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シックキッズニュース6月号(No.37) 「子宮頸がんワクチン」を再考しよう

シックキッズニュース6月号(No.37) 「子宮頸がんワクチン」を再考しよう

緊急事態宣言も、みんなの辛抱のおかげで解除され、学校も再開されました。これから本格化する梅雨もあり、しばらくはうっとうしい時期が続きます。

さて、今月はコロナの話題から離れます。コロナコロナとテレビやネットでは大騒ぎしていますが、日本にはコロナ以上に身近で人、それも若いお母さんたちを殺している感染症があることをご存知でしょうか?ヒト・パピローマーウイルスです。このウイルス、疣(いぼ)の原因のウイルスですが、実は恐ろしい子宮頸がんを引き起こすウイルスなのです。子宮頸がんは、「マザー・キラー(母親殺し)」の異名をとり、ちょうど子育てのお母さんたちの世代がターゲットです。最近ではAYA世代(Adlescent & Young Adult思春期・若年成人世代)というそうですね。日本では年間1万人が発症、2,800人の女性が命を落としています。コロナの日本での発生数が5月31日現在で16,851人、死者891人で死者の多くは高齢者。どちらも大事な病気です。今月は「子宮頸がん」とその原因のウイルス感染を予防する「子宮頸がんワクチン」にフォーカスを当ててみたいと思います。

 

今月のフォーカス 「子宮頸がんワクチン」を再考しよう

 

1.子宮頸がんワクチン騒動の経緯をおさらいしてみよう

 ① 子宮頸がんの原因探しから子宮頸がんワクチン開発まで(1970年代から2009年)

 ② 子宮頸がんワクチン接種開始から積極的勧奨の差し止めが行われるまで(2010年から2013年6月)

 ③ 子宮頸がんワクチンの積極的勧奨差し控えから、HANSという疾患概念の提唱まで(2013年)

 ④ ニュース23による研究班発表のミスリードとその後のドタバタ劇(2014年3月16日)

 

2.名古屋市が行った子宮頚がん予防接種調査「名古屋スタディー」~症状と子宮頸がんワクチンとの関連性は認められなかった

 ① 名古屋スタディーの開始 (2013年8月24日)

 ② 名古屋スタディーの速報の公表 (2015年12月14日)

 ③ WHOから日本が名指しで批判を受ける (2015年12月17日)

 ④ マスメディアから無視、曲解された名古屋スタディーの集計結果のみの公表 (2016年6月18日)

 

3.名古屋スタディー後から訴訟合戦へ

 ① 日本小児科学会学術集会でついに小児科医の総意がしめされる (2016年5月14日)

 ② 被害者連絡会が国とワクチン製造会社2社に対し集団提訴 (2016年7月27日)

 ③ 厚労省研究班班長がWEDGE社とジャーナリストを名誉棄損罪で提訴記者会見 (2016年8月17日)

 ④ HPVワクチンの接種歴がない若年者でも疼痛や神経障害などの症状を示す患者が一定数いることが判明(2016年12月26日)

 

4.子宮頸がんワクチンへの濡れ衣が晴らされつつあり、ようやく接種勧奨再開の道筋が

 ① 各学術学会による子宮頸がんワクチンの接種勧奨の再開を求める声明

 ② 厚労省がワクチン啓発の為のリーフレットを作成、情報提供の評価を調査 (2019年8月30日)

 ③ 自民党内で「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す勉強会」を開き、議員連盟を発足 (2019年11月26日)

 ④ 「日本におけるHPVワクチンへの躊躇が子宮頸がんに及ぼす影響」の論文が知る人ぞ知る反響を起こす (2020年2月18日)

 

5.終わりに

 

1.子宮頸がんワクチン騒動の経緯をおさらいしてみよう

    • ① 子宮頸がんの原因探しから子宮頸がんワクチン開発まで(1970年代から2009年)

 子宮頸がんワクチンは、子宮頸がんの原因、ヒト・パピローマウイルス(以後HPV)感染症でおこります。1970年くらいからすでに性行動を通じて、子宮頸がんを発症する、いわゆる感染症らしいことは知られていました。ドイツの若きウイルス学研究者、ツァ・ハウゼン博士により1983年HPVの16型が子宮頸がんの発症にかかわることを発見(写真1)。以後次々にHPVの子宮頸がんの高リスク型が発見されました。

 子宮頸がんが近年、20歳くらいから40歳代までのいわゆるAYA世代の女性で問題になってきました(図)。

最近のデータでは、日本での子宮頸がんの罹患は年間1万人、それにより3000人近くの女性が年間に命を落としています。AYA世代の女性で問題になるとはどういうことか。ちょうどお子さんができて妊婦健診で子宮頚にがん化できていることが判明。妊娠継続をあきらめ、大切な赤ちゃんと子宮を奪われる、とか、母親になったとたんにがんと闘う羽目になる、とか、赤ちゃんを授かったばかりの母親たちに突然悲劇が訪れるというわけです(体験談の一つはこちら)。

しかし子宮頸がんの発生のメカニズムが解明して、HPVが関係している、というツァ・ハウゼン博士たちの発見により、HPVに対するワクチン開発の道筋がつきました。発見から20年以上経過して、ようやくオーストラリアのイアン・フレーザー博士と周建博士たちの独創的な技術(VLP:図)という手法を用いてワクチン開発に成功。2009年の「本田賞」を受賞しました。その技術を使い、2006年には「ガーダシル」、2009年には「サーバリックス」という2つの子宮頸がんワクチンが開発されました。

若い女性たちを子宮頸がんから守りたい、と念願する研究者たちの長年の仕事がようやく実り、人類史上初めての「癌予防」を目的に開発されたワクチンです(B型肝炎ワクチンも間接的には肝臓がんを予防しうる)。その功績が認められ、子宮頸がんとHPVの関連を解明したツァ・ハウゼン博士は2008年ノーベル医学生理学賞を受賞しています。ガーダシルはアメリカで2006年6月から欧州で9月から発売。翌2007年には「サーバリックス」がオーストラリアで承認、その後同年までに欧州で承認されました。

