7月後半に入りようやく梅雨も明け、セミの鳴き声も戻ってきた今日この頃です。夏休みに入り、こどもたちも一番楽しい季節ですが、同時に水難事故や交通事故などの不測の事故のニュースも伝えられています。小児科学会HPに「教えてドクター佐久」先生が作成したわかりやすいポスターのリンク先が公表されていますので、是非一読されることをお勧めいたします。皆様方にはどうぞお気を付けください

さて、コロナやヘルパンギーナやプール熱などの夏風邪、それに季節外れのインフルエンザでおこさんが高熱を出してひきつけを起こされるケースも散見されます。私自身はけいれんやてんかんなどの神経疾患に詳しいわけではありませんが、それでも長い勤務医時代に当直や救外当番していた時に熱性けいれんを対応する機会はたくさんありました。熱性けいれんは小児科医であれば避けてはとおれない疾患なのです。今年に入り、熱性けいれんの診療ガイドラインも改訂され、私が救外で実際に熱性けいれん児を対応していた2015年以前とはずいぶん対応が変わって隔世の感、驚かされました。そこで今月は「こどもの熱性けいれん」にフォーカスを当てて知識をブラッシュアップすることにしました
今月のフォーカス 時代とともに変わる熱性けいれん(熱性発作)の対応

- 熱性けいれん(熱性発作)とは
- 熱性けいれんには「単純型」と「複雑型」があり、複雑型の場合、入院や検査が考慮される
- 熱性けいれんの初期対応
- けいれんが重積状態の初期治療
- 発熱時のジアゼパム(ダイアップ)座薬が必要か、その適応基準はなにか
- 発熱時のダイアップ座薬の使用方法と注意点、そしていつまでつづければいいのか
- 熱性けいれんを経験したこどもがのちにてんかんを発症することは90%以上ない
- 脳波検査はてんかん発症や熱性けいれん再発の予測に有用か
- 最後に:ヒブワクチン・肺炎球菌ワクチンの普及が乳幼児の小児科医療を大きく変えた
熱性けいれん(熱性発作)とは
皆さん、もうお気づきかと思いますが、熱性けいれんのあとに、カッコで囲まれた(熱性発作)という聞きなれない言葉。恥ずかしながら、私自身、正直にお話ししますが、先日改訂された熱性けいれんの診療ガイドライン(2023年版)を手に取るまでは聞いたことのない言葉でした。事実、2015年に発表された同ガイドラインの初版のタイトルは、まだ「熱性けいれん診療ガイドライン2015」で熱性発作という言葉は出てきていません。どうやら最近では、神経疾患の専門の方々の間では、「熱性けいれん」ではなく「熱性発作」という言葉のほうを使用したいと思われているようです。だたし、一般の人々や我々のような神経疾患を専門にしていない小児科医の間では「熱性けいれん」という言葉はあまりにも浸透しており、「熱性発作」といわれてもピンとこないので、「熱性けいれん」という言葉もまだ残してやろう、と気遣われているようです
さて、本筋に戻り、熱性けいれんとはなにか。熱性けいれん、と聞けば、赤ちゃんが熱を出した時に「いきなり目をむいて真っ青になりガクガクし始める」ことをイメージするのではないでしょうか?専門家に熱性けいれんは?と尋ねたら、どうでしょうか
例の熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023には、「おもに生後満6か月から満60か月(つまり4歳児くらいまで)までの乳幼児に起きる、通常は38℃以上の発熱に伴う発作性疾患(けいれん性、非けいれん性を含む)で、髄膜炎などの中枢神経感染症、代謝異常、その他明らかな発作の原因がみられないもので、てんかんの既往のあるものは除かれる」と書かれています。さすが専門家。短い一文に熱性けいれん(熱性発作)の本質がギュッと詰まっています
