2021年も、はや師走。年々時間のたつのが早くなったと感じるのは年を取ったせいですか。わたしももう「おじさん」から「お」が取れて「じーさん」に呼ばれ方が変わりそうです。
さて、コロナも終わって、街も少しずつ以前のにぎやかさを取り戻して、今年こそ!と年末に向けてハイになりそうな気分をまたしても、新しいコロナ変異体が叩き壊してくれました。アフリカ南部で問題になっているオミクロン バリアント(変異体)。日本は執筆時点では検出されたという報道はないですが、すでに欧米、アジアでもちょこちょこ検出され、さすがのザルの水際対策と揶揄された日本政府も、11月8日に行った「外国人の新規入国制限の見直し及びワクチン接種証明書保持者に対する入国後の行動制限の緩和(・・・さすが東大卒の官僚が書いた文章、さっぱりわからない)」を速攻で取り消しました。しかし以前からビザを持っている人は、滞留措置はあるけれど入ってきているわけで、水際で抑えるのは不可能でしょう。つまり日本でもオミクロン襲来は時間の問題です。デルタ・パンデミックの遠くない悪夢の記憶がよみがえります。
そして今年最後にフォーカスするのも、やっぱりワクチン。最近こればっかりやっている気がします。小児科の分野で大きく変わりそうな2つのワクチン、「HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)」と「コロナワクチン」について、いつものように深堀(フォーカス)ではなく、気軽に自分の考えなども入れて書いてみます。
今月のフォーカス 来年大きくかわる2つのワクチン、「HPVワクチン」と「コロナワクチン」
1.HPVワクチン(いわゆる子宮頸がんワクチン)の積極的な勧奨がやっと再開されそう
2.コロナワクチンのブースター接種(3回目)と5歳から11歳の子どもたちへの接種が開始されるかもしれない
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1.HPVワクチン(いわゆる子宮頸がんワクチン)の積極的な勧奨がやっと再開されそう
子宮頸がんワクチン。2013年4月に定期接種として小学6年から高校1年の女児への定期接種が始まりましたが、同年6月14日に積極的勧奨の差し止めが厚労省によってなされました。最近すこしずつ流れが変わってきた風潮を感じていましたが、ついに11月26日、差し止めされて8年以上経過して、厚労省は、やっと自治体に来年2022年4月から積極的な勧奨の再開を認める通達を出しました。準備が整った自治体は、4月を待たずに順次積極的に勧奨できます。「積極的勧奨」とは、具体的には、自治体が広報紙やインターネットなどを利用して接種可能なワクチンや接種対象年齢などを広報する(例えば大分市のHP)ことに加え、標準的な接種期間の前に、接種を促すハガキや問診表等を各家庭あてに送ることや、さまざまな媒体を通じて積極的に接種を呼びかけるなどの取り組みを指します。
このシックキッズニュースでは、定期接種でありながら積極的勧奨が差し止めになってきた経緯を詳細に取り上げました(「子宮頸がんを再考しよう」2020年6月号)。そのおかげか、今年はHPVワクチンの問い合わせがかなり増えており、毎週数箱は確実に接種するまでになりました。
差し止めが続いた8年以上の間は、多くのマスコミがこぞって面白おかしく被害者の方々を取り上げ、それに便乗して一儲け企んだ政治家や弁護士、悲しいことに一部の医師たちなどの暗躍で悪い流れがつづいていました(経緯はここで)。それにおされるように我々接種医である一般小児科開業医(産婦人科医達はそれでもましのようでした)はもちろん、高名なワクチン専門家たちまでが知らぬ存ぜぬを決め込む中、長崎大学の森内浩幸先生、新潟大学産婦人科の榎本孝之先生、愛知大学牛田享宏先生など一部の見識ある学者たち、岡山県など一部の自治体、村中凛子氏やBuzzFeedジャパンの岩永直子氏など一部のジャーナリスト、「みんなで知ろうHPVプロジェクト(通称みんパピ)」などの良識なSNSが再開の声を上げ続け、やっとここまでこれました。私自身、当時大分こども病院で病棟勤務とアレルギー外来に追れていたこともあり、だんまり坊主を決め込んだ一人として反省しなくてはなりません。この度、BuzzFeedジャパンニュースの岩永直子氏が、「HPVワクチン報道」でインターネットメディア賞を受賞されましたので、リンクを貼っておきます。
