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シックキッズニュース 8月号(No.39)「じんましん」の診療

シックキッズニュース 8月号(No.39)「じんましん」の診療

毎年各地に被害をもたらす7月の豪雨。今年も球磨川、筑後川、玖珠川など各地の河川が氾濫して大きな被害を与えました。久留米の同門の先生方におかれましても、実際に被害にあわれた方も出てしまったようです。

さて、毎年梅雨に入る前くらいから増えてくる皮膚の病気のひとつ、じんましん。今年はコロナで小児科医院の患者数が激減している中、蕁麻疹関係で悩んで来院される方は少なからずいらっしゃいました。蕁麻疹の診療は大変難しい。そこで今月はこの「じんましん」にフォーカスをあててみたいと思います。

 

 

今月のフォーカス:「じんましん」の診療

 

  • じんましん(蕁麻疹)とは

じんましんは、われわれ町の開業医が日常的に遭遇する皮膚の病気の一つです。皮膚や、時に唇の粘膜の一部が、部分的に赤くなって真ん中の部分がが膨隆して、しばしばかゆい状態になります。突然あらわれて、数時間、長くても3日以内に跡形もなく消える場合、ほとんど「じんましん」で決まりです。

 

  • 病型を診断する

じんましん、と一口にいっても病型は様々で、日本皮膚科学会の蕁麻疹診療ガイドライン2018によれば、14種の病型に分けられ、それらは「特発性の蕁麻疹」、「刺激誘発型の蕁麻疹」、「血管性浮腫」の大きく3つに分類されます。そのほか、「蕁麻疹関連疾患」という特殊な病型もあります。じんましんの診療では、この病型を診断することが重要になります。病型がわかれば、あとから触れる治療方針や目標が明確になるからです。

大まかには、①なにもしなくても勝手にじんましんが出現する「特発性の蕁麻疹」、②薬物や食物、汗や運動、何かに触る、冷やす、ひっかく、あっためる、日に当てるなどなど、さまざまな刺激でじんましんが誘発される「刺激誘発型の蕁麻疹」、③くちびるや瞼などにできる「血管性浮腫」、④特殊な「蕁麻疹関連疾患」に分けます。

分けるポイント、ですが、「刺激誘発型の蕁麻疹」は誘発される刺激を聞き出すことから始まりますが、蕁麻疹の性状にも特徴があることがあります。例えば、5mmより小さな泡みたいなじんましんが多数集簇して出てくる場合は、汗や運動で誘発される「コリン性蕁麻疹」、水で誘発される「水蕁麻疹」、プレッシャーやストレスなど精神的緊張で現れる「アドレナリン性蕁麻疹」の特徴です。線を引いたようなじんましんの場合は「機械性蕁麻疹」。瞼やくちびるなど顔面に限局していれば「血管性浮腫」や「口腔アレルギー症候群」(花粉症の人が果物を食べたときにでる)。腕や下腿、顔面など、皮膚の露出部分に出てくる場合は、「寒冷、日光、温熱蕁麻疹」や「接触蕁麻疹」を考えるなどです。

第115回日本皮膚科学会総会教育講演11-1平郡隆明准教授発表

 

  • じんましんが悪化したり誘発する原因について検討する

次に、なにをしたらじんましんが出たり広がったり、出る頻度が多くなったりする要因について考えます。「刺激誘発型の蕁麻疹」の場合は、問診で直接的な誘因・原因を聞きだしたり、じんましんの性状である程度予想されるケースもありますが、この病型の蕁麻疹は頻度としては1/4以下とあまりありません。じんましんの病型の分類のなかで、7割以上を占めるのは、よくわからないけれど、梅雨入り前や台風シーズンの秋口になると、なぜかわからないけれどじんましんが出たり引っ込んだりする、原因不明の無気味な「特発性の蕁麻疹」です。

この大部分を占める「特発性の蕁麻疹」ですが、特発性は「原因がよくわからない」という意味で、原因不明のものを便宜上「特発性」と枕詞をつけているので、話を聞いても直接的な原因がなかなか絞り込めない場合が多いのですが、それでもこれかな?と思い当たる背景因子はあります。風邪や下痢した後、もしくはその最中である、溶連菌やマイコプラスマなど感染症の罹患後である、そういえばワクチン接種を最近した、職場をかわった、転居、進学、運動会の練習など、疲労やストレス、あるいは夕方になると出るなどの日内変動、季節の変わり目などです。

 

  •  
  • 患者さん家族と医師が共通の治療目標に向かう

病型と悪化・誘発する要因が判明したら、次は患者家族と医師が共通の治療目標に向かうようにします。町の医院や夜間休日救急病院が診るじんましんの多くは、「特発性蕁麻疹」、それも6週間以内(長くても1か月半程度)で自然に終息してしまう「急性蕁麻疹」です。だから大げさに「治療目標は?」など考えている暇もないくらいに、数日から数週で自然によくなり患者さんは来なくなります。

