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シックキッズニュース 5月号 (No.48) 食物アレルギーの診療を変えた疫学調査や臨床研究

シックキッズニュース 5月号 (No.48) 食物アレルギーの診療を変えた疫学調査や臨床研究

ゴールデンウイークに入ったというのに、ワクチン接種が進まない日本はコロナ第4波に見舞われてしまいました。「家にいて、外に出ないで、こっちに来ないで、でも聖火リレーはやめないよ、緊急事態解除してバッハ会長にもみてもらうよ」、「酒は飲まないで、でもテレビ見てたらビールの宣伝ばっかだよ・・・(まだまだかけそう)」。国民もうんざりしてしまって、これまでといったい何が違うのかよくわからない緊急事態宣言の効果もメッキがはがれちゃっているようです。が、相手はコロナ変異株。こどもにも感染することがある、とのことで、これまでは高みの見物だった小児科医たちもうかうかしていられない状況となりました。大阪の重症者をみる病院は崩壊している、ということです。コロナ制圧のためには、イスラエルやイギリスのように、コロナワクチンしかないでしょう。みんなに早くワクチンが行き渡ることを祈るしかないです。

さて気分を変え、今月は食物アレルギーについててみます。最近、食物アレルギーの発症の原因には、児の「食事制限」に加え、皮脂欠乏症やアトピー性皮膚炎のような「遺伝的な要因」と、家庭やよく訪れる実家や保育園でどんな食生活を送っているのかなど「環境要因」の3つがかかわってきていることがだんだんわかってきました。今回のシックキッズニュースは2010年半ばから世界で行われてきた歴史的な臨床研究にフォーカスを当て、食物アレルギーの発症予防について解説いたします。

 

今月のフォーカス 食物アレルギーの診療を変えた疫学調査や臨床研究

食物アレルギー発症に絡む3つの要因(青マル)と対策法(白枠)・夏目統先生アレルギア2020年9月号から改変

これまで行われてきた食物アレルギーに関する疫学調査や臨床研究の流れ

1990年前半までは、食物アレルギーの患者はあまりおらず、注目もあまりされていませんでした。症状を起こす原因食品の除去と、症状が出現してしまった時のアレルギー症状やアナフィラキシーに対する治療のみが細々と行われていました。また、アトピー性皮膚炎にたいしても、マスコミなどのバッシングの影響で、ステロイド軟こう療法なんかとんでもないと思われていた頃で、小児科医はあえて皮膚の治療を嫌がり、「皮膚科に行って」と投げていました。それどころか、「妊娠中や授乳中の母親の食事内容に問題あり」、とか、「離乳食で卵を取るのは危険」とか、あらぬ妄想を私を含む多くの医師たちが抱いており、それを母親たちに唱えて、今から振り返れば、噴飯もの、穴があれば入りたいようなお笑いのような食事指導がなされていました。

1995年、サンデイエゴのグループがこのような迷信を打ち破る最初の大規模なコホート調査の結果を発表しました(詳細は下記に記した①を参照。以下同様)。妊娠後期から授乳中にかけてアレルギー食品を母親に食べてもらった群と完全除去した群に分け、7歳になった時点での食物アレルギーの発症率の差を見たところ、予想に反してどちらも有意な差は認めなかったのでした。これまで除去していないからアレルギーになったんだよ、と母親を責めるようなことを言っていた小児科医は赤面状態でした。医者が食物アレルギーの発症を増長するかのような指導をしていたのです。驚くべきことか悲しむべきことか、いまだにこのような間違った指導をされているところがあると聞いています。医者の無知は罪、とはまさにこのことです。

ちょうどこのころ、20世紀後半になってから、イギリスや北米では、こどものピーナツアレルギーでアナフィラキシーをおこす例が増加、中には死亡する例がでるなど大変問題になっていました。アメリカ小児科学会でも、2000年の時点では「家族にアレルギーのある乳児では補完食(離乳食)を生後6か月までは開始せず、乳製品は1歳まで、鶏卵は2歳まで、ピーナッツ・ナッツ類・魚などは3歳まで与えるべきではない」との声明を発表していたほどです。そのイギリスでピーナツアレルギーの原因を探る疫学調査が行われました(②を参照)。30年前の1991年4月から1992年12月の間にイングランド・エイボン川沿い、ブリストル地方の14000人以上の妊婦を調査に登録した世界初めての本格的な出生コホート研究、エイボンの親と子の縦断的研究(ALSPAC)で得られたピーナツアレルギーの原因に関する調査結果が2003年発表されました。この調査で判明したのは、ピーナツアレルギーになったこどもの9割は赤ちゃんの時にピーナツオイルを塗布されていた、という事実でした。食べ物の成分が皮膚を通して体に入ってしまうと皮膚感作していまい、食物アレルギーになるのではないか?という仮説が生まれました。

一方、イスラエルは、人種も天候を含む環境もイギリス人や北米人と変わらないにも関わらず、なぜかピーナッツアレルギーが問題になっていないことに注目したイギリスのグループは、イギリスとイスラエルの児童たちにアンケート調査を行い、食物アレルギーの発症率や離乳食のメニューの違いなど分析し見ました(③を参照)。2008年のことです。すると、イギリスで問題になっているピーナツやゴマアレルギーが、イスラエル人にはほとんどないことが統計学的に明らかになりました。そして驚いたことに、イスラエルでは離乳食としてピーナッツ含羞のピーナッツバターやバンバという赤ちゃんせんべいなどを乳児期から積極的に摂取していることが判明しました。つまり、赤ちゃんの口から消化管を通してピーナッツなどの食品が暴露させるとアレルギー発症を予防できるのではないか、という仮説も生まれました。2003年に皮膚感作がアレルギー発症を増やすという仮説と合わせ、この調査グループたちは「二重抗原暴露説」という新しい仮説を立てました。つまり、湿疹など皮膚のバリア機能が弱いと皮膚感作が起きてアレルギーを発症する一方、口から食べて消化管から級数するとアレルギー発症を予防する、という考え方です。

