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シックキッズニュース 6月号 No73 乳幼児の長引く咳嗽、喘鳴

シックキッズニュース 6月号 No73 乳幼児の長引く咳嗽、喘鳴

5月8日にコロナも5類になりました。危惧されたゴールデンウィークの「気のゆるみ」からの感染拡大も今のところそこまで案じるまではないようで、なにはともわれよかったです

さて、花粉や黄砂による鼻水による来院者の数は減りましたが、5月に入り、急に朝晩のしつこい咳で来院される小さなおこさんが増えてきました。それに伴い肺炎や細気管支炎を併発するおこさんも増え、コロナやインフルが多かったときはほとんどなかった入院依頼も増え、最近では1日に数名程度二次病院に入院を依頼している有様です。コロナやインフルなんかと違い、あかちゃんのゼコゼコとかマスコミとか全然取り上げていただけませんが、乳幼児の世界だけなら、コロナ第9波に見舞われていたほうがましだったのではないか、と思えるほど状況はひっ迫しているのです(煽りではなく本当です)

これまでこのシックキュースでは、うけ狙いでコロナやRS、といった、病原体にフォーカスを当てて解説することが多すぎました。しかし実臨床では鼻ぐりぐりして病原体をほじくり出すことより、そのこどもが患っている症状の重篤感を評価して適切に対応してあげることのほうが重要です。今月は原点に立ち返り、乳幼児の喘鳴、という「症状」にフォーカスを当てることにしました

今月のフォーカス 乳幼児の長引く咳嗽、喘鳴

  • 初夏は毎年ゼコゼコ・ズビズビ児が多くなります
  • 乳幼児の喘鳴をひき起す風邪ウイルス
  • 喘鳴がひどくなる子とそうでない子がいる
  • 長引くゼコゼコ、ケンケン、ズビズビへの対応

1.初夏は毎年ゼコゼコ・ズビズビ児が多くなります

コロナ騒動前は、夏が近づくころになると、夜寝るころになると、苦しそうにせき込み、眠れない、朝方もひどくせき込んで…と夜間救急に駆け込まなければならないほどの咳に苦しむお子さんが増えて、夜間の小児救急を支えてくれている若い小児科医の先生方は大変忙しい時期でした。どうしてこの初夏の時期になるといつもゼコゼコ・ズビズビ児が増えてくるのでしょうか。大きく2つの要因があります。一つは季節的要因、もう一つは集団保育開始に伴うかぜウイルスへの初めての曝露です

まずは季節的要因。日中は熱いくらいに気温が上がるが、夜や朝方は寒いくらいに冷える。冷えてきた朝方にコンコン・ゼイゼイ発作がやってきます。また周期的に天気が変わる、移動性高気圧という言葉がありますが、ゼコゼコ・ズビズビ児にとっては移動性低気圧、と言い直したほうがいいくらい、天気が悪くなりだすと決まって咳がひどくなります

そして、これが一番大事ですが、小さなおこさんの入園の時期と関連します。この時期にゼコゼコケンケンの一番大きな理由が風邪ウイルスを生まれて初めて暴露してしまう時期。つまり、4月の入園式から初めて集団保育をうける新入園児が、さっそく風邪ウイルスの集団曝露の洗礼を始めて受ける、ということです

2.乳幼児の喘鳴をひき起す風邪ウイルス

乳幼児のしつこい咳やゼコゼコは、多くはある種のウイルスによる感染症が原因といわれています。とくにいまの初夏の時期に毎年流行するウイルスである、ライノウイルスやエンテロウイルスの一部は鼻汁や咳嗽、とくに喘息発作の時のような喘鳴を引き起こす、といわれています。2年前の4月に「ライノウイルス」についてこのニュースでも取り上げていますので、そちらもご参照ください。コロナ騒動が明けた今年の初夏は、久しぶりにゼコゼコするお子さんが戻ってきた印象です。むしろリバウンドして増えたかもと考えています。これまでのさばっていた新型コロナウイルスがいなくなれば、さあ、これからは自分の出番だ、と待ち構えていた風邪ウイルスが勃興してきた、というわけです

ライノ・エンテロウイルスの他にひどい咳や喘鳴、鼻汁を起こすものとして、こどもにとっては横綱・大関級のRSウイルスヒトメタニューモウイルスパラインフルエンザウイルスが有名です。このニュースでも何度か取り上げていますので、ご参照ください