そういえばむかし私がまだ学生のころ、テレビで、たけしやそのまんま東、ゾマホン、ラモス瑠偉たちが日本のおかしなところを1つ取り上げ、「わわわわ~」って喧々諤々面白おかしくやっていた「ここが変だよ!日本人」という爆笑のなかにも考えさせられる番組をやっていました。まさに厚労省が8年前に繰り出した子宮頸がんワクチンの積極的勧奨の差し止めの策は、世界から見たら、まさしく「ここが変だよ、日本人(笑)」って失笑もののダブスタでした。8年もの間、日本を世界の笑い者にさらしてくれた責任者たちは、その背任行為をきちんと説明すべき時期に来ていると、個人的には思います。積極的勧奨再開の報道について、新聞各紙の取り上げ方を比較した記事のリンクを貼っておきます(HPVワクチンの積極的勧奨再開 新聞各紙はどう報じたか)。
来年からめでたく積極的勧奨再開されるHPVワクチンですが、懸念がないわけではありません。HPVワクチンが急に勧奨再開されたら、どうなるか。勧奨再開は喜ばしいことなのですが、ここで懸念されるのが、ワクチンの供給問題、と個人的には思います。数か月で世界一の接種率になったコロナワクチンをみてもわかるように、日本人の性として、「みんなが打つなら私も」と、いわゆる「赤信号、みんなで渡れば怖くない」的なところがあります。
そのうえ、8年間接種機会に恵まれなかった(正確に言えば接種機会はあったが、医者も自治体も情報ださなかったので、知らずに打てなかった)20歳代半ばくらいの女性にも接種費用を助成しよう、という話があります。これは当然そうするべきです。実際日本脳炎が5年間もしかしそうなった場合、さらに需要が急増することは小学生でもわかります。我先に、と希望者が増えても、ドラえもんのポケットのようにHPVワクチンがポンポン出てくるわけではありません。
おまけに、HPVワクチンもコロナワクチンにならい、MSDやGSKといった海外の製薬会社の商品です。国内製薬会社は製造していません。ではこれまでの8年間、日本が輸入していたHPVワクチン、どうなったのでしょう。8年の間、誰も注文しなかった(というか誰も打ちに来ない)ので、大量廃棄されてしまっていたそうです。
世界ではHPVワクチンは男性にも接種しようとしているなど接種者希望者が大変多く、需要が供給を大きく上回る供給不足の中で、日本ではワクチンが大量廃棄されていた信じられない事実。需要が供給を大きく上回る事情の中、大量廃棄していた日本に、製薬会社のMSDはガチギレしているとのこと。貴重なワクチンを8年間どぶに捨てていた日本になぜ供給してやらないといけないの、ということです。コロナワクチンのときのように、日本のトップがわざわざ渡米して直接頭を下げおねだりして大金を積めば、ちょっとは恵んでくれるかもしれませんが、心情的にはどうか。あんまり日本を卑下したくないのですが・・・。最近こういうニュースばっかで悲しいです。ということで、個人的にはHPVワクチンの供給に懸念があります。
最後に、私たち開業医にできるアドバイス、ですが、「対象の人、特に中学生女子は、勧奨再開される4月を待たずに、まだ医院に在庫があるうちに接種をし始めていたほうがいいですよ」、ということくらいです。今更感満載で悲しいです。
2.コロナワクチンのブースター接種(3回目)と5歳から11歳の子どもたちへの接種が開始されるかもしれない
コロナワクチン。いつの間にか日本人のコロナワクチン接種率が世界でもトップになりました。保護者の方に伺っても、すでに2回終わらせている方がほとんどで、さすが日本人、アッパレ!、心底驚いています。このコロナワクチンも、昨年末くらいからこのニュースで何度か取り上げ、情報提供してきました。日本人が接種しているファイザーやモデルナのRNAワクチンですが、恐ろしい効果を発揮しています。オリンピックが明けてしばらくして、コロナが日本ではやらなくなったのは本当に謎ですが、ワクチン接種率の上昇も一つの要因だと思います。手洗い、うがい、マスクの励行もほんの少し貢献しているかもしれませんが、この異常な効果を示すRNAワクチンの貢献は確実にあります。まあ、実際にコロナにかかったくらい熱が出たりきつかったりする問題はあるのですが、それでも肺炎で死ぬよりずっとましですね。