一方、当院のようにアレルギー科を標榜している小児科内科医院、皮膚科医院や大学病院などの専門医院には、かかりつけ医で薬をもらったけど、飲みやめたらまたじんましんがでた、飲んでいてもじんましんが続く「慢性蕁麻疹」の病型の患者さんたちが困って受診されます。日本でもっとも蕁麻疹を精力的にみている病院の一つ、広島大学病院皮膚科での調べによりますと、原因がよくわからず、普通に使用される薬が効果を示さないじんましんが6週間以上続く、いわゆる「慢性蕁麻疹」の患者の割合は蕁麻疹全体の53.5%と半分以上を占めたという調査もあります(2003~2005年広大皮膚科外来蕁麻疹患者260人の内訳)。このような患者さんと家族にしたら、治療の最終目標である「無治療で症状が現れない状態」にどうしたらに至ることができるか、患者家族と医師が共通認識を持つ必要があります。

「刺激誘発型の蕁麻疹」の場合は、原因や悪化要因の除去や排除が主な方法となります。一方、多くを占める原因のよくわからない「特発性の蕁麻疹」の場合、長期薬物療法が主になります。

蕁麻疹診療ガイドライン2018(日本皮膚科学会から)

 

  • 蕁麻疹の診療で悩む点

ここからは、蕁麻疹の診療で悩む点をお話します。

 

1.原因を調べるべきか?

まずは、「原因は何ですか?」と問われることが非常に多いです。問われなくても、原因が知りたいからここに来た、という感じのケースがほとんどです。なんかのアレルギーではないか?と思われている方が、アレルギー科を標榜している私たちのような医院を受診されますので。

ところが、患者さんたちが想定されている、食物アレルギーやダニや花粉などの環境抗原による、いわゆる典型的なI型アレルギーによるじんましんの割合はわずかに数パーセント。70%以上は原因不明の「特発性の蕁麻疹」です。したがって、何らかの食べ物や吸入抗原などの関与が強く疑われるとき以外は、アレルギー検査をする意義はありません。「なんだかよくわからないけれどじんましんが出ますが、原因を知りたいのでアレルギー検査をお願いします」という場合は、多くは原因不明の「特発性の蕁麻疹」ですので、検査は医学的に不要なことが圧倒的に多いです。医学的に検査が不要な場合、保険診療できないので、どうしても、といわれる場合は自費診療となります。高額なアレルギー検査料を含めて診察料を請求されることになります。また検査してもおそらく多くのケースでは原因が突き止められず、なにかが陽性であったとしても特別な治療につながらず(第二世代の抗ヒスタミン薬から開始するのは決まりきったこと)、わざわざこどもさんを痛い思いをさせてまで自費診療する意義はないので、お勧めできません。

 

2.治療薬の選択はなににしたらいいか?

じんましんの薬物療法の基本は、長期投与になることが多いので、新しいタイプ(第二世代)、それも眠気の副作用が少ない「非鎮静性第二世代の抗ヒスタミン薬」です。「ヒスタミン」という鼻水やじんましんを起こす原因の物質が「ヒスタミン受容体」に結合して、活性化。じんましんや鼻水が出ます。「抗ヒスタミン薬」は、このヒスタミン受容体に先回りして結合して、活性させないようにします。こういう機序でじんましんや鼻水をおさえるというわけです。

第47回日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会シンポジウム2-6千貫祐子講師発表

 

●ファーストライン:第二世代の抗ヒスタミン剤の単独投与、あるいは効果不十分の際の薬剤の変更

日本にはたくさんの種類の抗ヒスタミン薬が保険診療で使用可能です。抗ヒスタミン薬はその構造で「三環系」、「ピぺリジン系・ピペラジン系」と大まかに2つの種類があります。数ある抗ヒスタミン薬のうち、どちらが効くかは個人差がありますので、最初なにを使用すればいいのか?迷うこともあります。他院の処方箋をみると、使用してみないとわからないので、処方医の好みに託されているケースが多いと思われます。一般的には、「特発性の蕁麻疹」には抗ヒスタミン剤の治療はよく聞くことが多いので、処方医の好みで出すケースもありますが、薬にはそれぞれ特徴があり、例えば、即効性があるが1日数回飲まないといけないもの、じわりとしか効いてこないけれども1日1回で済むもの、口の中で溶けて水なしで口に放り込めばいいもの、第二世代の抗ヒスタミン剤の値段はもともと高いけれどもなぜか新製品で改良されているものほど安い傾向がある、口腔内徐放剤(口の中で溶けるもの)の中にはとんでもなく苦いものもあるなど、いろいろ選択の余地があります。慢性型になると処方も長期になりますので、処方医にいろいろ説明を聞いて好みの抗ヒスタミン薬を最初に処方してもらいましょう。最初の薬で効いてじんましんが出なかったら、1~2週間その薬を継続して内服中止。じんましんが再燃しなければ治療終了。これが「急性の特発性蕁麻疹」の経過です。

