求めていたそうですが、この日、全国で約3万7000人の入院可能数を確保したと発表しています。これは夏の第5波に入院した患者数1万人上回る規模とのことです。オミクロンが風邪コロナと変わらないのであれば、風邪の人は増えても入院が必要な人は増えないはず(のちにイギリスでは12月のオミクロン入院率はたったの0.3%弱と判明)。南アフリカもアメリカもいまのところそんな感じ、といっているのに…ほかにも臨時医療施設や入院待機施設、保健所職員も他化から動員して3倍に増やすとか…ホテル宿泊も6万6000室確保したとか。また県や保健所の職員さんの悲鳴が聞こえてきそうです。それにコロナ以外の患者さんはどうなるのか、また妊婦さんが産気づいてもたらい回しの悪夢が~~~と、そっちが不安になった方も多いのではないのでしょうか?

12月8日にはWHOテドロス事務局長が記者会見で「オミクロンは再感染するリスクは高いが、症状は軽微である可能性が高い」と発表。翌9日はWHOワクチン担当責任者ミヒゴ氏が、「南アフリカでの初期データでは重症化はあまりなく、デルタに比べ重症化や入院リスクは低い傾向がある」と述べた一方、アフリカでのワクチン接種の遅れに強い懸念を示しました。この時点でオミクロンは世界の55の国と地域で確認されました。

12月12日、WHOは、オミクロンは「デルタ感染がまだ拡大しているイギリスで、オミクロンがデルタより速く感染拡大している」と見解を示しました。早々にオミクロンに置き換わる可能性を示し、一方オミクロンはヨーロッパから報告された範囲では軽症か無症状で重症リスクは圧倒的に低い可能性があると示しました。それならデルタにかかるよりよっぽどオミクロンにかかりたいな、と思うのは人情ですね(でもそうならないのが日本のマスコミや専門家・・・)。

南アフリカ(図a,b)とイギリス(図c,d)のコロナ流行状況と変異体の移り変わり。南アフリカでは11月から急激にオミクロンが、イギリスではまだオミクロンのデータが得られていないので白紙だが、そのイギリスでも図d(緑)のようにオミクロンの増加率はデルタなどの従来株に比べ圧倒的に高い(Kei Satoらのプレ・プレリリースのデータより)

12月13日、ついにコロナ本家本元の中国にオミクロン1例目が出ました。海外から天津に到着した人で無症状。検査でオミクロンと判明しました。北京オリンピックを控え、日本の夏のオリンピックの二の舞にならないよう警戒を強めているようですが、残念ながらオミクロンを止めることは中国をしても困難でしょう。

12月14日には英国ジョンソン首相は、「オミクロンの患者が少なくとも1人死亡した」と発表しました。オミクロン入院患者もぽつぽつ出てき始め、「ワクチンとマスク着用義務で感染拡大スピードを抑えたい」と話しましたが、無理でしょう。ただこの日、アメリカからビックニュースが飛び出しました。ファイザーが開発したコロナ飲み薬、「パクスロイド」が入院や死亡リスクを89%減らす、と発表。RNAワクチン以来の2匹目のドジョウの快挙を成し遂げ、コロナ経口治療薬はコロナ撲滅の2つめのゲームチェンジャーと期待されています。ワクチン接種率が上昇している国(まさに日本)では、正直コロナがオミクロンに置き換わり、ラブリオカプセルやパクスロイドが認可され、開発中のワクチンが次々と承認されれば、コロナ騒動はおわりじゃないのか。

ファイザー製「パクスロイド錠」courtesy Pfizer

12月18日、WHOは、ファイザー製ワクチンのコミナティを3回目に追加接種すれば、オミクロンにもデルタと同等程度の効果を示すであろうとの見解を発表しました。ファイザー製もモデルナ製もオミクロン用じゃなく、オリジナルの武漢株用なのですが、よほど威力が強いのでしょう。私たちやもう先が長くない高齢者に接種する分は、在庫処分用でいいのですが、こどもたちにワクチン接種をどうしてもしなければならないのでしたら、武漢用の在庫処分ではなく、インフルエンザのように流行中の変異体に応じた安全性の高いものを使ってやりたいです。

