秋晴れの空が続いており、一番いい季節になりました。行楽に絶好の季節、といいたいところですが・・・しかし欧米では新型コロナウイルス感染症の波が確実に大きくなっております。日本などアジア諸国は相対的には落ち着いていますが、全く油断できません。
さて、インフルエンザなどの発熱をともなう感染症の流行期を迎えるにあたり、国は診療所に発熱患者をきちんと診ることができる体制をとるように要望していることは、すでに報道されているとおりです。べつにお上から言われなくても、地域医療を支える気概のあるふつうの診療所、とくに発熱児をこれまでも普通に診てきている小児科診療所にとっては今更感が強いのですが、ちょうどいい機会でもありますし、当院がどのように発熱児の皆さんに対応させていただくかについて、ご紹介します。
今月のフォーカス インフルエンザと新型コロナを念頭に置いた当院の発熱児の対応
大分県では新型コロナウイルス感染症は今のところ問題になっていない
秋も深くなるにつれて、気温が下がり、これまでに比べて発熱を主訴に受診されるお子さんは確かに増えてきました。そうなると気になるのは新型コロナウイルス感染症(COVID19)です。全国的には新型コロナウイルス(SARS-CoV2)のPCR検査陽性者は10月後半から世界的にはヨーロッパではパンデミック、日本などアジアでも微増してきているようです。幸いに大分県のPCR検査陽性者は10月で1名のみであまり問題ないレベルをキープできています。皆さんの衛生意識の高まりで、昨年まで数年間夏から秋にかけて流行していたRSウイルス感染症の報告例も大分県ではずっとありません。現在熱が出ているお子さんたちのほとんどは、この時期毎年流行し、発熱、鼻汁、咳嗽、喘鳴などの症状を引き起こすライノウイルスによる感冒と考えられます。
こどもやアレルギー持ちの人では新型コロナウイルス感染症は特別問題になっていない
新型コロナウイルス感染症ですが、これまで世界中で積み上げられた知見によれば、幸いにも子供がスプレッダー(感染を大規模に広める人)になったり、保育園や幼稚園、学校がクラスター(感染の巣)になったり、重症化する例は極めて少ないということがわかってきました。つまり、かかったとしても昔からあった風邪コロナとあんまり変わらないようです。さらに、気管支喘息などアレルギー疾患をもっている人への感染力はあまり高くないこともわかってきました。
今期はインフルエンザの大規模な流行もないかもしれません
今期のインフルエンザの流行はどうなるのでしょうか? 10月12日の日経メディカル電子版にでた、昨年と去年の沖縄県でのインフルエンザ流行の記事が大変わかりやすいので紹介します。沖縄県では年中インフルエンザの流行が観察されることで、他の地域と異にします。昨年(2019年)の夏は、特に流行の立ち上がりが早く、すでに第36週(9月8日~)には、インフルエンザ定点(1医院)当たりの週の患者数が30人を突破して警報レベルの患者数でした(下の図のオレンジの線)。
ところが今年は様相が一変しました。年中インフルエンザが診られてい沖縄でも、第10週(3月2日~)を超えるころから定点当たり1名以下に激減。以後第36週(8月31日~)で定点当たり週0.1人が最高で、ずっと0人台で推移。ほぼインフルエンザの患者は診なくなりました(下の図のオレンジの棒グラフ)。全国的にも同様で、第36週から第40週(8月31日~10月12日)で全国でインフルエンザの報告の累計はわずか25人だそうです。
このような静かな幕開けの理由は、ご想像の通り、新型コロナ対策によるものだと考えられています。まずは事実上の鎖国政策と国内での大規模な移動制限です。人がウイルスを運ばなければ感染症は起きません。それにインフルエンザウイルスがいないにもかかわらず励行されているマスクや流水・アルコールによる手指消毒です。コロナやインフルエンザのみならず、夏風邪をひき起こすエンテロウイルス感染症も消えてしまいました。ちなみに今年当院でみた手足口病はわずか1名でした。
一方、インフルエンザウイルスの媒体はヒトだけでなく、鳥などの野生動物や豚などの家畜を通して感染する可能性もあります。一番懸念されているのは、今年も先日報道された、渡り鳥を通しての高病原性の鳥インフルエンザです。ふつうは野生のカモなどからニワトリなどの家禽に感染して被害を起こしますが、時にヒトにも感染力を有する新型の高病原性インフルエンザに変異することが恐れられています。これが発生してしまうと、今問題になっている新型コロナなどとは比較にならない大きな被害をこどもたちに及ぼすことが容易に想像されます。国境を越えたヒトの移動の制限で、季節性インフルエンザ大流行はあまり心配されていませんが、高病原性鳥インフルエンザの人への感染力獲得については、常に気を使わないといけません。
流行らないからこそインフルエンザワクチンは必要
この調子で行けば、今年は季節性のインフルエンザの流行は起きないのではないかと考える医者も多いようです。これまではワクチンを打たない人でもある程度、自然界からのウイルス暴露され不顕性感染(症状は出ないが感染して免疫のブースターがかかる状態)による免疫力維持は期待できていましたが、今後数年間はそれが期待できません。つまり、ワクチンをしなければ、インフルエンザウイルスに対する抵抗力が国民全体的に下がってゆくので、来年、再来年のインフルエンザの爆発的な大流行につながる可能性もあります。インフルエンザが流行しない年こそ、インフルエンザワクチンによる免疫力維持が必要となります。
具体的な当院の発熱児の具体的な対応
この時期、発熱された方が受診されたら、まずは感染症を念頭に置かなければなりません。当院では、体温37.5度以上、あるいは平熱より1℃程度上昇している場合は、発熱者と扱うことにしております。受付で確認が取れたお子さんは、速やかに待合室から診察室前の処置室に設けられた「レッドゾーン(発熱ゾーン)」に移動していただきます。こちらには大型のHEPAフィルター付きのパーティションで区切られておりますので、お子さんに感染して排出されるウイルスなどの病原菌が待合室に流れ込むことを防いでくれます。つまり、大水槽がおかれているメインの待合室(グリーンゾーン)には、感染症を疑わせる患者さんは入れないことになっております。
診察順は発熱者優先となります。大分県の新型コロナウイルスPCR検査での発生状況にもよりますが、今のように県で発生がほとんどみられていない時期は、問診でコロナ患者の接触がないこと、味覚異常などのコロナに特有な症状がないこと、熱の経過でコロナウイルス特有のだらだらした経過がないこと、熱以外には鼻汁・咳嗽がメインであること確認できれば、普通は一般的な感冒をひき起すライノウイルスであることが多いので、解熱剤、風邪薬を長めに処方して経過をみます。会計も速やかにして発熱コーナーで行い、お帰りは発熱コーナー横の勝手口から院外に出ていただきます。
新型コロナウイルス患者を疑われる方はどうするのか?
