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シックキッズニュース 12月号 (NO.43)「子宮頸がんワクチン」アップデート

シックキッズニュース 12月号 (NO.43)「子宮頸がんワクチン」アップデート

全世界にとって厄年だった2020年も、もう師走。昨年の今頃から中国武漢で発生しパンデミックになった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ですが、現在の第三波が世界中を襲っています。何ともつかみどころのない感染症。テレビやネットでも意見は十人十色。みなさま感染対策ばっちりで、感染症を多く扱う多くの小児科医院は当院同様ずっこけてるようですが、業種によってはこの禍の中でもうまく知恵を使って波に乗って儲けているところもあるとは。うらやましいというか皮肉な世の中です。

さて、今年の6月号で、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)のことを取りあげました。コロナで診療が暇なので、子宮頸がんをめぐるこれまでの歴史から、この画期的技術から生まれた世界初めてのがん予防ワクチンが、世界中でなぜ日本だけで問題になって、定期接種でありながらなぜ国が積極的接種勧奨をさしひかえているか迫ろうとしました。その後も、このワクチンに関してはいろいろなよい動きがありました。そのためか、高校1年生の女学生にとっては11月中の初回接種が3回とも定期接種として受けられる最後のチャンスでしたので、これまでになく多くの問い合わせを受けて、実際接種もいたしました。そこで今年最後の本ニュースは、「子宮頸がんワクチン・アップデート」にフォーカスを当てましょう。

 

今月のフォーカス 「子宮頸がんワクチン」アップデート

 

1.子宮頸がんワクチンの9価ワクチン「シルガード9」が5年かかってやっと承認された(7月21日)

2.17歳未満でのHPVワクチンで子宮頸がんを88%減少させた論文が発表(10月1日)

3.厚労省がHPVワクチンの新しいリーフレットを作成した(10月9日)

4.HPV4価ワクチンの「ガーダシル」の男子への接種拡大へ(おそらく12月4日)

5.最後に 子宮頸がんやワクチン関連の手記や体験記のご紹介

 

※今年6月にこのワクチンについては、かなり詳細にやりました。復習されたい方、まだ目を通されていない方はこちらをクリック

 

1.子宮頸がんワクチンの9価ワクチン「シルガード9」が5年かかってやっと承認された

日本で承認されていたワクチンは、子宮頸がんになりやすいヒト・パピローマウイルス(HPV)のハイリスクの16型と18型の2価ワクチンの「サーバリックス」と、その2つに加え、イボのような尖圭コンジローマをおこす6型と11型をも防ぐ4価ワクチン「ガーダシル」の2つしか承認されていませんでした。しかし世界では、これらの型以外にも子宮頸がんを起こしやすいといわれている31、33、45,52,58の5つの型も含めた9価ワクチン「ガーダシル9(ナイン)」が主流となっています。日本で使用されている2価と4価のワクチンでは約60から70%の子宮頸がんを防げるとされていますが、この9価ワクチンであれば、約9割近くが防げるとされています。

9価ワクチンの「ガーダシル9」ですが、2014年12月に世界で初めてアメリカで承認されました。その後2015年2月にカナダ、同年6月にはEUとオーストラリアで承認。現在は70か国以上で承認されています。日本も各国に先駆けて2015年7月3日に製薬会社MSDが製造販売の承認申請を厚労省にしていましたが、5年間もたなざらしを食らって、ようやくコロナの第一波で緊急事態宣言発令中の4月16日から審査が開始。5月20日には厚労省薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会が承認していましたが、晴れて7月21日、「シルガード9」と名前を変えて製造販売を正式承認となりました。これでシルガード9を公費で接種できる「定期接種」への道筋ができました。