12月20日、デジタル庁はワクチン接種証明アプリを公開しました。

https://jp.techcrunch.com/2021/12/08/covid19/ より

このアプリを使えば、マイナンバーカード利用で本当に簡単にワクチン証明が取れます。いい仕事したね、って素直に喜びたいところでしたが、マイナンバーに旧姓併記している人は使えないことにクレームがついたり、ツイッターでセキュリティーに問題があるのでは?と話題になりました。旧姓併記の問題は、デジタル庁もわかっていたけどとにかくできたものから提供したいと、迅速性を優先したもので、来月には改善できる、とすぐに弁明したので、枝葉末節にこだわってどうするの、そこまで目くじらを立てなくても…と個人的には思います。しかしセキュリティーに問題があれば重大です。デジタル庁もツイッターで話題になっていること把握しているようで、セキュリティーには問題ない、との見解を出しているようですが・・・コロナ接触アプリcocoaやV-sys運用なんかで信頼感を失っている国のDX。本当に信頼できるのか、そもそも国民の8割が2回接種済ませている現状で接種証明の必要性にも疑問があり、しばらく様子見ですね。

同日、モデルナも3回目のモデルナ性ワクチンのブースター接種でオミクロンに対する中和抗体が十分にできた、とする実験結果を公開。現時点でオミクロン用のワクチンを開発する必要はない(つまりオリジナルの武漢用ワクチンでいい)、との見解を発表しました。ファイザーに続き、モデルナでも旧ワクチンの在庫処分、というのは言い過ぎか。

12月22日、大阪で家族3人の感染経路不明のオミクロンが出た、すわ市中感染、第一号!と大阪府知事さんの久しぶりのどや顔が拝めました。岸田首相も、手柄を独り占めにされてはまずい、と感じたのか、夜に早速会見を開き、「オミクロンの濃厚接触者は症状の有無にかかわらず、施設に14日隔離する」、と発言しました。夜には専門家会合が行われ、今後、感染拡大が急速に進むことを想定すべき状況である認識を示しました。いろいろなところから、あの人は今、的な懐かしい面々がテレビにまたぞろ出てくる展開になりました。

同日アメリカでは、ファウチ主席医療顧問は、南アフリカやスコットランドからのデータで、オミクロンはデルタに比べ感染力が圧倒的に強い一方、重症化は低いようだ、と再度オミクロンの弱さを指摘しました。むろん、患者数が増えれば医療機関を圧迫するだろうから、感染防止はしましょう、というのは忘れていませんでしたが。

12月23日、アメリカFDAはメルク社のコロナの飲み薬「ラゲブリオカプセル」(一般名モルヌピラビル)の「緊急使用の許可」を出しました。

そしてオミクロン流行中のイギリス保健当局は、「オミクロンの入院リスクはデルタに比べ50~70%低い」との初期段階の分析結果をだしました。

これでオミクロン珍騒動も終焉が見えてきたね、と喜んだのもつかの間。同日、文科省は、「オミクロン濃厚接触者は症状の有無にかかわらず大学共通テストの受験を認めない」とする、なんとも痛いガイドラインを発表。そしてなぜかオミクロンでなくデルタとかであれば、いろいろ条件を満たせば受験を認めるそうです。なんで?オミクロンが一番スーパーマイルドのですけどね。何年も夢に向かって頑張っている受験生たちには国からのとんだクリスマスプレゼントですよ。岸田さん(見かけ上は文科省ですが、文科省の官僚が首相官邸の意向なしにトンでもないガイドラインをだすわけないでしょ)、これ、罪のない受験生いじめですよ。外国ではオミクロンはデルタを駆逐してくれるサンタがくれたクリスマスプレゼントだ、と喜んでいる人もいるのに。

そして「聞く力」のわが岸田首相はまたその夜の会見でとどめを刺してくれました。「未知のウイルスだからこそ、リソース集中投資する、危機の時はトゥーレート・トゥースモールより、拙速・やりすぎの方がまし」と世界の国々と逆行する発言。だいたいコロナとか出てきてから2年近くなるんじゃなかったか?未知のウイルスって何?オミクロンは軽いって流行中のイギリスも言ってるし。ワクチン3回で大丈夫だってWHOもいってるし、日本ではなかなか開発できない薬もアメリカですぐに作ってくれて、日本も大金はたいてキープしたでしょ。もう南アフリカとかオミクロンとかピークアウトしてるって言ってるよ。それでどんだけ~みんな迷惑しているのか、特に保健所や県の職員の皆さん方。マジで開いた口が塞がらなかった。しかしなぜか彼の支持率は上昇しているらしい…。