まず熱性けいれんの本体。38℃以上の発熱に伴う発作性疾患(けいれん性、非けいれん性を含む)と規定しています。私たちがイメージする熱性けいれん、は、さっきも言いましたが、赤ちゃんが熱を出した時に、いきなりガクガクし始めるとおもいます。このガクガクしている状態がいわゆるけいれん性の発作性疾患となり、英語では「コンバルージョン(convulsion)と表記されます。しかし米国国立衛生研究所(NIH)が1980年に出したコンセンサスカンファレンスでは、ガクガクするような運動性のけいれんconvulsionの状態だけでなく、「脱力」「一点凝視」「眼球上転」のようないわゆる非けいれん性の発作も含む、いわゆる「スゥイージャー(seizure)」であると定義されていたのです。「熱性けいれん」と聞けば、どうしてもガクガクする運動性けいれん「だけ」をイメージしてしまいがちなので、誤解を防ぐ意味で、有熱時のseizureに対応する表記として「熱性発作」と今回の診療ガイドラインから(カッコ書きですが)表記されることになったようです
そして重要なのは起きる年齢と除外疾患がきっちり定義されていること。熱性けいれんと呼べるのは「生後6か月から満60か月(4歳くらいまで)の間」と明確に規定されています。この年齢の範囲に含まれていない新生児や生後5か月までの早期乳児は、そもそも熱を出すことが非常にまれ(母親からもらった免疫、正確に言うと免疫グロブリンというたんぱく質で多くのウイルス感染症から守られていることが多いため)です。この年齢のあかちゃんが熱を出してひきつけやけいれんを起こしたときは、定義のあとのほうに記載されている恐ろしい「細菌性髄膜炎」が潜んでいることがしばしばありました。それに低血糖症や、非常にまれですが先天性代謝異常症などの代謝異常が潜んでいることもあります。生後6か月から4歳に入っていない新生児、早期乳児、年長児が有熱時にひきつけを起こしたりぼーっとしたりした場合は、我々非専門医の小児科医たちに「熱性けいれんやろ」と簡単に捌かれないように、あえて年齢を区切ってしっかり原因検索をして除外診断しろといっていると思います
5歳以上では、高熱をだしても普通は熱性けいれんを起こすことはまれです。年長児以上でけいれんや非けいれん性の異常が出る場合は、今の暑い時期に流行するエコーウイルスやエンテロウイルス71型などによる無菌性髄膜炎だった、とか、インフルエンザ脳症だった、じつはてんかんだった、ということがあり注意を要します。また熱性けいれんを頻回に繰り返す子供が6歳以上の年長者でも有熱時けいれん(発作)がつづくか無熱性発作をおこす場合、「熱性けいれんプラス(FS+)」やてんかんの可能性があり、専門医への紹介が必要です

熱性けいれんには「単純型」と「複雑型」があり、複雑型の場合、入院や検査が考慮される
特に日本人は熱性けいれんをおこすこどもが多いといわれ、ツイッター界の医クラの間でも「あ~また熱性けいれんか~これくらいで救急車をよびやがって~」と愚痴たれているのもみられるくらい慣れっこになっています。が、ときに怖い思いをすることもあります。それが複雑型熱性けいれん、中でも15分以上遷延する熱性けいれん(発作)が搬送されたときです
その怖い「複雑型熱性けいれん」のケースは同のような状態か。例のガイドラインでも明確に定義されています。つまり・・・
- 焦点発作(部分発作)
- 15分以上持続する発作
- 同一発熱機会の、通常は24時間以内に複数回反復する発作
の3つの要素の1つ以上もつ、げに恐ろしいけいれんです。逆に「単純型熱性けいれん」は、3要素いずれも持たないものです
15分以上とか長く続く、とか、1日に何回かけいれんを起こすのはわかりやすいですが、焦点発作が聞きなれないと思います。熱性けいれんを見た方は理解できると思いますが、熱性けいれんを起こしている状態は、ふつうは全身が左右対称にガクガクするか、目をカッと見開きガチガチに突っ張っているかでしょう。このようなけいれんを「全般発作」と呼んでいます。では「焦点発作」とは。発作中、体の一部、例えば片手だけがぴくぴくガクガクしている、というような焦点性要素を持った運動発作や、体の半分だけをガクブルさせている半身けいれん、眼球があらぬほうに偏移させているなど、左右差のある発作を指します。しかし焦点発作には、それだけでなく、熱性発作の定義でのべた「非けいれん性」つまり一転凝視や脱力などの動作停止でけいれんを伴わず意識障害をきたす発作も含まれることに注意が必要です。複雑型熱性けいれんのケースは意外に多く、熱性けいれん全体の1/4から1/3を占めるという報告が多いとのことです