予防接種が定期接種化されるかどうかは雲泥の差があり、10万ほどかかる接種費用が無料になるし、副反応などの被害が起きても、(因果関係が認められれば)手厚い補償が受けられます(予防接種後健康被害救済制度)。製造販売の承認だけであれば、普通の医薬品副作用被害救済制度での補償しか受けられません。それでも公的保証があるだけましです。これまでも強い希望で「ガーダシル9」を輸入して行う医療機関があり、接種されていた方はおられたようですが、なにかあっても一切の公的保証は致しません(実際輸入ワクチンなど認可外の薬剤の場合は健康被害は保証されません)、という誓約書に判をついて10万円出して接種されていた方もいたくらいです。

日本産婦人科学会は、早くから9価ワクチンの早期承認・定期接種化の要望書を厚労省に繰り返し提出していましたし、自民党の「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す議員連盟(HPVワクチン議連)も同様な要望を同省に要望しています。しかし、現時点では、昔からあった2価・4価ワクチンの積極的勧奨再開もないし、いわんや「シルガード9」をや、の状況で、コロナ対応の方で手が回ってないと思い、期待できません。卸にも全然なく手に入らない状況だそうです。シルガードが定期接種化されてから、と待たれる方もいらっしゃいますが、まずはすでにある定期接種の2価・4価ワクチン接種をしっかり広めてゆくことが先決でしょう。シルガード9を国が審議入りを5年間もたなざらしした経緯がありますので、当然2・4価ワクチン接種済みの方にもおそらくいずれシルガード9の公費での追加接種の話はあってしかるべきと思われます。

 

2.17歳未満でのHPVワクチンで子宮頸がんを88%減少させた論文が発表

10月1日付のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに、スウェーデンから始めて、「実際に子宮頸がんが予防できることが確認された」という論文が報告されました。これまではパピローマウイルス(HPV)の感染抑制効果や、がんの前段階の「異形成」を防ぐ効果ははっきりと示されていましたが、子宮頸がんを減らすデータは、小規模のフィンランドの論文しかありませんでした(2017年12月International Journal of Cancer)。

反ワクチン派の皆様にとって、このワクチンを攻撃できる方策がだんだん尽きてますので、彼らはいつもここをついてきていました。「実際にがんをへらした」、というデータはまだないじゃないか、と。これで胸を張ってそのご意見に反論できます。

今回疫学研究が行われたスウェーデンのHPVワクチンの接種状況ですが、2006年にワクチン承認、2007年5月から13歳から17歳女性に公費接種(いわゆる定期接種)が開始されました。公的接種に使用されるワクチンは、子宮頸がんの原因の16、18型だけでなく尖圭コンジローマの原因となる6型、11型も含んだ4価ワクチンの「ガーダシル」です。スウェーデンがすごいのはここからです。2017年からは13歳から18歳のうち逃した女性の公費接種プログラムが始まっています。また同年から10~12歳を対象とした学校での集団接種も始まっています。昔、私たちの世代でおこなわれたインフルエンザワクチンの学校での集団接種です。医療先進国では大なり小なり同じような接種プログラムが進行中なのです。

今回、スウェーデンの10~30歳の女性167万2983人について、2006年から2017年までの12年間の4価ワクチン接種歴と浸潤子宮頸がんにかかったかどうか調べています。その結果、三分の1の52万7871人がHPVワクチンを少なくとも1回接種しており、その83.1%に当たる43万8939人は17歳より前に接種していました。意外なことに、不幸にも三分の2にあたる114万5112人はワクチンを接種していませんでした。

この調査期間中、31歳の誕生日までに浸潤子宮頸がんにかかったかどうか調べたところ、接種したグループで19人、接種していないグループが538人の女性が浸潤子宮頸がんの診断を受けました。10万人あたりでみると、接種群が47人、接種しなかった群が94人。接種しなかったグループの発症率を1とすると、HPVワクチンを接種したグループの発症率が0.37で、63%の減少効果がみられました。