12月24日、アメリカにつづき、日本でもメルク社のラゲブリオカプセル(モルヌピラビル)のコロナ重症化を防ぐ初めての飲み薬として承認されました。すでに20万回分を全国発送開始。27日くらいから使用できる見通しとしました。

そしてミクロンのふるさと、南アフリカは、ついに「無症状ならば隔離や検査不要。家庭以外の施設での隔離はすべて中止し、集団感染などを除き接触者の追跡調査もやめる」とする新方針を発表しました。科学者の助言を受け入れたとしています。賢明な英断と思います。

この日、東京で初めて1名のオミクロン市中感染例がいたと発表。病院職員全員の検査を呼びかけました。このころになると普通に全国でオミクロン市中感染例がでて、濃厚接触者も23日には7819人に急増。マスコミなんかは新規感染者数より濃厚接触者数に注目してくるようになったそうです。日本は濃厚接触者でも14日間宿泊施設に隔離されますが、対象になった人たちの精神的な負担など問題点も報道されるようになりました。

この夜、東京でのオミクロン市中感染確認を受け、東京都は12月25日から症状がなくても感染に不安を感じるすべての人を対象に無料で検査を行うと発表しました。とりあえず民間の検査機関12か所を、27日からドラックストアなどにも広げ180か所、1日3万人の検査を行えるよう用意するとのことです。大阪府はすでに24日から同じような無料検査をスタートしました。この動きは12月28日末の時点で大分を含め全国に広がっています。これって、なんもないのに冗談で検査して陽性になった時は、本人はもとより周りの濃厚接触者とされる方々にも大迷惑ですよ。お正月から一族みんなひとからげに隔離されるのでしょうか?こういうのを「瓢箪から駒」っていうの?それとも「嘘から出た実」?もうやってられないです。

12月25日、厚労省はデルタでは大活躍した中外製薬の抗体カクテル療法の「ロナプリーブ」は、残念ながらオミクロンでは中和活性が1000分の1にまで下がるので、オミクロンでの使用は推奨しないと発表しました。一方、GSK社の抗体カクテル療法「ゼビュディ(ソトロビマブ)」は、製薬会社の調べではオミクロンにも「有効」と12月8日に発表しています。

12月26日、やっぱり岸田首相は、先に文科省が示していた「オミクロン濃厚接触者は症状がなくてもセンター入試を受験させない」というガイドラインを撤回して、受験機会を確保できるよう具体策の検討を指示したとのことです。「岸田さん、さすが聞く力!」と評価を上げご満悦でしょうが、でもほんと、受験生たちの神経は岸田さんたちのせいでズダぼろでしょう。いや国交省や文科省も、岸田さんの必殺技のはしご外しをきれいに喰らい、皆さん目を白黒させておられることでしょう。お悔やみ申し上げます。

同日、南アフリカに続きシンガポールでも、オミクロンの重症化リスクは低いとして、オミクロン感染者の自宅療養を認めるなどの規制緩和を実施しました。これまでのオミクロン感染者は専用の医療施設への入所が求められていたのを方針転換しました。もちろん濃厚接触者に対して行われていた専用施設での隔離措置も撤廃しました。普通はこんな流れでしょう。ゼロ・オミクロンとか、症状がないのが多いのに絶対無理。まさか一生鼻に綿棒突っ込んで検査しとけって???ギャグも正月だけにしてほしい。

12月28日夜になって、政府分科会の尾身茂会長、国立感染症研究所の脇田隆字所長ら、主に感染症を専門とする17人が、「オミクロン株の感染者全員を入院させている現在の政府方針について、年末年始は都道府県ごとに柔軟に対応できるようにする」ことなどを求める提案をまとめ、後藤茂之厚生労働相と山際大志郎経済再生相(コロナ担当)宛てに提出したもようです。年末になり、ようやくまともな意見も出てき始めて少しほっとしています。

2.イギリスでのオミクロンの感染力はデルタの5.57倍!