RSウイルスは、以前は冬にはやる、と相場は決まっていました。しかしコロナが始まる直前の2017年くらいからなぜか夏にも流行するようになりました。それ以前は、初夏の時期に小さなおこさんが高熱でゼコゼコならばヒトメタ、ゴホゴホ・ケンケンとクループならばパラインフルエンザ、と相場は決まっていましたが、5,6年前からはRSもこの時期に参入してきて、まったく油断も隙もない感じです。実際、当院のような小さな町の診療所でも、先月だけでも早期乳児2人、RSウイルス感染症による呼吸不全人工換気目的で紹介入院となっております。コロナが流行っていたころはなかった現象です

3.喘鳴がひどくなる子とそうでない子がいる

保育園で熱や咳鼻の流行があるけど、なぜか我が子だけはいつも悪くなるのか、と悩まれている保護者の方も多いのではないでしょうか。確かに同じウイルスによる集団感染が起きても、咳の症状がそこまでひどくないお子さんもいます。つまり、同じウイルス感染症がおきても、感染してしまったお子さんの状態(素因)で症状のひどさが変わってしまうということです

素因で有名かつ重要なのは、アトピー体質です。つまり、荒れた皮膚や湿疹を通して、環境中の埃、主にダニの死骸やフンに皮膚感作されているあかちゃんは、知らないまに埃に過敏に反応するからだになってしまっています。そうすると肺に取り込む空気中の埃により、空気の通り道である気道に慢性的な炎症を起こしてしまっていることが多いです

普段は、慢性的な炎症が気道に存在していても、空気の通り道は十分確保しているのでゼコゼコ言いませんが、気道のウイルス感染や気候、運動やおお笑いなどの刺激で、過敏な気道はむくみ、痰が大量に産生されたり気道の攣縮が起きやすくなります。一方、皮膚が丈夫できれいなあかちゃんの場合、環境中の埃に含まれるダニの死骸やフンにさらされても、皮膚のバリア機能が十分であり、皮膚を通してダニに対してアレルギーになる皮膚感作が起きません。そのため大気中に含まれる埃に気道がさらされても慢性炎症が起きにくく、また気道の面幕が正常な場合、ウイルス感染に伴う気道炎症も限定的ですので、そういうお子さんは、風邪をひいてもあまりゼコゼコ言ったり咳が長引いたりしない、というわけです

他に大事な素因としては、ウイルス感染に対する免疫力の違いです。例えばライノウイルスには100種類以上のタイプ(血清型)があるので、ヒトは乳児期から何度も繰り返し感染しています。感染するたびに免疫が強化されて体が血清型を超えてライノウイルスに対応できるようになり、そのうちに感染しても免疫によりつよい炎症を起こすことなくウイルスがすぐに排除され、したがって症状が出なくなります。年齢を重ねてこどものころに何度もウイルス感染を繰り返しながら年齢を重ねてきた保護者やおじいさんおばあさんには、感染症のお子さんの面倒をみてもいわゆる「うつらない」というわけです。保育所などでの乳児へのマスク強要やアルコールによる荒れた手への手指消毒のようなヒステリックな感染対策にあまり意味がないような感じがするのは、このへんからくるのでしょうか

4.長引くゼコゼコ、ケンケン、ズビズビへの対応

① 一次予防

原因の排除やリスクの軽減を生まれてからすぐに行うことが重要です。具体的には、あかちゃんの皮膚の手入れをしっかり行うことが意外に将来に効いてくると考えます。乾燥肌や汗かぶれ、オムツがおきやすいなど、いわゆる肌が弱いといわれているお子さんは、保湿剤によるお肌の保湿を行い十分手入れをしておきましょう。このことで体質的に服のバリア機能低下を補い、湿疹やかぶれを予防し、ひいては埃に含まれるダニや食べ物などへの感作を防止することになります。できた湿疹やかぶれを放置すると、埃に含まれる環境成分(ダニや昆虫の死骸、ペットの毛や唾液成分、食べ物のかすなど)の皮膚感作を進行させてしまいます。必ずステロイド軟膏や、最近有難いことに生後6か月から使用できるようになった新しい抗炎症剤をふくむ軟膏(コレクチム軟膏)で湿疹・かぶれは直ちに治療しておきます

保湿剤には大きく2種類あり、皮膚の水分を引き寄せておくモスチャー効果のある「ヒューメクタント」と、水分の蒸発を防ぐエモリエント効果のある「エモリエント剤」があります。同じ製剤でも皮膚の状態や汗をかきやすい、あるいは乾燥しやすい季節的要因、あるいは利便性よって、ローション、クリーム、ソフト軟膏など剤形を変えて使用したほうがいいケースもあります。処方医と相談の上処方してもらうといいと思います