② 子宮頸がんワクチン接種開始から積極的勧奨の差し止めが行われるまで(2010年から2013年6月)

発売されて15年近く経過しましたが、2つの製品は現在日本を含む130か国で承認されています。そして早期に定期接種化されたオーストラリア、イギリス、アメリカ、北欧などの国から、ワクチン接種世代のHPV16型・18型の感染率の劇的な減少が報告されています。オーストラリア、イギリス、アメリカでの調査ではワクチン接種世代と同世代のワクチンをしていない人々までも、HPV16型・18型の感染率が低下していたそうです。この現象は、「集団免疫効果」といわれています。ワクチンの接種率が高くなると、HPVに感染している人の絶対数が減少し、接種した人もウイルスに暴露される期間が激減するので、ウイルスの感染率が社会全体として減少していく、というわけです。最近、フィンランドの臨床試験で、前がん状態だけでなく、やはり狙い通りにがん自体も減少させているというデータも出ました。フィンランド以外の国でも、イギリス、オーストラリアなども同様に前がん病変だけでなく、子宮頸がんの浸潤がんの罹患・死亡の減少が発信されると考えられています。

日本でも先進国にすこし遅れて2009年12月にサーバリックスが、2011年にガーダシルが認可されました。認可後、市町村の中には、主に中学生を対象に子宮頸がん接種費用の公費助成を行うところがでてきました。その声に押されて2010年11月26日、「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」として国が補正予算で市町村の公費接種費を助成する事業が始まりました。そしてサーバリックス認可後の1年4か月後の2013年4月1日、子宮頸がんワクチンは小学6年生から高校1年生までの女学生に対し、念願の定期接種化にこぎつけました。ここで一気に広がり、AYA世代の子宮頸がん問題が解決してゆくか、に見えましたが、その直後大きな落とし穴が待ち受けていました。

子宮頸がんワクチンを定期接種にしようと厚労省を中心に動きがみられたころから、子宮頸がんワクチンにも不穏なうわさが飛び交っていました。「子宮頸がんワクチンの不妊伝説」(アメリカから流布された都市伝説で、ガーダシル9が避妊・断種用ワクチンとバカげた噂を流したもの)、はたまた「ワクチンを売るための医療詐欺事件」などという噴飯もののうわさはさておき、慢性疲労症候群、ギランバレー症候群、多発性硬化症など変な病気になるのではないか、といううわさが流れました。どんなワクチンでもある一定のリスクはありますので、普通ならばそんな流言は限られたコミュニティーで憂さ晴らし的に面白おかしく流されるだけで、まともな人たちには相手にされずに済むのですが・・・子宮頸がんワクチンに関しては話が違いました。

定期接種になる直前の2013年3月8日に朝日新聞が、子宮頸がんワクチン接種後に副反応が出た人がいたことを報道。14歳中学生が子宮頸がんワクチン接種後、接種部位がパンパンに腫れたのをきっかけに歩行障害など、とうていここに書ききれないくらいの多種多様の症状がでたそうです。3月10日テレビ報道もされました。そしてかぎつけた市議会員や他の大手マスメディアも動き、患者会を作るよう意見。その場で患者会結成に向けて動き出したそうです。そして3月25日に「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」設立記者会見が開かれました。その様子も全国のテレビで報道されました。この時に朝日の記者が、「顔を出さなければ実際の被害をうったえることができませんよ」などと会の代表者に真正面を向かせるようけし掛けた経緯も書かれています。被害者女性の保護者自らがその経過を記した手記がネットで公開されています。事実解明や被害者の健康問題はそっちのけで、いかにセンセーショナルに炎上させて視聴率をとるかに頭一体だったのだろうなと推測されます。その後、5月9日に被害者連絡会が記者会見を開き、患者がひくひくさせている様子を撮影したDVDをマスコミなど希望者に販売するという信じされない行動に出ました。患者のけいれんの様子は見世物ではないのに。しかしワイドショーやニュース番組はここぞとばかりに連日連夜、DVDの映像をながしました。けいれんしている女性の映像がながされていたのを皆さんいまだ記憶されているのではないでしょうか。日本中を恐怖に陥らせるのには十分な効果がありました。定期接種になって積極的勧奨の差し止めが行われた期間のメディアによる報道頻度の移り変わりを下のグラフに示します。

このような世間の空気に押され、ついに6月14日、厚労省予防接種・ワクチン分科会の副反応検討部会は、「定期接種は取り下げないが、副反応の頻度などの情報提供ができるまでの間、接種を積極的に勧奨すべきではない」という意味の分からない方法をとり、各自治体に通知しました。それはさかのぼること8年前の2005年から4年にわたり行われた悪名高き「日本脳炎ワクチンの積極的勧奨の差し控え」の再現となりました。厚労省のこのいかにもダブルスタンダードな態度。薬剤エイズ事件やMMRワクチン禍、らい予防法などの裁判・裁判・・・で立て続けにぼろ負け、くたくたになってしまって完全に委縮してしまっている厚労省が取りうる数少ない自衛策なのかもしれませんが、あまりに無責任な態度です。他の先進国とは異なり、ワクチンや感染症対策など人の命に直結する問題を、ACIPのような行政とは独立した機関が科学的に分析して行政に助言・指導するのではなく、マスコミにあおられた世論の空気で行政の政策方針が変わる日本ならではの光景がここでも見られました。そしてこの発表直後から子宮頸がんワクチンの接種率は急激に低下。1%を切るまでになり、もう7年もこの状態が続いています。

 

そしてAYA世代のHPV感染リスクは、接種勧奨を中止した2013年の時点で12歳だった2000年以降に生まれた女学生の20歳の時の相対リスクは0.3からワクチン導入以前の1に戻ってしまいました。

 

③ 子宮頸がんワクチンの積極的勧奨差し控えから、HANSという疾患概念の提唱まで(2013年)

2013年というと、東日本大震災のネタも賞味期限が切れたころということもあり、マスコミは新しいネタ探しに飢えていたころでした。そこに突如降ってわいてきたワクチン禍のニュース。今回のコロナ騒動でもそうですが、同調圧力が強い日本では、マスコミの映像の威力はすさまじく、私たち医師の間でも、子宮頸がんワクチンの話題をすること自体はばかられる状況に陥りました。小児科医の多くは、思春期女性にはいろいろなことをきっかけに、少なからず心身が乱れて異常行動をとる患者さんがいることは経験しています。が、そのような方が「昔子宮頸がんワクチンを打ったことがあるのですが、そのせいではないですか?」と聞かれ、あのような状況下で「それは違うよ」ときっぱり否定できる医者がいたでしょうか?