ここまで、日本のあいもかわらぬ残念なコロナ対応を中心にオミクロン騒動の推移を見てきました。今度はオミクロンの事を今の時点で分かってきたことを頼りにみてみましょう。調べてみると、オミクロンには悲しい特徴と喜ばしい特徴を併せ持つ変異体ということがわかります。まさに悲喜こもごも。

まずは悲しいお知らせから。すでにメディアでも喧伝されている通り、従来のコロナに比べ物にならないくらい強い感染力です。どうして強い感染力を持つようになったか。それはオミクロン内に1年半かけて蓄積された多数のまずい遺伝子変異によるものです。形容すればプチ形成しすぎて誰からなくなった人のようで、これまでせっかく死ぬ思いで2回(多い人は3回)も打たれたワクチンやコロナ感染で得てきた免疫も突破できるようです。どれくらい変異が多いか。日経サイエンスの記事が大変わかりやすかったのでご紹介します。

例えば、ウイルスの感染性やワクチンの認識に一番大事な突起、「スパイク」という部分に注目すれば、イギリスや日本で席巻したアルファやデルタが持っているスパイク部分の変異個所は10か所前後。かたやオミクロンにはおよそ30か所もあります。これまでの研究で要注意の変異といわれていた免疫逃避に係るとされる「E484(8)」、ウイルスがヒトの細胞に侵入しやすくなる「N501Y」「H665Y」「P681H(R)」などまずい変異がてんこ盛りです。また、オミクロンにしかない変異に目を向けると、ヒト採苗表面のたんぱく質と直接結合する「受容体結合領域」という場所に大量の変異が集まっています(図のピンクの領域)。

コロナ変異体の主な変異部位(日経サイエンスより)

多数の「やばい変異」を持つオミクロンの赤ちゃんがうまれたのは、じつはアルファやデルタなどの変異体ができるもっと前、2020年3月から5月ごろだったそうです。プリンセスダイヤモンド号事件の後、全国に感染者が広がり第1波が起きて、安部元首相が緊急事態宣言を全国に発令したころですね。当然最初のVOCのアルファ変異体が出現するずっと前の頃です。その頃はすでにコロナのゲノム解析は世界で行われていて、ふつうならばイノイチで引っ掛かっていたはずです。どうして昨年11月南アフリカで見つかるまで1年半もゲノム解析にかからなかったのか?この日経サイエンスの記事では3つの仮説が紹介されています。1.ゲノム解析が普及していないアフリカ南部において水面下で流行していたので今まで気づけなかった、2.ヒトではなくゲノム解析が及ばない動物間で流行して、最近になってヒトに感染してオミクロンの存在が表面化した、3.アフリカ南部はAIDS蔓延地域で免疫不全患者の割合が多く(例えば南アフリカのHIV陽性者は710万人で全人口の13%を占めるといわれている)、免疫不全者の体内で長期間持続感染をしている間に多数の変異を起こした。いずれにしろ、オミクロンは1年半前から生まれて、長時間にわたり水面下で多数の変異を蓄積して、2か月前から急に表面化して、その爆発的な感染力でデルタなどの従来変異体を駆逐していっているようです。

3.「オミクロンの病原性はデルタより弱い」ことを東大Kei Sato研が動物実験モデルで見事に証明

しかし、多数のプチ形成のおかげか、オミクロンにはもう一つかなりうれしい特徴も備わりました。どうやらオミクロンは、デルタなど従来のコロナに比べ、スーパーマイルドではないか、という知見が短期間の間にもたらされました。先にも述べましたが、12月にはいって、WHOやアメリカ政府のファウチ首席医療顧問が、南アフリカやイギリスなど現在コロナ流行地では、デルタからオミクロンにどんどん入れ替わっているが、爆発的な新規患者数の上昇に比べ、入院が必要な重症者の数はそんなに増えてきておらず、オミクロンの病原性は低い可能性を示唆する声明を発表していましたね。

オミクロンはやっぱり弱かったことを実証したKei Sato Labの12/26ツイッターから

この疫学的な事実に加え、12月26日にツイッターで、東大医科研、感染制御系システムウイルス学分野の佐藤佳准教授のグループが、ハムスターの動物モデルを使って、「オミクロンの病原性がデルタなど従来変異体よりも低いことを実証した」と速報、拡散希望で回ってきました。このニュースを執筆中の12月28日の段階ではプレリリースは出ていませんが、佐藤先生はなんとツイッター上に拡散希望で(プレ)プレリリース版を投稿。#拡散希望、とありますので、このニュースでもさわりですが取り上げます。