さて、11月も終わりになって、アフリカ南部で感染性や伝搬性の増加や抗原性の変化が懸念されるコロナの変異体「オミクロン」の出現が話題になっています。11月末の執筆中時点で、実際どうなのか、まだまだ情報が少ないです。民放のテレビの記事レベルを紹介するわけにもいきませんが、ググると「空気感染!」とか「あっという間にオミクロン株がデルタ株を追いやった!」とか煽り記事ができてきますが、民放ののワイドショーなどで情報を得るのはやめたほうがいいと思います。定評のあるウイルス学者や疫学者がネットに情報を流していますので、そちらをみましょう。例えば、NIHのウイルス学者、峰宗太郎先生のブログ、「南アフリカで見つかった新たな変異ウイルス、感染力は高いの? ワクチン・治療薬の効果は? 専門家の見解は…」に、11月末時点での上昇がない中でのこの変異体に対する考え方を専門家の立場からのべています。少なくともマーケットはオミクロン変異体のパンデミックが起きると織り込み、株価は乱高下。たいへん不安定な動きをしています。
オミクロン・バリアントに対しては、研究者たちの検索が現在進行中、ですが、とくにオミクロンバリアント感染を今日本で認可されているコミナティーやモデルナワクチンでどれくらい防御できるか、知りたいです。90%以上の効果、という恐ろしい数字をたたき出したRNAワクチンでさえも、オミクロンでなくても、半年くらいから感染防御能や、高齢者の重症化予防効果が落ちてくる懸念が強いそうです。
今後も繰り返し変異株の脅威にさらされ、そのたびにPCR、自粛、緊急事態宣言、時短営業と騒ぐくらいなら、効くかどうかはともかく、3回目のブースター接種もせんならんな~、となります。現在接種計画が進められている3回目のワクチン接種については、すでに厚労省はファイザーのコミナティを承認し、モデルナワクチンについても検討中とのことです(厚労省のHP参照)。例の厚労省の新型コロナワクチンQ&Aにもわかりやすく具体的に書かれていますので、ご参照ください。一応2回打った人全員が接種するのが望ましい、とのことですが、大分ではまだ医療従事者に対しても、希望者をアンケート調査している段階です。原則2回目から8か月は明けることになっていますので、早い人では12月くらいから徐々に3回目を接種できそうですが、優先順位は重症化リスクが高い人(高齢者や糖尿病、心臓病、慢性肺疾患などを持っている人、免疫不全の人たち)、そのようなリスクが高い人と接触が多い人(医療従事者や介護職員たち)、職業上の理由などによりウイルス暴露リスクが高い人(コロナ受け入れ病院職員や感染国渡航者など)にとくに勧められるそうです。
5歳から11歳のこどもへのコロナワクチン接種に関しては、まだ日本では、この年代に認可されたワクチンはありません。ただ、米国は10月30日にファイザー製のコミナティーの5歳から11歳の子どもへの緊急使用を認めました。この年代の治験のデータが9月20日にファイザー社のHP上に発表され、成人同様2回目の接種後7日以降の発症予防効果が90%以上確認され、2か月後の追跡機関でも安全性が示せた、として、FDAにこの年代への接種承認申請していました。接種量は12歳以上の1/3の量の0.1mLです。他にもキューバはもう早くから11歳未満のこどもに接種を承認しており、中国は3歳から接種承認しています。あちらは不活化ワクチンだからいいか。少なくとも11月20日の段階で、世界でアメリカをはじめ少なくとも16か国が11歳未満の子供に対するコロナワクチン接種を承認しています。
11月10日、ファイザーは5歳から11歳の子どもへの拡大を厚労省に申請しました。これを受け、厚労省の分科会は11月15日にこの年代への接種拡大について議論をはじめました。重症化しやすい基礎疾患のあるお子さんは別として、一般にコロナになっても重症化しにくいとされているこの年代の健康なこどもへのRNAワクチンの接種については、正直私でも「えっ?」となってしまいます。実は12歳から17歳についても、日本小児科学会から若年者へのコロナワクチン接種に関して提言があり、12歳以上の健康なこどものコロナワクチン接種は意義はあるが、発熱や接種部位の疼痛などの副反応出現が極めて高いことや、まれですがイスラエルや米国で若年男子に接種後の心筋炎が報告されていることなど、注意する点が明記されているほどです。