HPVは性的な接触で感染し、一度感染したら免疫の力以外では排除ができません。そのため、初体験前の若い年齢で接種することが効果的です。実際にそうだったのか、接種した時期で調べたところ、17歳未満でワクチンを打ち始めた女性の浸潤子宮頸がん発症率が10万人当たり4人でした。接種していないグループの子宮頸がん発症率を1(下図 上のオレンジ色の線)とすると、17歳未満での接種した女性では発症率が0.12となんと88%減少していました(下図 一番下の緑線)。一方、17歳から30歳の接種では0.47と約半分の発症率でした(下図 真ん中の青線)。やはりこのワクチンは性活動が始まる前の若い年齢での接種が効果的であることも明らかになりました。なお本論文にワクチンの異常な副反応に関しての記載はありません。

今回掲載された雑誌は、「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」といって、米国ハーバード大学医学部の機関誌、つまり世界最高の権威を誇る医学雑誌です。この泣く子も黙る雑誌に大規模な疫学調査が採用されたことで、このワクチンが、HPV感染症や前がん状態である「異形成」を抑えるだけでなく、本当にがん抑制効果のあるワクチンである、と拍付けできたのは間違いありません。

 

3.厚労省がHPVワクチンの新しいリーフレットを作成した

たぶん誰も使用していなかったし、どこの役所にもおいていなかった厚労省作成のHPVの旧パンフレット。大変わかりにくく、不安をあおるだけ、の不良品という批判を受け、今年の10月に新しいリーフレットが完成し、自治体にHPVワクチンの情報提供を徹底するように通知されました。リーフレットは4種類。4ページの概要版と、8ページの詳細版接種後の体調変化の際の対応案内医療従事者向け版です。

 

概要版の説明をします。1ページ目にHPVワクチンで防ぐ「子宮頸がん」の病気の説明がかかれています。ウイルス感染が原因と書かれていますが、こどもが読むことを考え、性的接触でうつるような感染経路の説明は控えています。

 

「毎年日本で約1.1万人の女性が子宮頸がんにかかり、毎年、約2800人の女性がなくなっています」「30歳台までにがん治療で子宮を失ってしまう(妊娠できなくなってしまう)人も、毎年約1200人います」と書かれ、若い女性の命や妊娠可能性に大きなダメージを与える可能性を、図などを使い、わかりやすい表現ではっきり示しています。

 

次ページには、子宮頸がんを防ぐためにできること、HPVワクチンのメリット・デメリットが記載されています。思春期のHPVワクチン接種の重要性だけではなく、20歳になったら子宮頸がん検診もうける、両輪で防げることが書いています。

 

ワクチンに関しては、マスコミなどのあおりを受けて不安になっている方がたへの配慮のため、リスクに関してもきちんと書かれています。ワクチン接種との因果関係がないものを含め(ひどい場合は、接種した後の帰宅中の交通事故や何年もたってから鬱になって入院した事例などまでもが含まれ…)、接種後に重篤な症状が出た人が1万人中5人いたことも、わざわざ下線を引いて強調して書かれています。2000人に1人の頻度、0.05%ですか。仰々しく下線を引いて強調していますが、これってどれくらいのレベルでしょうか。もし当院で週に1人、年間50人に接種したとして、40年に一人くらい重篤な症状が出るかもしれないレベルです。40年間診療しろということは、95歳まで診療しなくてはなりません。正直私、95歳まで生きている自信、全くないです。死んで生まれ変わって2度目の人生でも小児科診療所をやって、2回の人生の中で1人重篤な症状が出るかもしれないくらいの率で、1学年に2-3人は子宮頸がんになり、1つの学校で1人は子宮頸がんで死ぬ、そのがんを高率に予防するワクチンを打たないっていうことはあり得ません。もちろん接種の因果関係とかおいといて、重篤な症状で苦しんでいる患者さんに心無い言葉を浴びせた接種医たちの問題は見過ごすことのできません。が、そもそも2013年から開始した名古屋スタディーで、HPVワクチンの安全性は統計学的に立証されています。

 

話はとびましたが、最後のページにはHPVワクチンを接種する具体的な方法がかかれています。もっと知りたい方のために詳細版も紹介しています。

 