この(プレ)プレリリースをご紹介する前に、佐藤先生たちは、まだオミクロンが問題になる以前に、「コロナウイルスの変異体の病原性、細胞融合性、スパイク蛋白の分割効率には正の相関がある」と11月25日のNature誌に報告していました。つまり、デルタに特徴的なP681Rの変異が入ったウイルス変異体を細胞株やハムスターに感染させたとき、P681Rの変異が入っていないウイルス変異体を感染させたときにどう変わるかを詳細に検証しました。

D614G/P681R変異体(デルタ)はS2のバンドが強く(図dオレンジ)スパイク蛋白の分割効率上昇と細胞融合性も上昇(図eオレンジの線)Natureの論文から
D614G/P681R変異体(デルタ)感染ハムスターの体重減少は一番大きく(図aオレンジの線)、気道収縮指標も高く(図b(図eオレンジの線)、重症化しやすい。。Natureの論文から

するとデルタの特徴的な変異P681Rを持つウイルスはスパイク蛋白分割効率、細胞融合性も3倍弱上昇。そしてハムスターに感染させたときにP681Rを持つウイルス(デルタのこと)は体重減少や気道収縮指標(Penh)が上昇し、重症化することを発見。ちなみにアルファやミュー、オミクロンはP681RではなくP681Hでした。

今回も同じ系、つまり、オミクロンやデルタ、それにオリジナルのコロナウイルスを細胞株やハムスターに感染させて、細胞株のスパイク蛋白分割効率や細胞融合性調べ、またハムスターに感染させた後の体重の変化、酸素飽和度の経過を5日間観察しました。

オミクロン(緑)はデルタ(オレンジ)や従来株(黒)に比べ、細胞融合性(図f)やスパイク蛋白分割効率(図g)が著しく低い(佐藤先生たちのプレプレリリースより)

すると、オミクロン(緑)の細胞融合性はデルタや従来株に比べ著しく減少し(図f、緑の線)、スパイク蛋白分割効率も同様に著しく低下していました・・・S2/(S2+S)Ratio・・・(図gでオミクロンはS2のバンドが全く見えない、つまりスパイク蛋白が全然分割しない)。

デルタ(オレンジ)や従来株(黒)と異なり、オミクロン(緑)に感染したハムスターの体重減少は認めず、酸素飽和度の低下も認めず、軽症(Kei Sato Labのツイッターより)

ハムスターに感染させてみると、デルタや従来株では体重が5日間で15%減少し、酸素飽和度も98%から96%に下がっていったのに対し、オミクロンでは体重減少や酸素飽和度の減少はみられませんでした。オミクロンは細胞融合を効率化し、そしてスパイク蛋白を効率よく分割するのに重要なP681Rの変異は幸いにももっておらず、また宿主であるヒトを滅ぼしては元も子もなくなるので、コロナ自体も1年半の長い時をかけて生き残りをかけてプチ形成しまくりオミクロンに変異したのでしょう。理研の菅原英明先生のブログCrisp_Bioにもレビューがありますので興味がある方は一読ください。

4.オミクロンは福音か?おそらくそうでしょう

11月終わりから突如でてきたオミクロン。ここまで読まれた皆様方、どう思われましたか?私は今回このニュース記事を書くのにわたり、一通り12月末時点でのオミクロンの知見を自分なりにいろいろ調べてここに整理してみました。オミクロンは診たことがありません。しかし微力ではございますが、デルタまでは県の指定診療機関として実際に保健所から紹介してきたコロナ疑い患者さんの診察も検査もして、新規陽性患者さんの診断もしてきました。それにワクチンやホテル療養程度ですが、コロナ行政にも積極的に協力もしてきました。コロナ禍が始まって何もわからない状況の段階から、コロナの治験を調べて、わたくしなりに咀嚼し、このニュースを通じて皆様方にも情報を提供してきました。そのうえでコロナ騒動で思うことを以下に書かせていただきます。