この「二重抗原暴露説」を立証すべく、多くの疫学調査やコホート研究が立案、実行されました。そして、ついに2014年、日本からアトピー性皮膚炎のハイリスクベビーに出生早期の生後7日目くらいから、せっせと全身にドゥーエ(ヒルドイドと同じモイスチャライザー)を全身に塗れば、その後のアトピーの発症を有意差をもって予防することができた、という、いわゆるアレルギー疾患の予防法の確立の発表を世界で初めて行いました(④を参照)。残念ながら、昨年2020年に報告されたヨーロッパの2つのエモリエントを使った、後追いの大規模なコホート研究ではアトピー発症を抑えることができなかった(⑩を参照)のですが、この発表があってから、というもの、小児科医たちは急に赤ちゃんの皮膚の管理を皮膚科医顔負けの勢いで一生懸命にやるようになりました。だって全身に保険収載されているヒルドイドを塗ってもらえばアトピー発症率が減る、というエビデンスがでたのですから。

そしてついに2015年、イスラエル人のように離乳早期からピーナツを積極的に食べさせれば、イギリス人だってピーナツアレルギーの発症を抑えることができるんだ、という報告がでました(⑤を参照)。これこそ食物アレルギー予防法の正真正銘本物の予防法確立、という金字塔を打ち立てたLEAPスタディーです。そしてその後1年間ピーナツを食べなくても、アレルギーが起きない状態は持続できたのです(LEAP ONスタディー)。離乳食で食べていたものは、たとえピーナツでもアレルギーにならない、この驚くべき、というか考えてみたら当たり前のような結果は、一気に世界の食アレの臨床医の銅鉄研究に火をつけました。

2016年には、同じイギリスのグループが、生後3か月という超早期から補完食(離乳食)をスタートEATスタディー)。生後3か月から生後6か月の間に、人工乳からスタート。ピーナツバター、卵製品、ゴマ、白身魚、そして小麦製品と広げていったら、やはり食物アレルギー発症を低下させ、特にピーナツと卵に関してははっきりとしたアレルギー抑制効果が見られたと報告しました(⑥を参照)。

日本でも問題になっている卵アレルギーについても世界中でいろいろなデザインでコホート研究されてきましたが、途中でアレルギー症状発症したりして離脱したり抑制効果がでないなど、失敗続きでした。しかし、ようやく2018年に日本の成育医療研究センターのグループが、湿疹を完璧に治療してきれいな状態を軟膏療法などで維持しながら、加熱粉末卵をごく少量を生後6か月からスタート。摂取量を段階的に上げることで、鶏卵アレルギーも予防できるこたことを報告しました(PETITスタディー)。これで、イギリス、北米で問題となっているピーナツだけでなく、特に日本で問題の卵アレルギーも皮膚の治療をしっかり行いながら、離乳初期から少量から慎重に摂取させると発症を予防できることが明らかになりました(⑦を参照)。

妊娠中から母体が卵をやめて、生まれてからも授乳中は卵を完全除去して、赤ちゃんにも一切卵製品を取らしたことがないのになぜ検査したら卵が陽性になるの???といった謎は、私が医師になった1990年くらいからありました。その謎が解ける時が来ました。2018年、日本の出生コホート研究、こどもの健康と環境に関する全国調査「エコチル」のパイロットスタディーで、3歳のこどものいる家庭のこどもの寝具の埃を集めて分析したところ、なんとダニの成分よりも多くの鶏卵アレルゲンが全員かつ大量に検出されました(⑧を参照)。布団の中の埃に潜む鶏卵などの食物アレルゲンが、荒れた肌をとおして「皮膚感作」をおこして、検査をしたら卵に感作していた、というわけだったのです。生活の中で出てしまう食物アレルゲンを含む埃を除去するのももちろん大事ですが、正直掃除しても見えないものだしきりがありません。皮膚のバリア機能の重要性が改めて示されました。

卵以上に厄介で、今後大きな問題になると思われているのは「牛乳アレルギー」といわれています。ひとたび症状が起きると重篤なケースが多く、また治りづらいからです。卵に関しては、早期から慎重に開始したら予防できそうなことがわかりましたが、当然、牛乳ではどうか、となります。昨年、2020年、日本のエコチル調査チームが、あかちゃんの人工乳の乳児期の摂取状況と牛乳アレルギーの発生率のと関連性について調べてみました。すると、3か月から人工乳を定期的に摂取していたあかちゃんたちは、牛乳アレルギーの人が大変少なかったという結果でした。そして、今年2021年初めに、沖縄のグループが、生後3か月から定期的に1日10mL以上人工乳を3か月ほど摂取させたら、思った通りに牛乳アレルギーの発症を減らすことができた、というコホート研究、SPADEスタディーを報告しました(⑨を参照)。

2020年にアレルギー発症のハイリスクのあかちゃんにエモリエント(ヒルドイドやドゥーエのような吸水性の保湿剤ではなくパラフィン系、あるいはワセリン系油脂製剤)をしっかり塗ったイギリスのコホート研究(BEEPスタディー)と、普通の一般乳児にエモリエントを塗布したノルウェーの研究(PreventADALLスタディー)では、残念なからアトピー性皮膚炎の発症を抑えることができなかったようです(⑩を参照)。