問題は、多くの人を悩ませている「慢性の特発性蕁麻疹」の治療です。1~2週間、好みの抗ヒスタミン薬を使用してなかなかうまくいかないことが多いです。この場合どうするか。考えられる手段としては、抗ヒスタミン剤の「変更」、「増量」、「追加」です。「変更」の場合、多くは現在使用している抗ヒスタミン薬と異なるグループのものを出しなおします。例えば、アレロックやアレジオン、クラリチンなどの「三環系」から、アレグラ、ジルテック、ザイザル、タリオン、エバステルなどの「ピぺリジン系・ピペラジン系」に変えてみることをします。保険診療可能ですが、変更だけでは一部の患者さんしか効果がないことの方が多いです。このため、けいれんやてんかんの既往がない場合は、眠気が強い副作用があるけれど抗ヒスタミン作用は強いとされているザジテンやアタラックスPなどに短期間変更する場合もあります。眠気や知らず知らずのうちに集中力や作業効率が落ちる、いわゆる「インペアード・パフォーマンス」の問題があり、運転する成人や受験生での使用は控えるようにしています。

 

●セカンドライン

抗ヒスタミン剤の倍量投与

同じ薬を倍量投与する方法もあります。2013年のじんましん治療の国際ガイドラインでは、ほかの薬と併用するのではなく、効かなかった薬を増やす方を2倍量まで増量する方法を推奨しています。2018年の日本皮膚科学会の改定ガイドラインも2倍増量を第1選択としています。

抗ヒスタミン薬の併用投与、あるいは抗ヒスタミン薬以外の補助薬の併用

薬をかえるのではなく、別の抗ヒスタミン薬を追加して2つ内服させることもあります。あるいは抗ヒスタミン薬ではなく、補助薬として気管支喘息やアレルギー性鼻炎の治療に使用されるシングレアやオノンなどの「ロイコトリエン受容体拮抗剤」、消炎剤として使用されてきた「トランサミン」(トラネキサム酸・保険適応あり)、胃潰瘍や胃炎の時に使用されるキャベジンのような「ヒスタミン受容体の2型に対する拮抗剤」(H2拮抗薬)などの補助薬を併用することもあります。補助薬併用に関しては、抗ヒスタミン薬に比べるとエビデンス(有効性が臨床研究で証明されている)に乏しく、そのためか一部を除き保険適応がありません。しかし安全性は比較的高く(それぞれ喘息や鼻炎、かぜ、胃炎などでたくさんの人が長期間安全に使用できている)、症例によっては大きな効果を得ていることも期待できます。たとえば、汗による蕁麻疹であるコリン性蕁麻疹にロイコトリエン受容体拮抗剤、血管性浮腫でのトラネキサム酸など。このため、ステロイド内服や生物学的製剤など次のステップに進む前に、一度試してみる価値はあります。

第115回日本皮膚科学会総会教育講演11-1平郡隆明准教授発表

 

●サードライン:ステロイド薬の内服や生物学的製剤である「ゾレア」はどうか

・ステロイドの内服、注射による全身投与

通常、これまで記載した抗ヒスタミン薬をベースとした単独、増量、併用、あるいは補助薬の併用で飲んでいれば慢性のじんましんも出なくなって、季節が安定したら減量、中止に持っていけることが多いので、ステロイドの内服や点滴での全身投与については慎重にすべきです。ですが、一部の患者さんは、抗ヒスタミン薬を中心とした治療に反応せず効かないことがあります。もしくは急性増悪といって、何らかのきっかけで急に全身にドンとでて、かゆくて早くじんましんを抑える必要がある場合もあります。

ステロイド薬を全身に使用せざるを得ない場合はどのような場合が考えられるでしょうか?ガイドラインでは「体表の30%以上が蕁麻疹に覆われて、早く書状を鎮静化する必要がある場合は、抗ヒスタミン薬に加えて数日以内のステロイドの内服や注射による全身投与を併用してもよい」と記載されています。同時に「慢性蕁麻疹でステロイドを内服させる場合はできるだけ短期間にとどめ、必ずしも皮疹が完全に消失していなくても適宜減量、中止することが望ましい」と書かれています。ステロイドの長期間の内服による副作用の発生を恐れていることがよくわかります。