そのような空気の中で、主に思春期女性の異常行動をみてきた医者の中から、2013年の終わりくらいから、子宮頸がんワクチン接種後発症するHPVワクチン関連神経免疫異常症候群(略してHANS)という疾患概念を唱える医者たちが現れるようになりました。病名も診断も付けられずたらいまわしにされ続けてつらい思いをしている患者さんたちに文字通り親身になって対応されておられるまじめな先生たちでした。患者さんや保護者の方々も何でもいいからきちんと病気として扱ってほしい、と切実な気持ちだったでしょうから、渡りに舟だったと思います。気持ちは痛いほどわかります。そういう動きが水面下でみられていたのは確かですが、HANSはまだできたばかりの概念で、科学的な根拠はありませんでした。

④ ニュース23による研究班発表のミスリードとその後のドタバタ劇 (2014年3月16日)

厚労省は国の研究費(科研費)を使って、子宮頸がんワクチンの副反応の研究を行わせていました。2014年3月16日、厚労省科研研究班は、厚労省で「パピローマウイルス感染症の予防接種後に生じた小児に関する厚労省科学研究事業発表会」を開きました。そこで池田班は「子宮頸がんワクチンで自己抗体ができて脳の記憶の中枢の海馬に沈着していた」、「脳障害を訴える患者の約8割が白血球型のDPB1*0501という免疫にかかわる遺伝子型を保持しており(保有率が8割)、日本人の平均頻度の約4割(これは保有率ではなく遺伝子頻度です)の倍以上だった」と発表しました。

これが後で大問題になるとも知らずに、その夜のTBS・ニュース23がそのまま報道してしまいました(写真上)。ことの顛末の詳細は、研究班リーダと捏造ではないかと指摘調査したジャーナリストとの間で名誉棄損裁判騒動もあり、微妙な問題も含まれているので軽々しく論評できません。WEDGEの記事やジャーナリストの著書「10万個の子宮」に詳細に書かれていますので、興味があるかたは是非お読みください。ただし、このミスリードに対する問い合わせが班長所属の大学や厚労省に殺到。大学は急遽調査委員会を招集し、結果検証を行いました。その結果、捏造とまでは言えないものの、初期段階のデータを厚労省やマスコミに対して発表してしまい混乱を招いたと学長名でコメント。それらをうけ、厚労省はいくつかの声明を出して、この研究班の遺伝子頻度の解釈に問題があったこと、不適切な発表により国民に対し誤解を招く事態となったことへの遺憾の意とこの発表では生じた症状がワクチンによって生じたかどうかについては何も証明されていない、「新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業(3年計画1年目)」の評価点数が40点満点で24点と最低点だったので科研費を減額すること、とはっきり公的に見解を述べています。しかし大手マスメディアは、盛り上がりを見せている子宮頸がんワクチン騒動に冷や水を浴びせるような発表を取り上げることはせず、子宮頸がんワクチンは恐ろしいものだという世論は変わりませんでした。しかし、一部メディアは子宮頸がんワクチンをめぐる問題を地道にしつこくとりあげていました。

 

2.名古屋市が行った子宮頚がん予防接種調査「名古屋スタディー」~症状と子宮頸がんワクチンとの関連性は認められなかった

① 名古屋スタディーの開始 (2013年8月24日)

2015年8月24日、「被害者の会」愛知支部の訴えを受けて、日ごろからワクチン行政には強い関心を持たれている名古屋市河村たけし市長は記者会見を行い、名古屋市でワクチン接種者全件調査をすることを表明しました。いわゆる幻といっては語弊がありますが悲劇の疫学調査「名古屋スタディー」の始まりです。

名古屋市ホームページの「市長の部屋」で、河村市長の定例記者会見の議事録が公開されています。そこで河村市長は、「いろいろ症状を訴えられているかたがおってね。そういう皆さんの声にこたえるということですから、なかなかええんじゃないですかね。いっつも褒められてもらえんけど、たまには名古屋もええことをやるわなといってもらいたいわな」と、らしさをだしてご機嫌だったそうです。

自画自賛されただけあり、実際この手の調査としては大変優れたデザインで行われました。まず対象を「市内に住民票がある小学6年生から高校3年生相当の女性」としたこと。これでワクチン接種や症状の有無にかかわらず全員を調査して子宮頸がんワクチンを「接種した群」と「接種していない群」の症状発症率を比較できる分析疫学の手法をとることができました。そして比較した症状は、被害者の会から提示された24症状すべてを網羅したこと。(・・・とてもここには列挙できないので、こちらなどを参照ください)。そして名古屋市は、この貴重な調査結果はのちに公開すること、論文化するこという条件を付けて、名古屋市立大学公衆衛生学の鈴木貞夫教授に分析を委託しました。

とういうことで2015年9月から独自調査を開始。そして短期間に対象の43%の7万人もの回答を集めました。この回答率の高さは子宮頸がんワクチンの恐怖がどれだけ国民に刷り込まれて話題性が高いものかを表しています。そして鈴木教授たちはわずか2か月半で解析。結果をまとめて12月14日に名古屋市ホームページ上に速報値を公開しました。何が何でも子宮頸がんワクチンの副反応を見つけ出してやろう、という市長と被害者の会側の強い意思が見え隠れしています。が、彼らの期待に反し、その解析結果は意外で残念なものでした。

② 名古屋スタディーの速報の公表 (2015年12月14日)