一方、アトピー性皮膚炎の赤ちゃんの皮膚は、一見きれいに見えているところの皮膚でもバリア機能が落ちており、皮膚の深層には炎症が残存している、ということが知られいます。皮膚を保護し保湿するだけでは不十分で、アトピーの赤ちゃんの全身の皮膚に熾り火のように存在する炎症をしっかり治さないと、アレルギーの発症は抑えることができないのではないか、という仮説が生まれました。成育医療センターのグループでは全国の医療機関と協力して、湿疹があるあかちゃんの、湿疹部だけでなく全身にステロイド軟こうをしっかり使用したら、食物アレルギーが予防できるかどうか、ステロイド軟こうの副作用も含めてコホート研究をスタートしています(PACIスタディー)。すでに650人のあかちゃんたちの登録が今年2月に終了し、現在解析中と聞いています。この結果次第では、乳児湿疹やアトピー性皮膚炎などアレルギー疾患の予備軍の赤ちゃんたちの皮膚の管理方法が大きく変わる可能性があります。湿疹のあるあかちゃんにステロイド軟こうを全身に安全に塗布できて湿疹を完全にコントロールできたら、その後の食物アレルギーや喘息、アレルギー性鼻炎、花粉症など現代人を悩ませている国民病を制圧できるかもしれません。私たちアレルギー専門の医者立ちは固唾を飲んでその結果に注視しています。

 

終わりに

2010年前後からはじまった食物アレルギーとアトピー性皮膚炎の診療の変遷ほど、パラダイムシフトが起きたものはほかに知りません。私が医者になったときは、「ステロイドは悪魔の薬だ!関わるな。血液検査をして陽性のものは除去しろ!」と先輩医師に言われた通りやってりゃ済んでいたものが、全国の妊婦とこども10万組を対象に行われているエコチル出生や世界中で盛んに始められたコホート研究で、今回述べた重大なエビデンスがでて、コペルニクス的転換が起こりました。「皮膚にできた湿疹は徹底的にステロイド軟膏できれいにしてください」、「離乳食は5か月くらいから早めにスタートしましょう」、「生後半年になったら食べられるたんぱく質はできるだけ口に入れましょう」、「各々の食生活で使う頻度の高く家庭環境中の埃にあるかもしれない食品は、できるだけ早い時期から少量でいいので口にしましょう」、もしかしたら今年の中頃くらいからは、「湿疹ができやすいこともには保湿剤だけではなくステロイド軟こうを全身に塗りましょう!」と変わるかもしれないのです。

我々医療者は、先輩医者から教えられたことを丁稚奉公人のように踏襲するやり方ではなく、大規模な疫学調査やコホート研究(正直地味でつまらないけど、大切で誰かがやらなければいけない調査)ででたエビデンスをもとに作られたガイドラインにそって患者さんに医療を提供してゆかねばならない。私自身の昔の失敗を踏まえ、強くその思いをいたしています。

 

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以下に順を追って、重大な疫学検査たコホート研究を紹介します。長いので、きつい人は、興味のある研究だけ参照ください。

 

① 1995年、妊娠中、授乳中、それにあかちゃんに牛乳、卵、ピーナツを避けても食物アレルギーを含むアレルギー疾患の発症を抑えることができなかった、とする報告がサンディエゴから報告

私が医者になった1990年代前半は、食物アレルギーの患者さんを診ることはあまりありませんでしたが、アトピーのこどもは結構いました。アトピー性皮膚炎や食物アレルギーのこどもがいたら、昔から保険収載されていた採血検査を行い、食物特異的なIgE抗体の値をみて、陽性ならば除去する、というのが一般的でした。アトピーには、「悪魔の薬、ステロイド」と流説を流した久米宏のニュースステーションなど、マスコミによる間違った流説を信じ、「ステロイド忌避」になった患者さんが多く、ステロイドが使えませんでした。仕方なく食べると悪化するかもしれないものを採血検査で徹底的に探すしか、有効?と思える手段がなかったのです。それが当時の常識でした。

ところがその常識はどうやら間違いではないか、という調査が1995年アメリカのサンディエゴから発表されました。アトピー性皮膚炎がある妊婦を、妊娠後期に、栄養士の監督のもと、母体・乳児食アレルゲン回避食(予防的治療食群、59人)と、標準的な母子食事群(108人)の2つの群に分けて、この2群間で7歳の時点でアトピー性皮膚炎、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、喘息、食物アレルギーの発症の差を調べてみました。予防的治療食群は、母親には妊娠後期と授乳期を通して乳、卵、ピーナツ製品を除去しました。こどもは1歳になるまでは乳、卵、ピーナッツ製品を避けた食事を、子供が1歳になってから乳製品を、2歳で卵製品、3歳でピーナツ製品を摂取するように栄養指導しています。そして7歳時点での食物アレルギーを含むアレルギー疾患の発症率を両群間で比較しました。

下の図にあるように、食物アレルギーに関しては、そもそも予防的治療食群では乳、卵、ピーナツ製品をある年代まで食べていないので、その分食物アレルギーの頻度は減り、食物アレルギーの発生回数は減りました。そりゃ食べなければ餓死するかもしれませんがアレルギーは起きませんよね。しかし7歳になると、除去した群もそうでない群も発生率に差がない、という結果でした。他のアトピーや喘息、鼻炎、蕁麻疹に関しても同様に、両群間に発症率に差がないことがわかりました。つまり昔やられていた、妊娠中、授乳中、離乳食から卵、乳、ピーナツ製品を避けても、アトピーや食物アレルギーの発症は予防できないということです。

 

母子ともにアレルギー食品を除去しても食物アレルギーの発症に差はなかった

② 2003年、ピーナツオイルを塗布するとピーナツアレルギーになる率が高くなることがイギリスから報告

イギリスや北米では、20世紀後半くらいからピーナツアレルギーの有症率がどんどん上昇して、誤食して命を起こすこどもさえもいることが大きな社会問題となりました。私は2001年から5年ほど子供連れで北米生活をしましたが、プリスクールに持ってゆくランチにピーナツバターは厳禁です、と注意されました。日本でのそばと同じように、北米、イギリスではピーナツが恐れられていたのです。