例外的にステロイドの使用が推奨されているじんましんの型があります。「遅延性圧蕁麻疹」です。これは強い圧迫を受けた部位に数時間後に浸潤の強い膨疹が生じるものです。慢性蕁麻疹に合併することが多いのですが、抗ヒスタミン薬が効かないことが多いです。一方ステロイドの内服は功を奏します。ステロイド内服自体も早晩中止できることが多いですので、このじんましんだけはステロイド内服が推奨されています。

第115回日本皮膚科学会総会教育講演11-1平郡隆明准教授発表

 

・生物学的製剤「オバリズマブ」(製品名ゾレア

ゾレア(300mg)シリンジ:ノバルティスファーマHPから

 

最近注目を浴びてきて来ている生物学的製剤。これまでの薬は化学的に合成されてきたものですが、生物学的製剤は、人間などの生物が実際に産生するたんぱく質をバイオテクノロジーの技術によって生み出してきたものです。昔からあるワクチン、インシュリンなどのホルモン製剤、免疫グロブリン製剤、血液凝固製剤なども広い意味では生物学的製剤といえるでしょう。本格的な生物学的製剤は1990年代に入ってからまずリウマチの治療薬として開発が進みました。

今回、難治性の慢性の特発性蕁麻疹の治療の切り札として紹介する「ゾレア」ですが、約10年前の2009年、製薬会社ノバルティスファーマが、日本国内向けに難治性の気管支喘息の治療薬として、「IgE抗体」に対する「抗IgE抗体」である「オバリズマブ」(製品名ゾレア)を販売。大量のステロイド吸入でコントローできず、ステロイドの内服薬を長期に使用せざるを得なかった重症の喘息患者におどろくべき効果を示しました。私自身、前赴任先の大分こども病院で月に数回入院治療を必要とするくらいにひどかった喘息患者さんに、他に選択肢がなく使用したことがあります。大分でのゾレアの小児使用第1例でした。そしてゾレアを使用してからというもの、あれだけ頻繁に起こしていたぜんそく発作がぴたりと止まって、生物学的製剤の威力を実感しました。

第47回日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会シンポジウム2-6千貫祐子講師発表

 

喘息にそれだけ効果があるもの、他のアレルギー疾患にも使用できるはず、ということで、2017年には15歳以上の難治性の「慢性蕁麻疹」、2018年には日本が世界に先駆けて成人の「スギ花粉症」にゾレアは適応されました。慢性蕁麻疹に関しては、杵築の皮膚科の先生の講演会でもその絶大なる効果を聴いていたし、ぜんそくの自験例でも、別名「ライフチェインジング・ドラッグ」(人生を変えるほどの薬)にたがわぬ効果を目にしていましたので、機会があれば使用してみなければ、と思っていました。先日、難治性のコリン性蕁麻疹を強く疑わせる患者さんが希望されて実際に1回使用してみましたが、その打ったその日から、何を飲んでも塗っても効果がなかったじんましんが出なくなった、と大変喜ばれました。やはりすごい効果がありそうです。

第47回日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会シンポジウム2-6千貫祐子講師発表

 

魔法のような効果を示す生物学的製剤のゾレアですが、なかなか普及しません。それにはいくつかの理由があります。①定期的に打ち続けていないと効果が持続せず、やめたら元に戻る可能性が強いこと、②注射製剤でドロドロしたたんぱく質を接種するため大変痛みが強いこと(頭が痛くなるほどの痛みを訴えられたこともあります)、③蛋白製剤なので、アナフィラキシーをひき起す危険性があり、アナフィラキシーに対応できる医院でないと使用できないこと、④そもそも気管支喘息以外の蕁麻疹やスギ花粉症には15歳未満の子供には保険適応されていないこと、⑤なにより生物学的製剤は高価であること。とくに⑤、値段が非常に高価であることが、生物学的製剤の安易な使用に歯止めをかけています。

どれくらい高いか、2018年にスギ花粉症に適応された際に、財務省は薬価が高いので財政に負担がかかる、ということで、特例で今年の4月にゾレアの薬価を37%引き下げました。それでも慢性蕁麻疹に使用する1回300mgで薬剤費だけでも約5万8000円します。もちろん保険が効きますので、実費は薬剤費だけでその3割程度ではありますけど、それでも月薬剤費だけでも2万円弱は覚悟しないといけません。病慢性蕁麻疹にかんしては月1回打ち続けることが必要ですので、12回接種したとして薬代だけで25万弱は覚悟しないといけません。

それでもアナフィラキシー発生に注意し、きちんと対応できる病院で使用することさえ気を付ければ、接種時の痛み意外には副作用はないので、抗ヒスタミン薬、補助薬の追加でコントロールできない大人のじんましんには接種を考慮する余地はあるようです。

 

診療内容:小児科・アレルギー科・予防接種・乳児健診
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診療時間
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