 2015年12月14日に名古屋市のホームページ「子宮頸がん予防接種調査」の速報がでました(現在HPから取り下げ)。アンケート回収率は43%の7万人から回収できました。ワクチン接種者の回答は約5割、非接種者からは約3割の回答率がありました。ワクチン接種者が回答者からは約7割近く(69.47%)と、非接種者3割(30.53%)と比較して2倍の回収ができました。ワクチンを接種した人たちはこのアンケートに大変興味をもっており、おそらくはワクチン接種者に症状出現率が高くなるようにバイアスがかかってしまうことも十分考えられました。

にもかかわらず、24症状のうち、統計学的に優位な差を持って症状がワクチン接種者で高くなったものはたったの5つ。しかも症状出現確率のオッズ比(ワクチン接種で症状が出るオッズと、接種していないのに症状が出るオッズを割って比をとったもの)は最も高いもので「身体が自分の意思に反して動く」の1.52倍。

日本ではギャンブルがあまり一般的ではないので、オッズといわれてもピンとこないかもしれませんが、簡単に言うとギャンブルに勝つか負けるか比較した時、負ける確率に対する勝つ確率の割合のことをいいます。例えばサイコロで1の目が出ると賭けるとしましょう。1の目が出て勝つ確率は1/6で、負ける(1以外の目がでる)確率は5/6です。オッズ1の目が出る確率1/6を1の目が出ない確率5/6で割ったもの。つまり1/6÷5/6で0.2となります。オッズ比は、例えばサイコロで1の目が出るオッズ0.2と、3の目が出るオッズ0.2を割って比をとったもので1となります。1ということは1の目も3の目も出る確率は同じということ。1の目の出る確率と3の目が出る確率は同じ1/6なので、オッズ比が1になるのは当然です。薬害で有名なサリドマイドですが、サリドマイド胎芽症の出るオッズ比が100を超え(提唱者レンツ博士のケーススタディでは380倍)、薬害エイズのオッズ比が無限大。オッズ比が2以下の1.52とはなんとも心もとない数字で、2を切っている場合、一般的に言えば薬害と考えるのは無理があります。

他のオッズ比が統計学的に比較的高かった症状は「月経量の異常」「物覚えが悪くなった」「手足に力が入らない」「その他の症状(自由記載)」でした。一方、「関節や体が痛む」、「集中できない」「めまいがする」は、ワクチンを受けた人に典型的と思われていた症状ですが、それら3つを含めた5つの症状で、ワクチンを打った方のオッズ比は1未満となり、出現率が低かったという皮肉な結果になってしまいました。

ワクチン接種者で高く出た5項目の症状が要因を調べるため、詳細な解析を行ったところ、「年齢の高い人」ほど症状が高く出ると答える傾向がありました。おそらく年齢を重ねるほど症状出現を高くするようバイアスをかけている(これは心因性のケースではよくありがちなこと)と思われたので、年齢の影響を排除するように補正行った結果、なんと接種した群が非接種群より高くでる症状は1つもなくなり、逆に15の症状で接種していない群が症状は出やすかったのです。つまり「被害者の会が是非調べてほしいと依頼した24の症状のうち、接種した出現しやすいという症状は1つもなく、むしろ6割以上の15の症状は接種したほうが異常な症状は出にくい」という、意外というか皮肉な結果となりました(下図:全年齢にわたりオッズ比は1以下でワクチン接種で症状が出るオッズが接種しないで症状が出るオッズより低いことがわかります)。

薬害を証明できるかも、と結果を心待ちにしていた河村市長の記者会見は、大変微妙で歯切れの悪いものだったそうです。速報値がホームページ上に公開された同日の「市長の部屋」にも河村市長の定例記者会見の議事録が公開されています。関連性はなかった、という結果に、市長は大変驚かれたそうです。「私の素直な感覚を言いますと、役人が言ったやつじゃないですよ。びっくりしましたよ。本当に。まず驚きましたね。この結果はね。こういう格好で、いわゆる子宮頸がんワクチンを打ったか打たないかで、今の数字で言うと、影響が無いという風に見られる数字が出たというのは。何でかというと、エイズやサリドマイドで、そちら側の話を今までずっと国会の中でやってきましたので。薬害という方でね。だから、非常に驚きました」といわれたそうです。それでも「結果は子宮頸がんワクチン接種と症状の関連性は認められない」といわざるを得ませんでした。それでもワクチンとの因果関係を疑って症状に悩む人がいることは重く受け止め、「最終報告は2016年1月をめどに出す」としました。しかしこの件でも例の厚労省の捏造騒動を巻き起こした発表会の修正の声明の時と同様に、大手マスメディアが大々的に取り上げることをしませんでした。これには河村市長も不満のご様子で、「だから、そういうことを名古屋でやったことが何で全国ニュースにならんのか、よくわからんですわ」と悔しがり、しかし「名古屋が日本を引っ張っとるということは間違いないので。ダントツトップですから」と名古屋の予防接種のすぐれていることのアピール、そして「普通は、進んどったりいろいろいったんやると、失敗が怖いから調査しないんですよ。みんな。そういうのが多いんです。その中で名古屋は、勇気をもってちゃんとやっているということの一番根本を、ちょっと理解しておいてもらわんといかん」、と最後に転んでもただでは起きない政治家根性をみせることも忘れませんでした。

これで一部を除く政治家やマスコミたちは、子宮頸がんワクチン騒動にすっかり興味を失った感があったのですが、「自分たちの異常な症状はワクチンのせいだ」と信じていた被害者の会や弁護士などの支援者、反ワクチン派やHANSを作り出した医者たち、がこんな肩透かしの速報結果で納得できるわけはありません。「薬害オンブズパーソン会議」が早速、同日のうちに記者会見を開いて、「明らかに不自然な結果で、被害者実態をとらえる解析はなされていない」など、失礼というかこれこそ解析された鈴木教授に対して名誉棄損的な言いがかりをつけてきました。また「副反応の症状は複合的で一人が複数の症状を持っている。個々の症状ごとに接種者と非接種者との有意差を比べても意味がない」とも述べました。いわゆる彼らが以前から主張していた「重なり」理論というものです。2日後の12月16日には「速報の解析結果の結論の信頼性は乏しい?」、「年齢補正の誤り??」、「分析疫学の解析手法は適さない???」などと問題点を指摘し、「さらなる分析」、「生データ」の開示を求めました。申し訳ないけどどう見てもこれは無理筋でしょう。むろんこの時点では、最終結果をみて、さらなる窮地に陥ることになるとは・・・夢にも思わなかったのでしょうけど。