そういう事情で、イギリスではピーナツアレルギーの原因や予防について2000年くらいから盛んに研究されていました。その一つ、エイボンの親と子の縦断的研究(ALSPAC)といわれているものがあります。30年前の1991年4月から1992年12月の間にイングランド・エイボン川沿い、ブリストル地方の14000人以上の妊婦を調査に登録。以後、その夫と生まれてきた子供とともに20年以上にわたりフォローアップされている世界をリードする出生コホート研究です。日本で2010年から行っている出生コホート研究「エコチル」もこれをまねたものでしょう。

2003年、この出生コホート研究からピーナツアレルギーの原因に関して大きな成果がでました。ピーナツアレルギーと診断されたこどもの91%に、ピーナツオイル含有のクルームが使われていたという事実が判明しました。これはピーナツアレルギーになるオッズ比が、ピーナツオイルを塗ると7.49倍に跳ね上がるということです。大豆乳摂取量や皮膚炎の有無でオッズ比を補正しても6.81倍です。その他、統計学的にピーナッツアレルギーと関連する事項としては、母親に湿疹があること(オッズ比1.69倍)、完全母乳哺育(オッズ比3.11倍)、2歳までの大豆乳や大豆製品摂取(オッズ比3.6倍)、生後6か月以内の皮膚のしわや関節の発疹(オッズ比4.66倍)やじくじくした湿疹(オッズ比7.07倍)などでした。一方、この調査では、妊婦のピーナツや大豆の摂取は、それぞれオッズ比0.98倍、1.09倍と、こどものピーナッツアレルギーの発症とは無関係でした。このころ信じられていた妊婦や授乳している母親に対する食事除去は、少なくともピーナツアレルギーの発症に関しては否定されました。

バズフィードの堀向先生の記事から

③ 歴史の転換点。2008年、離乳食でピーナツを食べるとピーナツアレルギーの発症を抑えることができるとイギリスから報告され、二重抗原暴露説という仮説が生まれた

妊娠中、授乳中、乳児期に食物アレルゲンを排除しても、食物アレルギーなどのアレルギー疾患の発症を抑えることができなかった1995年のサンディエゴの調査結果と、2003年のエイボンの親と子の縦断的研究のピーナツアレルギーの調査から、食物アレルギーは、口からではなく皮膚を通して食物(この場合ピーナツ)に感作されることにより、発症するリスクが高まることが示されました。

一方、日本の伝統的な技術である漆食器をつくる職人たちは、漆かぶれを軽くするために、漆をなめて慣れてきた、といわれています。日本でもやられているスギ花粉やダニの舌下免疫療法のはしりです。またイスラエルは基本的にはピーナツアレルギーが問題となっているイギリスや北米と環境も人種も変わらず、アトピーも多い国の一つなのですが、不思議にピーナツアレルギーが問題になっているという話を聞きませんでした。そのイスラエルでは、離乳食からピーナツバターやピーナツを使用したBAMBAという赤ちゃんせんべいのようなものを食べさせているそうです。

「離乳食からピーナツ製剤を食べている」イスラエルに注目したイギリスのギデオン・ラックたちのグループは、2008年、これまでの食物アレルギーの常識をひっくり返す歴史的な疫学調査を発表しました。イスラエルとイギリスでのピーナツアレルギーの罹患率やピーナツ摂取量を調査して、イギリスのそれと比較検討してみたのです。

イスラエル、イギリス両国の5歳から18歳までの児童生徒の食物摂取状況調査のアンケート行われ、イスラエルが4,672人、イギリスで4148人から回収されました。それを分析した結果、イギリス人のピーナッツアレルギーの有病率が1.85%だったのに対し、イスラエル人は0.17%と、予想通りイスラエル人のピーナッツアレルギーは少ないことがはっきりしました。これは5歳から18歳までのイギリス人で相対リスク比が10.8倍、小学生で17.4倍と、圧倒的にイギリス人はピーナッツアレルギーになるリスクが高いと統計学的にも証明されました。ピーナッツだけでなく、木の実やゴマのアレルギーも統計学的にはイギリス人のほうが有意に有病率が高い結果でした。一方、卵や牛乳のアレルギーに関してはイギリス人、イスラエル人ともに同等の有病率でした。

両国の食物アレルギーの年代別の発生率の推移。イスラエルはピーナツとごまのアレルギーがイギリスよりも明らかに少ない

この調査では、生後4か月から24か月(2歳の誕生日前)の乳児176人の離乳食の状況も調べています。卵、大豆、小麦、野菜、果物、木の実の離乳食の状況はイギリス、イスラエルともに同じような状況でした。一番大きな違いは、予想通りピーナッツでした。イスラエル人の69%が9か月までにピーナッツ製剤を食べさせていたのに対して、イギリス人ではわずか10%でした。1歳時点のピーナツの月間摂取量ですが、イスラエスではピーナツ蛋白量の中央値がで7.1gだったのに対し、ピーナツアレルギーを恐れているイギリス人では0gだったのです。また、母乳育児中にピーナツを摂取していない母親の割合もイギリス人のほうが有意に多かったようです。ゴマアレルギーもイスラエルでは少ないのですが、そのゴマに関してもピーナッツほどではないにしろイスラエルのほうが摂取量は多かったです。

両国の年代別のピーナツ・ゴマの摂取量の違い。予想通りイスラエルはピーナツ・ゴマの摂取量がどの年代も多い

この調査で、イギリス人はイスラエル人に比べ、ピーナツアレルギーの有病率が10倍高いことがはっきりと示されたのですが、イギリスとイスラエルは、人種や文化、環境、社会経済的な階級などほとんど同じですので、これらによってピーナツアレルギーの有症率に差が出たとは考えられません。唯一説明がつくのは離乳食で、ピーナツ(とゴマ)の摂取量がイギリスとイスラエルでは大きく違いました。イスラエルでは離乳初期からピーナツ製品を頻繁かつ大量に摂取しているのに対し、ピーナツアレルギーが深刻なイギリスは保健省の推奨に従いピーナッツを避ける傾向があり、ピーナツ摂取がほぼなかったのです。