テレビに出てくる専門家たちがいっていること違うので不愉快に思われた方もおられると思います。しかし、デルタ前の古いデータになりますが、2021年3月までの東京都の新型コロナ死亡例の報告によれば、昨年度の平均死亡年齢は81.4歳。これってアメリカとかほかの国の平均寿命よりじゃないのか?また50歳以下の若年者の死亡率でも男性が0.08%~0.63%、女性0.01%~0.33%です。これまでみてきたように、オミクロンはデルタはもとよりオリジナルやアルファよりもずっと弱いです。オミクロン流行中のイギリスでもデルタの時と違い、重症化する人の爆発的な増加はやはり見られていません。12月27日時点で、イギリス全土のオミクロン確定者の報告数15万人。うち入院が必要な人が407人(これには医学的な理由ではなく、社会的な入院も含むと思いますが、約0.3%弱)、死者が39人で致死率0.025%。オミクロン疑いを入れるとこの半分になります。日本の医療体制をもってすれば、ワクチンを接種していない高齢者以外の死亡はほぼない、と考えていいではないでしょうか。

先にふれたように、オミクロンのふるさと、南アフリカやシンガポールは、すでにオミクロンを特別視するのをやめ、感染者は自宅療養にし、濃厚接触者の隔離はやめています。冷静にオミクロンの感染状況と重症度を見極め、デルタと異なり軽症例がほとんどなのであまり問題はない、と賢明な判断をしました。そもそも南アフリカではすでにオミクロンの流行はピークアウトしているともいわれています。

夏のデルタで盛り上がっていた頃、大分県で感染者が100人超えたときもありましたが、イギリスではオミクロンがデルタの約5倍の感染力があるとして、ピークでだいたい1日500人の新規患者数(もっと多いのでしょうが、話を単純にするために単純に掛け算しています)。入院率が0.3%なので、1日1-2人の入院が必要な患者さんが出るということですか。こう考えると、少なくとも現状の対策を続けていれば、そんなにやばいことは起きないのではないかと、個人的には思います。むしろオミクロンが、こどもでよくみられる普通の風邪コロナレベルにまで弱毒化しているのであれば、むしろ軽症で終わる乳幼児期に不顕性感染か軽い風邪として繰り返し感染をすましておき、それで免疫レベルを高めておいたほうがいいような気がしてきます。だいたい今でも子供は、保育園や幼稚園とか集団保育を通して、ワクチンのないライノウイルスとかエンテロウイルス、ピコルナウイルス(今流行っている下痢のウイルスですね)なんか風邪やお腹の風邪を繰り返しもらって小学生くらいになるまでにしっかり免疫をつけているのではないですか?

3回もRNAワクチンを受けさせられた経験から、もちろんデルタはいやだけど、オミクロンレベルならRNAワクチンをした後のほうがきついんじゃないかとさえ思えてきます。ワクチン接種対象外のお子さんは、あのデルタのときでも重症化した例はほとんどなかった(少なくとも大分ではこどもで重症化した例はゼロと聞いています)ことを考えれば、むしろ軽く済む子供のうちに罹ってしまって免疫を付け、12歳で追加でワクチンをするほうがいいような気もします。どうしてもワクチンを打てというなら、副反応が楽そうでおおよそ予想がつく不活化ワクチンが認可されてからでもいいのではないかと思います。

少し極端な持論を披露してしましましたが、同じような考えをされている偉い先生もおられます。2020年12月に上原賞を受賞され、さらに2021年秋の叙勲で紫綬褒章を受章された慶應義塾大学微生物免疫学講座教授の吉村昭彦先生。このシックキッズニュースでも2021年1月号で特集させていただきましたが、先生も自らのブログでコロナの話をちょくちょくされています。先生らしくまっすぐにコロナ問題に立ち向かわれており、私たち素人にも大変わかりやすく書かれております。私もいつも参考にさせていただいております。先生のブログに興味がある方はぜひ目を通されてください。特にここ最近はオミクロンの自称専門家たちのバカげたどんちゃん騒ぎぶりを鋭く批判、ずばずば切り倒しておられます。私もわが恩師、吉村先生の考えに全面的に同意です。オミクロンがきっとデルタなど悪性のコロナを駆逐してくれ、再び人々が気兼ねなく外に出て懐かしい人たちと会える日を、そして私にはマスクなしでこどもさんを診察できる日をプレゼントしてもらえるはず、と心から願います。

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