③ WHOから日本が名指しで批判を受ける (2015年12月17日)

しかし世界は黙ってはいませんでした。名古屋スタディーの中間報告が出た3日後の12月17日、WHOの諮問機関の「ワクチンの安全に関する諮問委員会、通称GACVSギャッグス」は、子宮頸がんワクチンに関する新たな安全声明の中で早速名古屋スタディー速報結果について言及。「専門家の副作用検討員会は、子宮頸がんワクチンと副反応との因果関係はないとの結論を出したにもかかわらず、国は接種の積極的勧奨の差し止めをしたままで事実上接種再開できないでいる。以前からGACVSが指摘しているとおり、希薄なエビデンスに基づく政治判断は、安全で効果のあるワクチンの接種を妨げ、真の被害をもたらす可能性がある」と日本一国を名指しで批判しました。このときのGACVSのメンバーには、コロナでも専門家委員をつとめられている岡部信彦先生もメンバーとして参加されていた中でのことでした。

このGACVSの声明での日本批判は付け足しです。メインのポイントは、フランスで行われた200万人の少女を対象に行った大規模調査です。ワクチン接種者と非接種者の間に、自己免疫疾患を思わせる症状について、接種後3か月までの時点でギランバレー症候群以外のすべての症状の発症率に有意差はない」、「ギランバレー症候群に関しても発症リスクは10万例に一例程度と大変少ない」と結論づけた点です。

10万回ワクチンを接種するということはどういうことか。例えば小児科医一人がインフルエンザワクチンを入れても高々2000回のワクチン接種をしていると仮定して、10年で2万回、50年で10万回です。小児科医が80歳まで50年間現役で頑張って子宮頸がんワクチンばかり接種したとしても10万回接種するのが関の山なのです。生涯で1回ギランバレー症候群が当たるか当たらないですよ。

④ マスメディアから無視、曲解された名古屋スタディーの集計結果のみの公表 (2016年6月18日)

市長が2016年1月をめどに最終報告を出すという約束は果たされませんでした。結局、最終報告は遅れに遅れ2016年6月18日まで持ち越されることになりました。記者会見どころか、プレスリリースもなく、記者クラブへの通知もない。あまりにひっそりとした「報告」にメディアも気づかず、週明け20日(月)に市に確認を入れたのは、たった2社だったそうです。それどころか、名古屋市はあろうことか、きちんと分析疫学で結果を分析しオッズ比や有意差検定をしていた速報を削除し、最終報告書を公表せずに集計結果だけの骨抜き公表したのでしたあんなに一生懸命やっていた河村市長までもが、こりゃ使えんと興味を失ってしまったのでしょうか?

公開から1週間たった6月26日に、こともあろうにNHK朝日新聞が、「名古屋市が(ワクチン接種と症状の因果関係はなかったという)結果を事実上撤回」と突如報じました。たしかに名古屋スタディーの結果は思いもよらぬことで、河村市長も驚き、嘆き、困ったように、被害者の会、薬害オンブズマン、反ワクチン派の医者たち、それに国民をあおりにあおって恐怖に陥れていたマスメディアにとっては大変都合の悪いものでした。が、実際には名古屋市は都合の悪い解析結果をあえて出さなかっただけであり、「ワクチン接種と症状に因果関係はなし」とした速報の解析結果を撤回したのではなかったのです。それどころか、本当は作成されていた最終報告によれば、薬害オンブズマンたちが長年主張してきた「重なり」理論さえ、子宮頸がんワクチンに関しては明確に否定するものだったのに。これは大手マスメディアによる意識的なミスリードだといわざるを得ません。このマスコミの偏重報道を憂え、「何か自体がわからないときに非常ベルを盛大に鳴らすのはマスコミの大事な役割。しかし状況が見えてきたら、解除のアナウンスも同じくらいのボリュームで流すべきだ」といわれた方がいたそうですが、同感です。

2016年7月27日、子宮頸がんワクチン問題を最初から注目、取材していたジャーナリストが名古屋市と名古屋市立大学に対して、名古屋スタディーの最終解析結果の情報開示請求を行い、その全容を入手、11月30日にWEB上で公開しました(守れる命を守る会WEBサイトから引用)。

名古屋市と名古屋市立大学は最終解析をきちんと行い、最終報告として出せるような形に3月の段階で完成させていました。いわずもがな、子宮頸がんワクチンと24症状との間に薬害と呼べるような因果関係は否定されていました。特に興味深いのは、被害者団体や薬害オンブズマンからの強い要望で実施した、複数症状、いわゆる「重なり」理論に関する解析です(こちらの9から10ページ参照ください)。「1つ以上の症状がある」から「10個以上の症状がある」までに患者のうち、ワクチン接種者において非接種者よりも多かった群は1つもなく、それどころか、年齢の影響を取り除くために行った多変量解析の結果、ワクチン接種群の方がワクチン非接種群よりも、症状の重なりが「少ない」ことが明らかになってしまいました。

名古屋スタディー最終報告書から(守れる命を守る会WEBサイトから引用)

速報値を認めまいとクレームをつけていた薬害オンブズマンたちにとっては、まさに弱り目に祟り目。ここでみられるように薬害オンブズマン名市大との間で文書による質問と回答の応酬合戦はありましたが、一部の雑誌を除いて、多くのマスコミは無視を決め込み、子宮頸がんワクチンの濡れぎぬを晴らすデータが国民に広く報道されることはありませんでした。

当初名古屋市は、鈴木教授の行った最終解析が論文の形でも世に出ることに難色を示していましたが、2016年7月ごろには河村市長みずから「先生、論文書いてくださいよ」といわれたそうで、2018年2月23日、無事論文として公表されました。