この年、ギデオン・ラックたちは、「二重抗原暴露説」という新たな仮説を提唱しました。つまり、皮膚から食物が入ればアレルギーになり、食べて消化管から入ればアレルギーを防ぐことができる、という仮説です。食べるからアレルギーになる、というそれまでの常識を一変させました。アメリカ小児科学会は2000年に「補完食(離乳食)は生後6か月になるまでは開始せず、乳製品は1歳まで、鶏卵は2歳まで、ピーナッツ・ナッツ・魚などは3歳まで与えるべきではない」と声明を発表していましたが、2008年には、「補完食の開始を遅らせてもアレルギー疾患を予防する根拠はない」と方針を転換しました。また2008年といえば、日本では経口負荷試験が保険収載された記念すべき年です。この年は食物アレルギーの歴史に長く記憶されることになるでしょう。

アレルギーの常識を一変させた二重抗原暴露説。以後大規模なコホート研究により、仮説が正しいことが立証された

④ 2014年、世界で初めてアトピー性皮膚炎の発症の予防法を発見したと日本から報告

 ギデオン・ラックたちが唱えた二重抗原暴露説、つまり、①保湿剤や保護剤を塗布して皮膚バリアを改善・向上させることで、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの発症を防ぐことができるか?、②離乳食段階での早期の食物開始は食物アレルギーの発症を防ぐことができるか?という問題を解決するため、世界中でその仮説を検証すべく、疫学調査が始まりました。世界各国の多くの疫学研究が失敗する中、2014年、国立成育医療センターのグループが、アトピー性皮膚炎発症予防に初めて成功しました。

両親にアトピー性皮膚炎があり、アトピー発症のハイリスクと思われる赤ちゃんたち118人を登録して、生後1週間から1日1回以上全身に保湿剤(2e:ドゥーエ)を塗るように指示した介入群と、乾燥部だけにワセリンだけを塗布した対象群にわけて、生後8か月時点でのアトピー性皮膚炎の発症率の2群間で比較してみました。すると大将軍では28人アトピーが発症していたのに対し、介入群ではわずか19人と、保湿剤をしっかり塗っていた子供のほうがアトピーを発症するリスクが明らかに減ったのでした。

実は日本では1970年代から、「アレルギーマーチ」という考え方がありました。同愛記念病院の馬場実先生が提唱しました。彼は喘息や食物アレルギーをもつ人の大部分がアトピー性皮膚炎で子供のころに苦しんでいた経験をもつことに注目。これらアレルギー疾患の初めての病気がアトピー性皮膚炎だった人が72%だったことを調査で突き止めました。アトピー性皮膚炎が起点となり、年代が進むにつれ食物アレルギー、喘息、アレルギー性鼻炎と次々に形を変えてアレルギー疾患が発症するさまが、まさにマーチングしているように見えたことからそう名付けられたそうです。2017年、ヨーロッパのPASTURE研究グループから、アトピー性皮膚炎を4つのグループに細分類化が提案されました。図のオレンジの線のように乳児期早期に発症して3歳くらいまでには治る早期発症一過性型は、食物アレルギーとの関連が、乳児早期から発症して中なら治らない早期発症持続型は6歳の時点でも治らない食物アレルギー、喘息、アレルギー性鼻炎が、2歳くらいから悪化する遅発型はアレルギー性鼻炎との関連性が認められたと報告され、アレルギーマーチの起点であるアトピー性皮膚炎への対処がその後のアレルギー疾患発症を決めることが明らかになりました。

ということで、保湿剤でアトピーをうまくすり抜ければ、その後に次々と起きるであろう食物アレルギーや喘息、鼻炎などの発症が抑えられるかもしれない!この成育医療センターの保湿剤がアトピー発症を抑えることができたという結果をうけ、乳児期から皮膚の管理を積極的に指導し始める小児科医が急増しました。特にコロナで風邪の子がいなくなった去年の夏あたりから、うちなんか「小児科ではなくて皮膚科に看板返したんではないかい?」といわれそうなほど軟膏やクリームばかり出していた時期がありました。それがどんどんエスカレートして、小児科や皮膚科の中には、保湿剤を2キロも一度に処方するものもあらわれたそうです。2017年にマスコミでも問題にされた「ヒルドイドの美容目的処方」が社会問題になり、すんでのところでヒルドイドなどの保湿剤の保険適用が外されるかもしれない事態に陥りました。月200g以内の使用などの適正処方を促す、という処方制限がかかり、今のところはかろうじて保険が外される事態は逃れました。

 

⑤ 2015年、イギリスから、ついにピーナツの早期摂取がピーナツアレルギーを予防することができた、という歴史的な発表がなされた(LEAPスタディー)

2008年のイスラエルとイギリスのピーナツの離乳食摂取量の違いとピーナツアレルギーの発症とは関係がありそう、という報告をしたグループは、その後実際にピーナッツを乳児に早期から食べたらピーナッツアレルギーの発症が抑えられるかどうか、ランダム化比較試験を計画、実行しました。そしてついに2015年、ニューイングランドジャーナルにその結果を報告しました。それが、食物アレルギー予防研究の金字塔、といわれている「LEAPスタディ」です。

どういう試験だったか。対象は重度のアトピー性皮膚炎、もしくは卵アレルギー、その両方があり、かつ、ピーナツの皮膚テストで膨疹径が陰性、または1~4mmの弱陽性の生後4か月から10か月までの乳児640人です。ピーナツに強く反応と考えらえる皮膚テストの膨疹径5mm以上の陽性者は、離乳食でピーナツを摂取した時にアレルギー反応が出る危険があり除外されました。