熱性けいれんが単純型か複雑型かの見極めは、小児救急外来などでの対応に大きくかかわります。熱性けいれんが単純型か複雑型で、髄膜炎や急性脳症の鑑別や検査、入院適応の判断材料にしている施設が散見され、とくに15分以上続く遷延性の有熱時発作では、髄膜炎や急性脳症の鑑別のために採血検査や髄液検査を積極的に行い、それに入院管理にすべしとしています。遷延性のけいれんや焦点発作の場合、発作前の発達の遅れや発作後の麻痺を認める場合は、CTやMRIなどの画像診断も考慮されます。逆に診察や問診で単純型熱性けいれんと判断される場合は、最近では驚くことに「また起きたら救急車できて」といわれ、経過観察なしで帰宅OKのことも多いそうです。それどころか、最近のマニュアルでは、家族などの観察者に「単純型」かどうか判断させ、そうであれば自宅で観察、という、我々ロートル町医者からしたら信じられない対応を観察者に求めているようです。どうせ単純型で受診しても解熱剤だされるだけでかえっていいよ、ってなるので、そうなっているのか、それともコロナではやった「時間外の小児救急を守りたい」ためにはしかたないのでしょうか

熱性けいれんの初期対応
熱性けいれん児の対応も、私が研修医をしていた平成の初め、1990年ころから大きく変わりました。昔話をしても詮無いですが、昔は救急搬送された時点でけいれんが持続していた場合はもちろん、けいれんが自然頓挫していて、全身状態が見た目には悪くなくても、ルーチンに血管確保して輸液開始と同時に採血検査で白血球数や血糖値、電解質や肝逸脱酵素などの採血検査をオーダー。輸液開始後、自然排尿で脱水改善確認時に採尿して尿中白血球数のオーダー。けいれんの様式や診察、そして検査ですこしでも重症感染症を疑えば髄液検査や入院観察を考慮。一方、診察や検査で重症感染症が否定できれば、2時間程度輸液しながら観察し、歩行ができる年齢の子にはその場で歩行ができることが確認できれば、あるいは乳児であれば、意識レベルに問題がなく簡単な神経学的な診察で異常がなければ輸液終了。けいれん再燃したら救急車で再来することを説明して帰宅、という流れが一般的だったと思います。もちろん施設や地域の事情で多少は対応が変わっていたかもしれません。なかには帰る前に抗けいれん薬のダイアップ座薬を入れてから返すこともしばしば行われていました
ところが今では、けいれんで搬送されても、意識障害がない、麻痺などの神経学的所見がない、全身状態良好で重症感染症のおそれがない、故に単純型と診察で判断された場合は、腰椎穿刺はもちろん、採血検査や輸液確保での観察もなされず、また起きたらまた来て、で帰宅OK、のケースがあることを最近知り、ワクチン一つでここまで変わってしまったのか…と隔世の感に愕然としてしまいました。つまりヒブ・肺炎球菌ワクチン導入で乳幼児の細菌性髄膜炎や菌血症がほとんど根絶された今、熱性けいれんの初期対応にも大きな変化が起きているようです。与太話はやめにして、ガイドライン2023をのぞいてみましょう
①採血検査
さっそく診療ガイドライン2023を紐解くと、やはり「採血検査をルーチンに行う必要はない」とはっきり書かれておりました。もちろん、全身状態不良で菌血症など重症感染症を疑う場合、意識障害が持続する場合、脱水を伴う場合は白血球数や電解質、血糖値、血液培養を考慮すべしだし、けいれんが遷延し意識障害も続く場合は急性脳症も考え、以上に加え生化学検査を考慮すべしとありました
②髄液検査
昔よくやられていた髄液検査に関しては、もちろんルーチンにやる必要はなく、遷延性の有熱性発作で髄膜刺激症状や大泉門膨隆、30分以上意識障害が遷延する場合、細菌性髄膜炎や脳炎を疑い、髄液検査を積極的に行う、とも書かれています。のちに述べるようにヒブ・肺炎球菌ワクチンのおかげで細菌性髄膜炎をみることがほとんどなくなったからです
③頭部画像検査
CTやMRIなどの頭部画像検査については、これまたルーチンに行う必要はなく、けいれん前から発達の遅れがあった場合や発作後麻痺を認める場合、焦点発作や遷延性発作の場合は頭部CT/MRIを考慮するとあります。ヒブ・肺炎球菌ワクチンがなかった30年も昔は、細菌性髄膜炎の随伴性けいれんも多く髄液検査をしょっちゅう行っていた関係で、検査前に脳圧亢進や器質的な異常がないかどうか、ルーチンに近いくらいの頻度で頭部CTをとって軽くチェックしてから腰椎穿刺をしていたことが懐かしく思い出されます