 

3.名古屋スタディー後から訴訟合戦へ

① 日本小児科学会学術集会でついに小児科医の総意がしめされる (2016年5月14日)

2016年5月14日、札幌で行われた日本小児科学会学術集会の緊急シンポジウム「日本におけるヒトパピローマウイルスワクチンの現状と課題」が行われました。私も別の発表のため学術集会に参加していましたが、会場前のロビーまでも人だかりでとても会場に入れず、聴講を断念しました。

WEDGEの記事によると、このシンポジウムで呼ばれたシンポジストは5人。唯一の小児科医がHANSを唱えている横田俊平教授(横浜市立大学小児科学)でした。他の4名の非小児科医の研究者や臨床医がワクチンの必要性を説く中、横田教授は予定されていた15分を大幅に上回る25分間、「外国に副反応がないというのはウソです」、「これはスモン病と同じです」と自信のある口調で話し続け、「我が国は子宮頸がん大国になってしまう、これはウソです、大ウソです」、「HANSの子は全国で少なくとも1万人はいるはずです」と語気を強めたそうです。そして各シンポジストの発表後の質疑応答で、あるシンポジストが「非科学的な情報が流れたときに専門家の小児科医の先生方がきちんと否定しないと……」と言いかけたところで、横田氏が「おい、ちょっと失礼なんじゃないか!」と声を荒らげて不規則発言をしてさえぎり、会場が騒然とする場面もあったそうです。

シンポジウムの最後に、座長がフロアで聴講していた小児科医たちに子宮頸がんワクチンの積極的勧奨の再開を指示するかどうか挙手してもらったところ、「支持する」の方に無数の手が上がり、9割くらいが接種再開を支持しているようだとまとめたそうです。まあ、医者の多くは大なり小なり博士課程を修了している科学者でもありますので、子宮頸がんワクチン接種を推進すると9割がたが表明したことは、まあそんなもんかなと当然に受け止めています。

最後に横田教授の名誉のために補足いたしますが、先生は若年性特発性関節炎の分野では知らない人はいないほど高名な方です。日本小児科学会の会長も務められ、会員の指導用にオンライン講座での映像しか知りませんが、その診療は親切丁寧なもので私もいつも診療の助けにしています。多くの苦しんでおられる患者さんたちと親身になって接してきたからこそピットホールに陥ってしまったのでしょう。

② 被害者連絡会が国とワクチン製造会社2社に対し集団提訴 (2016年7月27日)

そして2016年7月27日、被害者連絡会は「子宮頸がんワクチン訴訟」を起こしました。3月からの流れで、メディアに大きく取り上げられるはずでした。ところがその前日7月26日未明に起きた「津久井やまゆり園19人刺殺事件」という陰惨な事件が起きたせいで、マスコミの注目はそちらの事件にうつり、子宮頸がんワクチン訴訟の扱いは予想をはるかに下回るものだったそうです。けれど誇らしげに車いすに乗った少女を先頭に東京地検に入るカットはお茶の間に流され、未だ積極的勧奨が取り下げられたままになっている子宮頸がんワクチン騒動が新たな局面に入ったことを全国民に印象付けるには十分でした。

③ 厚労省研究班班長がWEDGE社とジャーナリストを名誉棄損罪で提訴記者会見 (2016年8月17日)

 2016年8月17日、池田修一研究班班長は、雑誌WEDGEで取り上げられた自身の問題の発表に関する記事の中で捏造とされたと、WEDGE社とジャーナリストに対し名誉棄損罪で提訴。2020年3月22日に最高裁が被告側の上告提起および上告受理申立てを却下の決定を下しました。このように子宮頸がんワクチン騒動の舞台は、法廷にまで持ち込まれており、場外乱闘のさなかです。例のデータについては、厚労省も使えないことを認めていますが、話をすり替えて法廷の場に持ち込むことは、学者として正しい態度なのでしょうか?データに自信があるのでしたら、人がやったから・・・とかいわず、正々堂々、学会など学術的な場で議論すべきではないでしょうか?

④ HPVワクチンの接種歴がない若年者でも疼痛や神経障害などの症状を示す患者が一定数いることが判明(2016年12月26日)

それでも少しずつ流れは変わってきているようです。2016年12月26日には厚労省研究班(祖父江班)が全国疫学調査を公表し、思春期の女性には、子宮頸がんワクチンとは関係なく、疼痛や運動障害などワクチン接種後に報告されている多様な症状を呈するケースが相当数いることが確認されました。

調査は、全国の病院の1万8,302の診療科を対象に、2015年7月から12月に受診した12~18歳の若年患者で、頭痛や起立障害、倦怠感、神経麻痺、月経異常など「HPVワクチン接種後に発生したとされる多様なものと同様の症状」が3ヵ月以上持続しており、通学や就労に影響がある患者の有無を尋ねたものでした。その結果、「患者あり」と回答した診療科は全診療科の3%弱にあたる508カ所。その診療科に、多様な症状がありHPVワクチン接種歴のない患者数を推計してもらいました。HPVワクチン接種後に発生したとされる症状と同様の多様な症状を示す患者は、12~18歳の女子では10万人に40.3人、12~18歳の男子でも10万人に20.2人の頻度でみられることが分かりました。子宮頸がんワクチンの接種後に報告された副作用とみられる症状について、HPVワクチン接種歴のない12~18歳の女性でも同様の多様な症状が、10万人に20人の割合でみられることがわかりました。一方、子宮頸がんワクチン接種歴のある女子では、人口10万人に27.8人の頻度(ざっと3000人に1人)で患者が存在していました。