ピーナツ摂取群は、生後60か月(5歳)まで、たんぱく質換算で週に最低6gのピーナツ摂取を指示。バンバというピーナツ含有スナック菓子が推奨されましたが、食べない子にはピーナツバターで摂取してもらいました。5歳の時点で、ピーナツ摂取群と除去群のピーナツアレルギーの発症率を、ピーナツたんぱく換算で5gの単回での負荷試験の結果で比較しました。

ます、ピーナツの皮膚試験陰性のグループで解析してみると、ピーナツを除去されたこどもの群はピーナツ負荷試験で13.7%に反応が出たのに対し、ピーナッツたんぱく換算で週最低6g摂取していた群のピーナッツ負荷試験陽性率はわずか1.9%でした。つまり、統計学的解析の結果、ピーナツを食べることで、ピーナツアレルギーの発症を86.1%減らすことができたことになります。皮膚試験が弱陽性(1~4mm)のグループでも、除去された群の負荷試験陽性率は35.3%だったのに対し、ピーナツを食べていた群はわずか10.6%。ピーナツを食べていれば70.0%のリスク減少効果を認めました。

緑のバーがピーナツを摂取したグループで、除去したグループに比べアレルギーが激減

この話には続編があり、1年後の2016年にLEAP-ONスタディーとして発表されました。1粒で2度おいしい、とはこのことでしょう。LEAPスタディに参加したうちの556人に、その後も研究に参加してもらいました。具体的には、それから1年間ピーナツ摂取を完全にやめたらピーナツアレルギーの発生率が変わるかどうか調べました。というのは、重症の食物アレルギー患者にしばしは導入される経口免疫療法では、いったんは食べられるようになっても、食べるのをやめたらまた食物アレルギー症状がでて食べられなくなる例が頻発するから、ピーナツの早期摂取でピーナッツアレルギーが発症しなくなっても、食べるのをやめたらどうなるか、不安だったから調べてみたそうです。結果は、幸いにも予想に反して、1年間ピーナツを除去しても、1年後のピーナツ負荷試験で陽性者が増加するような現象が見られなかったのです。

 

この研究は、食物アレルギーが食べることで予防できることを証明した初めての大規模なランダム化試験として世界中にインパクトを与えました。「激しいアレルギーを起こすかもしれないからピーナッツを赤ちゃんに食べさせるのはやめよう」というそれまでの常識が覆された瞬間でした。この結果、ピーナツアレルギーを恐れていた北米やイギリスの国民感情はがらりと変わり、生後6か月以降であればピーナツ製剤を離乳食の食材として導入してよいとされました。禁止から推奨、この180度の転換により、オーストラリアでは1歳未満にピーナツ製剤を介している乳児は2007年から2011年にはわずか3割以下だったものが2017年から2018年には9割近くに達したそうです。

これをきっかけに卵や牛乳など、ほかの食材はどうか、ということになり、世界中で一斉にランダム化比較試験が開始されました。

⑥ 2016年、離乳食を生後3~6か月の早期にスタートして多品目摂取させたら食物アレルギーが出にくかった(EATスタディー)

WHOは、生後6か月は乳児に母乳のみを与えることを推奨しています。しかし、LEAPスタディーでピーナツの早期摂取開始がピーナツアレルギーを予防できることが示されました。では、ほかの食品を、思い切ってもっと早くからとってみたらどうか?という疑問に答えたのが、イギリスのラックたちのグループが2016年に発表したEATスタディーです。

イギリスの生後3か月まで母乳で哺育されていた赤ちゃん1303人を登録し、早期導入群と標準導入群に分け、早期導入群は生後3か月から乳製品(ヨーグルト、人工乳)からスタートし、その後徐々にピーナツバター、加熱鶏卵、ゴマ、白身魚と広げ、最後に小麦製剤を摂取してもらいました。標準摂取グループは、普通の育て方通りに生後6か月までは母乳のみ、それ以後親の判断で、アレルギー食品を摂取してもらいました。標準導入グループに振り分けられた564人中524人がきちんとプロトコールを守ったのに対し、早期導入群ひりわけの567人では、途中で症状がでるなどで脱落してしまう赤ちゃんが278人出てしまい、プロトコールを遵守できた赤ちゃんは208人でした。結果、標準導入群では、594人中7.1%の42人が食物アレルギーだったのに対し、生後3か月から早期導入した群は、アレルギー症状出現などのため途中離脱せざるを得なかった赤ちゃんを含め5.6%の発生率で、一見差はありませんでした。しかし、言われた通りスケジュールを完遂できた赤ちゃんだけをみると、7.3%対2.3%の食物アレルギー発生率と、早期に食べることができた赤ちゃんたちの食物アレルギー出現率は下がりました。ここの食品で見てゆくと、ピーナッツが2.5%対0%、卵が5.5%対1.4%と優位に低下しましたが、乳製品、ゴマ、魚、小麦については有意な差はつきませんでした。離乳食は6か月まで待たす早めに開始して、いろいろなものを食べさせたほうがいいのでは、というEATスタディーは大きな波紋を起こしました。

緑のバーが生後3か月から離乳食を介した群。脱落した赤ちゃんを除けば明らかに早期開始群のアレルギー発症が低い

⑦ 2018年、ついに日本から離乳期早期の鶏卵摂取が卵アレルギーを予防することが報告される(PEPITスタディー)