④入院を考慮する目安
発作が5分以上続いて抗てんかん薬の静脈注射が必要とする場合、大泉門膨隆や髄膜刺激症状などの髄膜炎などの中枢神経感染症が疑われた場合、30分以上の意識障害、全身症状が悪い、あるいは脱水所見がある場合、けいれんや発作が同一発熱機会に繰り返し認めた場合、その他医師が入院したほうがいいと判断した場合などが入院を考慮する目安となると書かれています
けいれんが重積状態の初期治療
発作が5分以上持続する場合、ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)、ミダゾラム(ミダフレッサ)、ロラゼパム(ロラピタ)の静脈注射、またはミダゾラム口腔内液(ブコラム)の口腔内投与を行うか、静脈注射が可能な施設に搬送する、とされています。ロートルな町医者の私はジアゼパム静脈注射(静注用ホリゾン、セルシン)か、ジアゼパム座薬(ダイアップ)、ダイアップのない時代は輸液確保困難児に確保まで静注用セルシンの注腸くらいしか使用経験がありません。2020年、武田薬品からブコラム口腔内液(ミダゾラム)が発売され、けいれんを自宅や医院で頓挫させる方法ができたと聞いています

とはいえ、5分でけいれんが止まらないケースではブコラムでも頓挫できないことも稀ではあるが存在し、当院ではブコラムはおいておりませんし、ご存じのように静脈確保もできませんので、けいれんが少なくとも頓挫しないケースはこれまで同様、大分こども病院か県病に搬送していただきたいと切に思います。一人医師でのワンオペ開業医院に救急搬送は、ほかの患者もまっているわけで、無理筋でしょう
発熱時のジアゼパム(ダイアップ)座薬が必要か、その適応基準はなにか
熱性けいれんの再発予防は、保護者の関心が高いところです。ガイドライン2023でも熱性けいれん既往児への発熱時のダイアップ座薬のけいれん再発予防の有効性は高い、とありますが、高い頻度で有害事象が出ることから、既往者全員に予防投与する必要はないとしています
ではどのような場合に予防投与を行うか・・・ですが、今回のガイドライン2023にも明確にかかれています
~~~~~~~~~~~~~~~~~
①発作持続時間が15分以上の遷延性発作だった場合
または
②以下の6つの項目のうち、2つ以上を満たした熱性けいれんが2回以上起きた場合
- 焦点発作または24時間以内にけいれんが反復した(複雑型熱性けいれんだった)
- もともと神経学的異常や発達遅滞があった
- 熱性けいれんかてんかんの家族歴がある
- はじめての熱性けいれんの年齢が生後12か月未満
- 熱が出て1時間以内の短時間でけいれんをおこした
- 38℃未満の発熱でけいれん・あるいは発作をおこした
~~~~~~~~~~~~~~~~~
これに従えば、熱性けいれん既往児の「発熱時のダイアップ座薬の適応」基準は大変厳しいものと感じます。とくに2.「もともと神経学的異常や発達遅滞」がない、3.「熱性けいれんかてんかんの家族歴」がない、4.「初めての熱性けいれんが生後12か月」以降だった場合、1回目の熱性けいれんがたとえ複雑型であっても15分以上遷延していないケースならば、1、5、6.のうち2つを伴うケースが2回ないと発熱時のダイアップ座薬の適応とはなりません。一方、1回目の熱性けいれんで2.~4.のうち2つあれば、2回目のけいれんがたとえ単純型熱性けいれんであっても、それ以後「発熱時のダイアップ座薬の適応」となります。もちろん1回でも15分以上の遷延した複雑型熱性けいれんをおこせば、それだけで以後「発熱時のダイアップ座薬の適応」となります
発熱時のダイアップ座薬の使用方法と注意点、そしていつまでつづければいいのか
使用法は37.5℃以上の熱に気づいた段階で1回挿肛、発熱が持続していれば8時間後に1回だけ追加挿肛すればいいです。眠気がかなり強くなるおこさんもいれば、逆に酔っぱらったみたいになってふらふらし始めるおこさんもいます。ひっくりかえってけがをすることもあり、2回入れた場合、血中濃度が下がってくる数日までは注意深い観察が必要です。副反応が強ければ、次回から減量するなどの配慮も必要となります