一口に3000人に一人の症状出現率、といってもピンときません。当院レベルの医院でシュミレーションを行いました。子宮頸がんワクチンを毎日1回に行うとして、月に20回接種、年間240回接種となります。子宮頸がんワクチンは1人に3回接種しますので、240回÷3回=80人。1年にざっと80人の女学生に3回接種となります。では女学生3000人に子宮頸がんワクチンを接種するのに、当院ではどれくらいの年月が必要でしょうか?答えは簡単です。3000人÷年間80人接種で37.5年かかります。私は年なので頑張ってもこの先せいぜい15年しか打てないでしょうから、統計学的には、接種後に多様な症状が出る女学生にあたることはない、あっても1人と思っています。「犬が人をかんでもマスコミに取り上がられることはないが、ヒトが犬をかんだら大ニュースになる」。ワクチン接種後の恐怖の事態がぐっとクローズアップされていますが、実際は多様な症状が出る頻度(当院レベルで37.5年に1人)はこのくらいで、しかも同じ程度の頻度で、男性も含めてワクチンを打たなくても多様な症状がでている。ワクチンに不安を抱いておられる方々も、冷静にこの事実にも目を向けていただきたいものです。また接種医の方も、多様な症状が出た場合は、ワクチンの接種にかかわらず誠実に対応することが、国民の接種意欲向上につながると考えます。

 

4.子宮頸がんワクチンへの濡れ衣が晴らされつつあり、ようやく接種勧奨再開の道筋が

① 各学術学会による子宮頸がんワクチンの接種勧奨の再開を求める声明

子宮頸がんワクチン接種の積極的勧奨が差し止めになってこの6月で丸7年。子宮頸がんワクチン後の異常行動問題も時間の経過とともに世間の関心が薄れ、マスコミも裁判の節目で思い出したときに取り上げられる程度になってきました。集団裁判の審議が続く中、残念ながら厚労省は積極的勧奨をいまだ再開できずにおり、多くの我々接種医も見て見ぬふりをしてワクチンの必要性や安全性のアピールをさぼっていたこともあり、子宮頸がんワクチン接種率はいまだ1%と、うそのような数字です。その間にも年間1万人の子宮頸がん勘定の発生と3000人弱の死亡例が報告されています。さすがにこの状況はまずい、ということで少しずつですが、日本医師会などが接種後の多様な症状に対する診療ガイドラインを、学術学会が子宮頸がんワクチンの接種勧奨の早期再開の声明をだすようになりました。

2015年8月19日、日本医師会と日本医学会は「子宮頸がんワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き」をまとめ、厚労省ホームページ上に公開。世界中で日本だけ子宮頸がんワクチンの接種が事実上行われていない状況で、将来子宮頸がんの発症が他国に比べて著しく高い事態が起きる可能性を憂慮。一歩、接種後に多彩な症状に苦しんでいる人がいることも事実で、そのような方の診療にあたっている医師たちの意見をまとめたものです。患者さんの診察上の具体的な対応、診察法、検査、鑑別診断、それに治療のポイントが記されています。それ以上に紙面を割かれて書かれているのが、「協力医療機関などとの連携」です。この問題の根本には、症状がある患者さんを医師たちが「わかりません」「詐病では?」「専門ではない」「他をあたってください」などとたらいまわしして、医療不信を増長した結果起こったものだと考えます。子宮頸がんワクチンに限らず、その意思がわからないのであれば、わかっている専門施設に直ちにきちんと紹介するというのは、最低限の医師の仕事です。

2016年の日本小児科学会学術集会で、ワクチン積極的な勧奨再開に同意するという小児科学会会員の総意が示された通り、2016年4月19日、日本小児科学会、日本産婦人科学会をはじめ17の学術団体が「子宮頸がんワクチン接種推進に向けた関連学術団体の見解」を発表しました。

この時点で接種の積極的勧奨の差し止めから3年がたち、名古屋スタディーや海外のデータでワクチンの有効性安全性が示されるようになり、学術団体もようやく重い腰を上げたというわけです。特に、子宮頸がん患者を診療している日本産婦人科学会の危機感は強く、その翌月2017年1月13日と2018年には6月15日6月23日と立て続けて「子宮頸がん予防ワクチン接種勧奨の早期再開を求める声明」を発表。2019年11月1日には、「自治体が行うHPVワクチンが定期接種対象ワクチンであることを告知する活動を強く支持します」との声明文をホームページに公開しています。

② 厚労省がワクチン啓発の為のリーフレットを作成、情報提供の評価を調査 (2019年8月30日)

2018年2月に、厚労省は子宮頸がんワクチンの有効性を強調した新しいリーフレットをホームページに公開しました。

2019年8月30日の第42回厚生科学審議会予防接種ワクチン分科会検討部会で「子宮頸がんワクチンの情報提供に関する評価について」の議案にて、市町村向けには情報提供の実績調査を、国民向けには、幅広い年代に子宮頸がんや子宮頸がんワクチンの情報をどのように把握しているかなどに関する調査の結果が討議されました。

まず2018年8月時点でのリーフレットの活用状況を全1741市区町村にアンケート調査(回収率は100%)で問うたところ、ウェブサイトに掲出すると同時に窓口に設置している自治体は5.2%の91自治体のみ。大分市のようにウェブサイト掲出のみは190自治体(10.9%)、窓口設置・配布のみ218自治体(12.5%)。最も多かったのは「両方とも行っていない」1235自治体(70.9%)でした。無関心の自治体が大半であった一方、同リーフレットか自治体が独自に作成した案内などを送付・配布して情報提供を行っているところもあったそうです。97自治体は何らかの情報提供を対象者に個別に行っており、基部者への送付・配布は168自治体、医療機関への送付・配布は182自治体が行っていました。「国の動きを待っていられない」と、子宮頸がんワクチンの情報を独自に住民に周知する自治体も出てきた実態が明らかになりました。

 

特に岡山県では、地元産婦人科医団体、大阪大学産婦人科学教室の協力を得て、最新の科学的な根拠を盛り込んだ子宮頸がん予防啓発リーフレットを2019年8月に作成。8万5000部を印刷し、県内の市町村や保健所、学校に送付し、県のウェブサイトに公開しています。

一方、わが大分市の子宮頸がんのサイトはここにある通りです。悲しくなるほど独自性がないけど、岡山でも起きたように、反ワクチン派からの嫌がらせが起きることを考えると仕方ない気も致します。