北米やヨーロッパではピーナッツアレルギーが問題ですが、日本では鶏卵アレルギーが深刻な問題です。2013年から2017年にかけて、卵をはやめに開始したら卵のアレルギーが予防できるかどうか、海外から次々と発表されました。いわゆる、「STAR」、「HEAP」、 「BEAT」、「STEP」の各研究です。残念ながら、すべて卵アレルギー予防に失敗しました。食べているグループに症状が頻回に起こり、研究を継続できない例や逆にアレルギーを発症しやすくなったりしたそうです。これらはすべて「生」の卵粉末を使用し、スキンケアや湿疹の治療をおざなりにして行った研究でした。

一方、2018年に国立成育医療センターのグループがランセットに報告した「PETITスタディー」は、これら失敗したスタディーの改良版でした。まず食材ですが、生の卵ではなく、加熱した卵粉末を使用し、離乳初期は160分の1個レベル(茹でた卵黄四分の一個)というごく少量からスタートし、中期から40分の1個(茹で卵黄1個分)と、2ステップで増量する工夫をしました。さらに、対象は生後6か月までに湿疹やアトピーを発症した乳児121人とし、最初に全員徹底的にステロイド軟こうによるプロアクティブ療法での湿疹治療や保湿剤によるスキンケアを施して治療し、研究中も皮膚の管理をずっと続けました。

その結果、1歳時点の茹で全卵での負荷試験の陽性者は、卵を完全除去していたグループは37.7%が陽性だったのに対し、卵を少量摂取していたグループはわずか8.3%(リスク比0.22)で、大幅に食物アレルギー発症を抑えることができました。ただ食べるだけでは鶏卵アレルギーを予防することはできないが、「皮膚を徹底的にきれいにする」、そして「加熱した卵を少量から開始する」という工夫をすれば、食物アレルギーを予防することができることが示されました。

これで、すくなくともピーナツと卵に関しては食べれば食物アレルギーの発症を予防できるエビデンスがでました。最近、かかりつけの小児科医たちが突然宗旨替えをして、「すこしずつ食べさせてみては?」とあかちゃんに卵を食べるように勧めるようになったのは、こういうわけだったのです。

バズフィードの堀向健太先生の記事から

⑧ 2019年、日本のエコチル調査で、100%の家庭のこどもの寝具から鶏卵アレルゲンが検出されたことが報告

昔、こどもに卵を食べさせたことがないだけでなく、自分が妊婦中や授乳中に一切卵製品を取ってないのに、子供を検査したら卵が陽性だといわれた、と嘆くお母さんたちが多くいました。アレルギーの引き金となる、「感作」という現象、つまり血液検査で陽性がでる現象は、普通は最低1回はその食べ物に接しなければ起きないので、母子ともに一切卵に触れていないのに検査で陽性となることは謎でした。

その謎を解くカギは布団と荒れた肌に合ったようです。日本の環境省、大臣のポエム発言などがその権威を失墜させつつあり悲しいですが、実は大変重要な出生コホート調査を進行中です。2010年から始まった通称「エコチル調査」、本ニュースでも何回か紹介しましたが、2019年に一つの重要な調査結果を発表しました。エコチルパイロット調査に参加している3歳のこどもがいる約90件の家庭に協力を願い、その子供の寝具の埃を掃除機で集め、鶏卵成分を分析したところ、すべての寝具の埃から鶏卵アレルゲンが検出されたのです。それどこか、同時に測定したチリダニアレルゲン濃度(埃1グラム当たり)を比較したところ、全サンプルで鶏卵アレルゲン濃度のほうがダニアレルゲン濃度よりも高いことが判明しました。

これにより、卵に触れさせたことがないと思われるこどもがなぜ卵の採血によるIgE検査で陽性になるのか、謎が解けました。その子の皮膚をよーく見てみると、ガサガサしていませんか?つまり、布団の埃の中の卵などの食物成分が、荒れた肌を通して皮膚感作というものを起こし、その子が食べ物に反応するからだ、つまり食物アレルギーになってしまう、というわけでした。

 

⑨ 2020年、人工乳を早期に摂取したら牛乳アレルギーが予防できそうだ、という2つの重要な疫学調査(エコチル調査)と臨床研究(SPADEスタディー)が日本から報告

エコチル調査とは、2010年度から妊婦とその子供10万組を対象に、こどもが13歳になるまで追って疫学調査をしている出生コホート、環境省の世界に誇れる目玉プロジェクトです。現在まだ進行中ですが、少しずつ、有益なデータがでてきています。その中で、エコチル解析グループが、人工乳をどの時期から飲み始めたら牛乳アレルギーが減っているか、調査しました。牛乳アレルギーは、症状も強く、またなかなか治りにくいこともあり、今後、卵のアレルギー以上に問題になるとされており、エコチル調査でも重点的に調べられました。そして、昨年2020年、待望の人工乳の摂取状況と牛乳アレルギーとの関連性を調べた詳細なエコチル調査結果が、イギリスのアレルギー臨床免疫学会雑誌に報告されました。生後3か月から6か月の間に人工乳を定期的に摂取していた赤ちゃんは1歳の時の牛乳アレルギーが少なかった(相対リスク0.22)、という事実が判明しました。しかし、生後0歳から3か月に飲んでいても、牛乳アレルギーの発生率は変わりませんでした。

生後3-6か月以降に人工乳を摂取していたパターン5,6,7が1歳時の牛乳アレルギーが少なかった一方、全く飲まないか生後3カ月だけ飲んだパターン4,8のアレルギーが高い

それでは、意図的に生後3か月から人工乳を少量飲ませたら牛乳アレルギーの発生が低下するのか?その疑問に答えたのが2021年の1月に沖縄から発表された「SPADEスタディー」です。生後1か月の母乳か人工乳との混合栄養児492人を登録し、生後3か月になったら人工乳を1日10mL以上を最低月20日間(中断1週間以内)のミルク摂取群243人と、人工乳を除去してもらい、母乳が足りないときは大豆乳で代用していただくミルク除去群249名に分けました。どちらの群もしっかり湿疹の治療を行うよう指導し、またミルク摂取群にも母乳栄養は継続するように推奨しています。そして、生後6か月になるまで3か月間、そのプロトコールを守っていただき、生後6か月の時の牛乳アレルギー発症の有無を、人工乳100mLの経口負荷試験で確かめてみたところ、完全母乳栄養に近い人工乳摂取群の牛乳アレルギー発症率が6.8%だったのに対し、人工乳を1日10mL以上飲んでもらっていた摂取群は0.8%と、明らかに牛乳アレルギーの発症率が低下していました。