それにもう一つ医学的に問題なのは、ダイアップを使用した場合、その鎮静作用のため、髄膜炎、脳炎、脳症の症状がわかりにくくなり、鑑別に苦慮するおそれも出てきます。簡単に言えば、けいれんを連発すればどんな医者だっておかしいと感じ早い段階でリアクションを起こせます。ダイアップで鎮静させてしまえば意識レベルの評価も困難になり、薬で寝ているだけか、脳症で意識障害を起こしているのか評価が困難になる、ということです。ドクターコトークラスならばいざ知らず、トレーニングを受けてきたバリバリの医師でも謀殺されているときはどうしても良いほうに考えがちです。ついつい「ダイアップで寝てるだけだろ」と考えがちで、でドボンとなります。だから熱性けいれん児を帰宅させるときには、保護者によるダイアップの入れ忘れ、とか、救急車到着まで1時間以上かかる、などのへき地のよほどの事情がない限り、けいれんが再燃しないように、とむやみにダイアップを入れて帰す医者はいなくなりました
ダイアップの投与対象期間も記載されており、最終発作以来、熱がでてもひきつけを起こさない期間が1~2年経過した、もしくは、4~5歳までの投与がよいと考えられるが、明確なエビデンスはないとぼやかされた表現になっています。これも患児を取り巻く事情などを考慮し、個々の事情に配慮して決めていくことになります
熱性けいれんを経験したこどもがのちにてんかんを発症することは90%以上ない
おこさんが熱性けいれんを経験した保護者の皆さんは、こどもが将来てんかんになるのでは?と心配されることが多いと思います。たしかにこれまでの研究で、熱性けいれんをおこしたこどもさんが後に「てんかん」つまり2回以上熱がない、特に誘因がないのにけいれんをおこす確率(発症率)は2.5%~7.5%といわれており、これは一般の人口におけるてんかん発症率0.5%~1%よりも高いです。しかしこれを逆に見れば、熱性けいれんをおこしたことのあるこどもの90%以上はてんかんを発症することはない、ともいえます
90%以上ない、とはいえ、それでも熱性けいれんをおこしたことがないこどもよりも多いのは確かです。のちのてんかん発症にかかわる要注意因子は何でしょうか。これまでの研究により、以下の5因子に関連があることがわかっています
①発達や神経学的異常がある
②てんかんの家族歴(両親・同胞)
③複雑型熱性けいれんのパターンだった(焦点発作、15分以上の持続、1日以内に複数回繰り返す)
④熱が出てわずか1時間以内に熱性けいれんがおきた
⑤3歳以降も熱性けいれんをおこす
上の①~③に関して、いずれもない場合のてんかん発症が1%、1つ当てはまる場合は2%、2つ以上当てはまる場合は10%のてんかん発症率です。そして④熱が出てすぐにけいれんをおこしは場合のてんかん発症の相対危険度は2倍、⑤の3歳以降に熱性けいれんをおこした場合のてんかん発症相対危険度が3倍以上であることもわかっております
以上の5要素は、1回目の熱性けいれんが起きた後にてんかん発症を心配する保護者の方に説明するものです。当然、熱性けいれんを3回、もしくは4回以上、頻回におこすこどもさんの保護者の方は、のちのてんかんの発症をより心配されておられます。皆様方のご懸念通り、当然てんかん発症の可能性が高まる報告が散見されます
ただし誤解してもらいたくないのですが、「熱性けいれんを何回も繰り返すこと」がてんかん発症をもたらすわけではない、ということです。少なくとも一部はもともとてんかんを起こす気質の人が、たまたま熱が出た時にけいれんを繰りかえしているであろうし、決して頻回熱性けいれんの結果としててんかんに「進展・移行」するわけではないことは十分に説明して納得していただく必要があります。逆に言うと、ダイアップ座薬などでの熱性けいれんの再発予防が、のちのてんかん発症を予防するものではないこともいわねばなりません
脳波検査はてんかん発症や熱性けいれん再発の予測に有用か