 次いで国民が子宮頸がんワクチンに関する情報をどのように聞くインターネット調査を、2018年10月19日から10月24日に実施しています。年齢・地域に偏りがないよう調整した男性1200人、女性1549人の2749人にアンケートを送付。「予防接種をする際に誰の意見を参考にするか」はかかりつけ医が34%、母親27%、その他の家族が17%と続きました。子宮頸がん接種対象年齢の12歳から16歳の女性は、母親が75%、かかりつけ医33%、学校が19%と、母親と学校が出てきたのが目立ちます。「小児科医はこどもではなく母親をみている」、といった先輩医がいましたが、お母さんたちに啓蒙する大切さを再任しました。「どこから情報がほしいと思いますか?」の質問では、「テレビ・新聞・雑誌の情報」が39%で最も多く、次いで「かかりつけ医」28%、「自治体窓口」27%でした。12歳から16歳の女性に絞れば、「学校」が41%と学校がぐんとクローズアップされる結果になりました。厚労省作成のリーフレットについても尋ねています。結果はこのサイトの図を参照ください。

このようにまだまだ課題ののこるリーフレットですが、この会議で、リーフレットの内容をわかりやすいものに変えるべく、リスクコミュニケーションの専門家や広告代理店などを製作過程に入れることや「HPVワクチンは、積極的にお勧めするとこを一時的にやめています」などという変わりにくい表見の意味を、より具体的にすべきといった意見が出たそうです。

③ 自民党内で「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す勉強会」を開き、議員連盟を発足 (2019年11月26日)

政治家たちの中にもこのような風の流れの微妙な変化をよみとった人達が出てきて、自民党内で2019年11月26日に「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す勉強会」を開き、議員連盟を発足させました。子宮頸がんで子宮を失った経験をしている三原じゅん子議員らが中心です。詳細はこちらをご覧ください。

④ 「日本におけるHPVワクチンへの躊躇が子宮頸がんに及ぼす影響」の論文が知る人ぞ知る反響を起こす (2020年2月18日)

2020年2月18日、ワイドショーがクルーズ客船「ダイヤモンド・プリンセス」のコロナで大騒ぎしていたころ、北海道大学シャロン・ハンリー講師から子宮頸がんワクチンに関する重大な研究論文がプレスリリースされました。Lancet Public Healthという公衆衛生学の専門誌に2月10日に公開された「日本におけるHPVワクチンへの躊躇が子宮頸がんに及ぼす影響」の論文です。

ポイントは、1994年から2007年の間に生まれた現13歳から26歳の女性がこのままの1%のHPVワクチン接種率のままだったら、一生涯のうちに24600人から27300人が子宮頸がんに超過罹患し、5000人から5700人が超過死亡すると予想されました。もしこのまま接種率が1%のままだったとしたら、これからの50年間で合わせて55800人から63700人が子宮頸がんに罹患して9300人から10800人が死亡すると推定されます。現在12歳の女性だけで、一生涯に3400人から3800人が子宮がんになり、700人から800人が死亡すると予想されます。一方、もし直ちに積極的勧奨が再開され、12歳から20歳までの女性の接種率を今年2020年中に50%から70%に回復できたら、子宮がんの超過的死亡数の80%の命を救うことができると推定されます。

子宮頸がんワクチンの積極的勧奨の再開は待ったなしです。上の図を参照ください。10万人中16人の子宮頸がん年齢調整罹患率を、積極的勧奨の再開やワクチン接種率の回復により、最大5人にまで下げることができることがわかります。コロナ対策も待ったないなのはわかりますが、子宮頸がんワクチンの積極的勧奨再開もたくさん若い女性を子宮頸がんから守るためには待ったなしなのです。

 

5.終わりに

子宮頸がんワクチンが定期接種化直後の2013年6月14日に積極的勧奨を一時見合わせると厚労省が決めて自治体に通告してから6月で丸7年。もう子宮頸がんワクチンの存在さえしらない方も多いのではないでしょうか?

ここに書いたように、マスメディアによるワクチン禍とする報道が何年たっても検証されず、軌道修正されないまま放置。公正中立の立場で事実のみを追い求めなければならないはずの研究者によるミスリードとともいえる研究発表とマスコミへの登場。都合の悪い疫学調査が出たからといって、難癖をつけたり公表の邪魔をしようとする団体や自治体の存在。このような状況は国内では通るかもしれませんが、WHOから再三名指しで批判されているように、国際的には通りません。今回のコロナの件でも中国さえも名指しで非難しないWHO。WHOが1国を名指しで非難することは異例で大変恥ずかしいことなのです。

その間も、ワクチン接種率は1%以下にまで落ち込んでしまったままです。現在12歳の定期接種年齢から2013年当時中学生になった世代(2000年から2001年生まれの現在20歳前後の女性)の女性は医者の娘以外はほぼ打たない状態になってしまいました。この世代の日本人女性、5000人から5700人が超過死亡すると見込まれています。このままでいいのでしょうか?今度は、将来ワクチン定期接種勧奨差し止めのために子宮頸がんになる女性たちも、また不毛な法廷闘争に巻き込まれないでしょうか?

いろいろな立場の方がおられるのは承知しています。が、反対派団体のプレッシャーはマスコミやSNS、はたまた法廷などを巻き込んで激しいものなので、自治体、学校、そして我々医療関係者さえ言葉にするのもはばかられる空気が蔓延してしまいました。けれど、今回のコロナ騒動でもそうですが、非科学的な流言に元づくマスメディアたちの暴走で培われた「空気」により、救えるはずの命を救えなかったり、不利益を被る人々がたくさん出てしまうことをもう一度私たちは認識する必要があります。

身近な存在の町医者や学校だけでも事実に基づいた啓蒙をしてゆかないとまじでやばい。ここでかかりつけのお母さんや中学生の女学生の皆さん方に、子宮頸がんワクチンの問題をあえて今回提示しました。ご自分やお子さんの健康について考えていただけましたら幸いです。

診療内容:小児科・アレルギー科・予防接種・乳児健診
tel.097-529-8833
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