生後3か月からミルク10mL以上飲んでいる青の群が明らかに牛乳アレルギーが低かった

人工乳を生後3か月あたりからわずかでいいので摂取させておくと、いま世界中で問題になりつつある牛乳アレルギー発症を予防しそうだ、という報告は世界に大きなインパクトを与えました。しかし、だからといって母乳哺育だから牛乳アレルギーになるかも、とか、じゃあ人工乳哺育のほうがすぐれているんではないか、という話にはなりません。実際、沖縄のSPADEスタディーでは、生後1か月という早期乳児で食物アレルギーを起こすことが非常にまれにもかかわらず、生後1か月の時点でエントリーした約500人中1人に人工乳20mLの負荷試験で蕁麻疹が出て陽性となり、登録をはねられたケースがありました。また、一部の母乳信仰論者の行き過ぎの母乳礼賛はどうかとは思いますが、母乳哺育の重要性自体はいささかも変わりません。だから、保護者の判断で勝手にミルクをやってみよう、とか思わずに、かかりつけの先生に相談しましょう。例えば、ご両親にアトピー性皮膚炎がある、あるいは牛乳などの食物アレルギー歴があった、など赤ちゃんがアレルギーになるリスクがたかそうだなー、と心配されておられるか方は、かかりつけ医に相談のうえ、できれば、酸素や薬品などアナフィラキシー対応がとられている院内で一度人工乳を20mLほど飲んで小一時間ほど観察して問題なければ試してもいいと思われます。それ以前に、湿疹やアトピーのしっかりしたコントロールが先であることは言うまでもありません。

 

⑩ 2020年、保湿剤を塗るだけではアトピーなどのアレルギー疾患を押さえられない、という試験結果がイギリスとノルウェーから発表(BEEPスタディーとPreventADALLスタディー)

保湿剤のアトピーなどのアレルギー疾患発症予防効果については、その後後追い研究がいくつかなされています。昨年、2020年3月、2つの大きなスタディーがランセット誌にBack-to-backで発表されました。イギリスのグループの「BEEPスタディー」と、ノルウェーのグループの「PreventADALL試験」です。両方ともヒルドイドのような水分をヘパリンで引き寄せるモイスチャー効果のあるものではなく、皮脂膜など油成分で水分が蒸発するのを防ぐエモリエント効果のあるパラフィン系、もしくはワセリン系エモリエントが使用されました。BEEP試験はアトピーのハイリスクな乳児1394人を生後3週間から1歳まで行い、2歳の時点でのアトピーの発症をみています。一方、PreventADALL試験は一般乳児2397人を対象にして、エモリエントだけでなく、入浴剤の使用と食物導入(ピーナツバター、牛乳、小麦かゆ、スクランブルエッグを順次与えた)も行い、1歳の時点でのアトピー性皮膚炎と3歳の時点での食物アレルギの発生(まだ試験が終わっておらず、こちらは未発表)を比べます。残念ながら日本の成育医療センターの結果とは異なり、どちらの試験もアトピーの発生を抑えることができなかったとされました。ただし、PreventADALL試験では、エモリエントと早期の離乳食開始を組み合わせて解析したら、湿疹の有病率が下がっていました(8%対5%)。

これらの2つの最新の結果から、保湿剤を塗布しただけでアトピーや食物アレルギーなどのアレルギー疾患の発症を抑えられるのはムシがよすぎる。やはり皮膚の保湿だけでは不十分だという仮説が生まれました。実際、アトピー性皮膚炎など皮膚が弱い赤ちゃんの皮膚を詳細に調べてみると、見た目でわかる患部だけでなく、一見健康そうに見えている部分でも、皮膚表面のバリア機能は低下しており、皮膚の内部には“炎症“が潜んでいると考えられています。つまり、皮膚の弱いアトピー性皮膚炎の赤ちゃんには、火を噴いている強い炎症部分だけでなく、熾り火のように一見正常に見える奥の部分持続的にコントロールをしっかりしないとだめそうだ、と推察されました。

そこで、国立成育医療センターの大矢幸弘先生のグループは、アトピー性皮膚炎の肺シルクの赤ちゃんの保湿によるスキンケアだけではなく、一見正常そうに見えている皮膚をも含めた全身の皮膚の隠れた“炎症“に注目。全身にステロイドをあかちゃんに塗布してアトピーを完全に治療してみたら、食物アレルギーの発症を予防することができるか検証中です。このシックキッズニュース2020年9月号(No.40)でも紹介した、現在調査中のPACIスタディーです。すでに今年2月に全国の協力機関で650人の登録が終了し、現在データの整理と解析中と聞きます。この結果で、もし患部だけではなく、全身にステロイドを塗布したほうが生後6か月時点での鶏卵アレルギーの発症率が抑えられた、となると、もしかしたらアトピー性皮膚炎の治療管理ガイドラインが書き換えられる大発見となるかもしれません。何とか今年10月の日本アレルギー学会学術大会、遅くても11月の日本小児アレルギー学会学術大会までには間に合えば、と心待ちにしています。

抗炎症剤、つまりステロイド軟こうの全身塗布による全身の皮膚の炎症治療はアレルギーマーチの進行をとめて食物アレルギーをはじめアレルギー疾患の発症を予防する?

診療内容:小児科・アレルギー科・予防接種・乳児健診
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