これも熱性けいれんをおこしててんかんではないかと心配している保護者からよく聞かれます。無理もありません。ガイドライン2023によれば、1964年にFrantzenらが脳波でてんかん波があってもなくても、その後の熱性けいれん予測やてんかん発症に何ら関係なし、と報告して以来、脳波の有用性に関係する報告は少なかったが、近年、やっぱり脳波検査はてんかん発症の予測に有効であるという報告がぽつぽつ出てきたようです
それら有用性を謳った報告をまとめると、複雑型熱性けいれんではてんかん放電がみられやすいこと、てんかん放電検出を目的とする脳波検査は7日以降に行うべきで、特に将来てんかん発症予測を目的とする場合は、10日以降に行うと特異性が上がると書かれています。一方、熱性けいれん児でてんかん放電を認めた場合でも、のちにてんかんと診断されたケースはおおむね数パーセントから30%程度で、たとえてんかん放電がみられてもてんかんを発症しないケースが多くみられると想定されると書かれています。熱性けいれんの再発に関してはてんかん放電と熱性けいれんが関連したと報告されたものと関連していなかったと報告されたものが混在してまだ議論の余地がありそうです。以上から、ガイドライン2023は、単純型の熱性けいれんをおこしたこどもに対しては脳波検査をルーチンに行う必要はないとしています
最後に:ヒブワクチン・肺炎球菌ワクチンの普及が乳幼児の小児科医療を大きく変えた
最後にまた昔話を。私が研修を始めた30年前、平成初期のころは、乳児の定期予防接種に今では普通に行われている「ヒブワクチン」や「肺炎球菌ワクチン」がまだ導入されていませんでした。当然、私が研修してきた聖マリア病院や市立八幡病院、藤本小児病院クラスの大規模な夜間救急センターを併設している施設には、時期になると月に数名程度の菌血症児や細菌性髄膜炎児がふつうに入院しておりました。我々2~3年目の若造研修医たちも、猫の手も借りたくなる夜間や休日の時間外だけは、立派に猫の手として奮闘していました。「夜間救外では肺炎とかどうでもいいが、菌血症や髄膜炎、虫垂炎だけは絶対見逃すな」と指導医たちから耳に胼胝ができるほど言われていた時代でした
しかしやはり研修中の身。熱だけで「夏風邪です」、嘔吐だけで「胃腸炎です」と説明して返したあかちゃんが、翌朝痙攣重積で救急搬送。髄液検査で腰椎穿刺液のでてくるのがやけに時間がかかり、やがてどろっとした米のとぎ汁のような悲しい残念無念の色の髄液が・・・以後何年も指導医からいじられ、落ち込み、自信を失い、次の救外当直が怖くてたまらないという経験を、たぶん40歳以上の小児科医ならだれでもしています。だからけいれんが搬送されてきたら、点滴や採血は当然のこと、腰椎穿刺による髄液検査をどうするか、毎回なやんだものです。そのような過酷な状況のなか実臨床させていただき鍛えていただいたので、今小さいながらも町医者として独立でき食べていける程度にはさせていただきました。逃げ出したくなるほどつらかったです。実際私はあまりのつらさが我慢できず5年の初期研修を終え認定医を取った後10年間基礎医学に進みました。その基礎医学も実力不足で打ちのめされ、結局また臨床に逃げてきたのです。いずれにしろあの頃、私がみて見逃して重症化させ後遺症を残してしまった方々、鍛えていただいた指導医の先生方のことはいまだに忘れられません
話を戻しますと、乳児の定期予防接種に関しては、今世紀初頭までは北朝鮮やモンゴル、アフガニスタン、アフリカ同様後進国だった日本にも、ようやく2008年から待望の「ヒブワクチン・肺炎球菌ワクチン」が導入されました。このワクチンの威力はとてつもないもので、以後、大分でも菌血症は肺炎球菌で年に数名程度、ヒブの菌血症は皆無、生後6か月以上の細菌性髄膜炎に関しては数年に1人程度までに減りました。私自身、医院開業して6年になり1万人以上の患者登録がありましたが、細菌性髄膜炎はこれまでのところ開業初年の1名のみです。今巷で「全然効かんね」と噂されているコ〇〇ワクチンやフル〇〇チンの残念さとはまるで違います。ワクチンとは本来、麻疹風疹、水痘ワクチンとかヒブ・肺炎球菌ワクチンのように、導入後はコペルニクス的変換をもたらすものですけどね。それってあなたの感想ですよね、といわれそうなので、感慨にふけって個人的感想をたれるのはこのくらいにしておきましょう