ワクチン行政に詳しい川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦先生が、BuzzFeedジャパンのインタビューを受けて、「5歳から11歳のコロナワクチン 日本ではどう考えたらいいの」というタイトルで意見を述べられています。要約すれば、日本でも、こどもにコロナワクチンを接種できるという選択肢があることには意義がある。成人がワクチンでプロテクトされた状況では、次のコロナの流行は、接種していないこどもを狙い撃ちしてくる可能性もある。しかし日本とアメリカではこどものコロナ感染状況が異なり、圧倒的に日本のほうが死亡ゼロで重症化も極めてまれな状況。比較的こどもにも重症者や志望者が出ているアメリカのやり方を日本にそのまま持ってくるのはそぐわない。むしろ一斉にこどもに副反応、とくに「熱性けいれん」の恐れがまだ残るこの年代に比較的多いRNAワクチン接種を開始したら、思いがけない事故や健康被害が起きてHPVワクチンの二の舞になりかねない。だから、対象を重症化しやすい基礎疾患を持ったこどもや、家族に重症者リスクのあるこどもから徐々に広げてゆくべきである。米国では成人への3回目のブースター接種後に子供への接種、と移っていったので、日本もまずは成人のブースター接種が終了した後でも遅くない。少なくとも成人でやってきた「接種率80%を目標に一気に進める」ことはやらないほうがいい、と提言されています。また量も大人と異なり、大暴れして抵抗する年代でもあり、集団接種にはそぐわず、医療機関での個別接種が望ましい、とも述べています。
私個人の考えを話すことにどのくらい意味があるか、という問題は置いておくとして。個人的には、まわりの成人がRNAワクチンでシールドされていたら、という前提ですが、こどもには、RNAワクチンよりも効果は劣るものの、以前からずーっと使われて、起きる副反応も想像がつき、保存などの取り扱いも段違いに楽な「不活化ワクチン」が開発され、しっかり治験が行われた後に接種する、でいいのではないか、と思ったりします。「健康なこどもには12歳になってからすぐに接種する」、でもいいのじゃないかと、個人的には思います。RNAワクチンの実力はホントに高く評価していますが、ワクチンに利用するため、これまで地球上になかった「安定性を保持した人工核酸」を開発して利用した、というところに若干の引っ掛かりがあります。熱が出た、とか筋肉痛がひどい、といったレベルのことを話しているのではありません。もっと先の先の話です。「個別接種でかかりつけで打って」てなことになると、接種する我々にとっては、本当に信頼できるワクチンでないと納得して接種しにくいです。簡単に言うと、私のようなおじさんは先があってもせいぜい数十年ですが、先の長い大事な大事なこどもに、20年、30年先のことがまだよくわからないようなものを気軽に打てるのか?将来何かあった場合にだれがどう責任を取るのか?こどもは自分が死んだ後も生き続け、こどもをつくり育ててゆくのですから。 RNAワクチンの個別接種は、成人はもちろん、いわんやこどもにはその辺で引っ掛かり、正直気乗りしません。
まあ、宝くじに当たるよりも低い確率で起きるかもしれない(というか、多くの学者が言っているようにまず起きない)問題を大げさに取り上げるのは、自分らしくないので、どうしてもやれとお上に言われたら、なんとかしないといけないんでしょう。KMBの不活化ワクチンなら喜んで手上げします。
◎今年1年間、ありがとうございました。
今年もあと1か月。2017年に開業して5回目の年末年始を迎えます。冒頭にも書きましたが、「Time flies」、「光陰矢の如し」。実感します●今年はコロナ第5波で、オリンピックも菅政権も台無しになりました。クリニックも相変わらず閑古鳥がピーピー鳴いていますが、それでも夏にRSウイルス感染症が流行し、秋に手足口病、ヘルパンギーナ、エコー発疹症なんかが季節外れに流行し、去年に比べたらまだましでした●が、去年から始まったコロナ禍特例乳幼児臨時加算も、10月にはいつの間にか半分に減額され、4月からゼロ。コロナ支援金もなくなり、経営的には予断を許しません。いつまであるかはわかりませんが、コロナワクチンやコロナ宿泊療養を時間外にお手伝いさせていただき、税金支払いや生活費の足しする生活が続きそうです●今年は初めて大分市小児科医会の講演会の座長、それに別府でオンライン開催された九州外来小児科学研究会の運営にもすこし携わりました。公的な団体の役をするのは生まれて初めての経験で勉強になりました●大分に2013年の正月からきて8年、去年まではずっと職場と銭湯、アパートの往復で過ごしていましたが、最近では休日に大分県内の神社仏閣や名跡巡りをはじめました。大分再発見!しています。遅ればせながら、ここは本当にいいところだと実感しています。来年も少しずつでも変わってゆけたらと思います。皆様方もいい正月をお迎えください。