で、ここまでは大変よくできたリーフレットなのですが(ここまでで止めれば100点満点だけど)、厚労省は今回も今年の巨人(今年のシリーズも無様でした)と同じで、最後の最後でこけて大恥をかいています。つまり最後に「接種をおすすめしているのではなく、希望される方が接種を受けられるよう、皆様に情報をお届けしています」と、ナゾのメッセージをわざわざ赤線で囲ってアピールしています。確かに接種した後に、接種とは因果関係は立証されていないとはいえ、体調が悪くなった方がいらっしゃるのは紛れもない事実。その時に接種医などから心無いことなど言われ、つらい思いをされておられる方もいます。その取り巻きやマスコミも煽り立てていた経緯があり、その方々に気を使わざるを得ないのでしょうが、国は科学的根拠に基づいてぶれずに方針を出さないと。・・・とはいえ、この部分を除けばまっとうなリーフレットができましたので、小学生高学年のこどもさんには積極的に配布してみたいと思います。

 

4.HPV4価ワクチンの「ガーダシル」の男子への接種拡大

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)感染を防ぐとして、日本では女性だけが接種対象として承認されていました。しかしこのHPVですが、STD(いわゆる性感染症)として有名な尖圭コンジローマの原因。男が複数の女性に効率よく感染させて広げていることが十分考えられます。また子宮頸がんだけでなく、中咽頭がん(年間1800人で男性が5倍近く多い)、肛門がん、陰茎がん(当然男だけ)と、男性にも罹患するウイルスであることが知られています。これらの前がん状態として、尖圭コンジローマをHPVの6型と11型がおこします。この2つの型に対して効能がある4価ワクチンの「ガーダシル」。世界では77か国が男子接種を承認し、アメリカ、イギリス、オーストラリアなど24か国で公費接種が行われています。

残念ながらワクチン“後進国“日本では、当然のように男子に対しては承認されていませんでした。そもそも女性にも積極的接種勧奨を控えている状況なので、いわんや男をや。そんななか、ガーダシルの製造販売を行っているMSDが、今年4月に男子接種拡大を申請。それを受けて12月4日、厚労省が、男子接種への拡大について審査することになりました。遅ればせながら男子接種が当たり前の先進国に追いつこうとしています。

まだ対象年齢や定期化への見通しに関しては明らかにされていませんが、HPVワクチンは世界では需要過多の状態が続いており、世界でHPVワクチンが余っている国は日本だけ(コロナ前は金満国が医療ツーリズムで余っているHPVワクチンを打ちに来ていたという笑えない現状)、という状況なので、ガーダシル男子承認後は速やかに販売してほしいものです。当然定期接種でうてるように多くの人は願っていると思います。

 

5.最後に 手記や体験記のご紹介

「マザーキラー」の異名を持つ子宮頸がん。その悲劇は若いお母さんたちに襲いかかるという点で他のがんとは大きく異にしています。最近になってようやくマスコミも、子宮頸がんの悲劇の一面を取り上げるようになりました。タレントなどの有名人の体験談も出版されるようになりました。それにつれて、雑誌やネットに、子宮頸がんで命をおとしたお母さんやご家族の手記が載るようにもなりました。子宮頸がんの恐ろしさが認知されるようになると、予防のための有効な手段、HPVワクチンについての関心も上がってくるのではないかと考えます。最後に参考のため、子宮頸がん闘病手記のリンクを貼っておきます。ぜひご一読くださいますようお願いします。

 

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がんを身籠って 46歳で子宮頸がんになった女優の告白

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「私たちを見殺しにしないで」 HPVワクチンをうつチャンスを逃した大学生が訴える2つの困りごと

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「もうちょっと生きたかった」「みんなのそばにいたかった」 二人の娘を遺して子宮頸がんで亡くなった妻の想い

子宮頸がんで苦しむ人がいなくなるように 妻の思いを受け継ぎ始める活動

診療内容:小児科・アレルギー科・予防接種・乳児健診
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