新型コロナ感染症が疑われる方、もしくは新型コロナ感染症を見逃したらいけない患者さんは以下のケースです。
- ●新型コロナと診断された患者の家族などの濃厚接触者が発熱したケース
- ●問診で、新型コロナ流行地から帰省後の発熱した方
- ●味覚障害など新型コロナ特有の症状がある方
- ●微熱から中等度の熱がだらだらした続き、各種病原体迅速診断が陰性で診断がつかない方
- ●発熱者本人、あるいは同居者に高齢者や糖尿病患者、慢性肺疾患などの新型コロナが重症化しやすい方
- ●保健所からの依頼など、医師が新型コロナウイルス感染症の除外診断が必要と判断した場合
この場合は、新型コロナウイルス感染症を念頭において診察することが望ましいと思われます。その場合は、新型コロナウイルスの抗原検査でのスクリーニングが必要になります。
隔離された別室に案内後、診察医はガウンやフェースガード、手袋などの個人用防護具を装着の上、アクリル板のパーティションを通して鼻腔粘膜から検体を採取して検査をいたします(インフルエンザの時の鼻ぐりぐり検査と同じ感じ)。検査終了後は、速やかに自家用車に移動していただきます。検査で白黒が付いたら、携帯電話で結果をお知らせします。陰性ならば院内に戻っていただき、会計と処方箋の受け渡しをいたします。
万一陽性の場合は、そのまま車内にとどまっていただきます。第二類感染症の規定に従い、速やかに医師が保健所への連絡などを行い、保健所の指示にしたがっていただきます。
なお当院は保険診療機関ですので、基本的に保険医療担当規則に照らして診療をおこなっております。巷で話題の自費による新型コロナウイルスの検査については、多くの保険医療機関同様行えません。よって患者さんの念のためとか安心したいとかの理由や、(わけのわからない)陰性証明を求める会社、学校からの要請では新型コロナウイルス検査は行えませんので、ご理解ください。
コラム こどもは感染症を繰り返しながら免疫を強化してゆく
乳幼児のお子さんは、まだウイルスなどの病原体に対する免疫がないので、保育園や幼稚園、学校などの主に集団保育を通じて病原体に感染して感染症を発症します。その結果、病原体に対する免疫を獲得、病気に対する抵抗性を強化してゆきます。誤解を恐れずにあえて言わせていただきますと、乳幼児期に感染症にかかるのは当たり前のこと。というか、学童、思春期、必要悪なのです。昔の将軍、例えば最後の将軍、徳川慶喜公は、幼いことに隔離されたがゆえに、大人になってから麻疹(はしか)にかかり死亡しました。感染したらダメ、といって昔の殿様のように一生隔離できれば話は別ですが、人間は社会生活で成り立っている以上、特に治療薬やワクチンのないウイルス感染症には、感染症に対する自然治癒力の高い幼いころにかかって免疫力をつけることは、実は必要悪だと考えます。
こどもさんが、保育園、幼稚園、学校で風邪(ウイルス)をもらってくることは自然なことだと考えます。こども同士で感染し合い、発熱などきつい場合は、体力がおちて重症化しないように、安静と脱水にならないように水分補給を心がけ、熱や咳、鼻水、下痢おう吐などで体力が落ちる恐れがあるときは、かかりつけ医に診てもらい、病状を評価してもらい、症状を和らげるお薬で嵐が去るのをじっと待つことで、いちいち乗り切ってゆくしかありません。
と考えると、現在世界中で問題になっている新型コロナウイルス感染症。これも新型で昨年末から突如出現したものなので、現在の高齢者や成人は幼いころに感染する機会がなく、免疫がない状態でいきなりかかってしまうので重症化しやすいといわれています。ということは、やはり新型コロナに関しても、もし有効なワクチンができない場合、他の風邪コロナ同様、本当は感染しても重症化しない乳幼児期から集団保育などを通じて自然に繰り返し感染して免疫をつけてゆくべきではないか、という考えもありだと思えてきます(まだ本態は完全には明らかになっておらず、あくまで個人の感想です)。
高病原性の新型インフルエンザなど、本当に怖い感染症以外ならば、多くのこどもさんは自然治癒力が備わっているので、その力を最大限に引き出すことが医者や保護者の役割と考えます。