共働きがスタンダードになった状況では、乳幼児期での集団保育は必要悪、というか必要不可欠となりました。どうしても体力のない乳児期から集団保育が行われることも今では一般的になりつつあります。生後半年を過ぎれば母親からいただいた免疫は失活しますので、今度は自らウイルスに感染して、炎症を経由して免疫を作ることになります。乳幼児の早期の集団保育が必要悪であれば、この乳幼児期に繰り返すウイルス感染症も考えようによれば必要悪。感染してしまったら重症化をさせないように注意深く対処さえしていけば、感染を繰り返すたびにより強固な免疫を獲得してゆくことになるといい方に考えるべきでしょう

② 対症療養と注意深い経過観察

とはいえ、ウイルスに対する免疫がない状態でのいわゆる初感染では、高熱、ひどい鼻汁咳嗽など気道炎症症状は必発です。溶連菌などの細菌感染症と異なり、ウイルス感染症にはインフルエンザや水ぼうそう、ヘルペスなど一部を除き、抗ウイルス剤はありません。そこで、対症療法が大事になります

横になると鼻水が後ろに垂れてせき込む、「後鼻漏」の例を挙げるまでもなく、咳止めが一向に効かず困っているおこさん、その長く続く咳の原因は鼻水だった、という例もしばしば見受けられます。そのため遷延する咳嗽には、咳を止める以前に垂れてくる鼻汁の処置は大変重要。小児科医よりも鼻の先生である耳鼻科医のほうが咳を止めるのが上手みたい、ということで、この時期は小児科よりも耳鼻科のほうが忙しく、鼻処置してもらうついでに多種多様な抗生剤をお土産にもらってくる、といういかにも日本チックなお話も小耳にはさみます

かぜでも耳鼻科医に小児科医はぼろ負け、とか抗生剤のお土産の話はさておき、当院でも鼻の処置に関しては耳鼻科に遠く及ばずながら重要視しています。実際、ヨーロッパの研究では、鼻吸引をまめにすることで、発熱期間やカタル症状出現期間などを有意に短くした、という報告や、鼻洗浄に加え鼻吸引したほうが中耳炎併発を有意に減らせた、とする報告があります。そこで当院では、受診時の吸入療法やまめな鼻吸引などの処置で、できるだけ気道分泌物を取り除いてあげます。ご自宅でも、鼻汁が目立ったときにまめに鼻汁吸引することはもちろん、例えば入浴後や睡眠、起床時、園から帰宅後の定期的な鼻吸引も効果的だと考えます。高熱を伴うときは、もちろん安静のうえ十分な水分補給や栄養補給、咳止めや去痰剤、鼻汁を抑える抗ヒスタミン剤など対処療法で体力喪失を防ぐことが重要です

風邪の対処療法には本当は漢方薬がとても合うと考えています。効かんといっているのにいついっても同じようなものしかもらえない西洋薬。ルルやらベンザブロックなんかでものどに効くとか鼻に効くとか3種類くらいあるって宣伝でやっているやろ、と突っ込み入れたくなる保護者のお気持ちもわかりますが、風邪薬に関しては子供に使用できる西洋薬は貧弱です。漢方薬ならば咳ひとつとっても多種多様種類があり、症状や病状に応じていくらでも用意されていますし、ぴたり、とあえば驚くほど効果もあり、副作用の心配もほとんどないので、飲めるおこさんには病状に合わせて本当は漢方薬も処方したいところです。残念ながら種類が多いゆえに選択がむずかしく、特に小児科医で漢方とか出せる医者は皆無に近いこと、苦いという強く偏見のためか強い拒否反応を示される保護者の方が大多数です。ただでさえ看病でストレスがたまっているのに、その上むづがるおこさんに投薬することは大変なことを理解している者として、いらないというのを無理に説得してまで出そうとは思いません。ただ、乳児であれば意外と偏見なく口にすることもあるので、漢方薬を湯で溶き、その上澄みを麦茶やウーロン茶に溶かし込んで1日かけて飲む(のめれば)、とか、頬と歯茎の粘膜に漢方薬を適量指で練って刷り込む、とか、幼児以上ならばミロやココアにまぜてお茶代わりにのむ、という気楽な飲み方もできます。もし、いつももらうかぜ薬が全然効かず、ダメもとで漢方ためしてみようかな、と興味がある方がいらっしゃれば、ご相談していただけますとこちらもうれしいです

③ 横綱級の強力なウイルスによる細気管支炎への対応

RSウイルス、ヒトメタニューモウイルスなど横綱大関級のウイルスでは症状が強いので、経口低下、努力呼吸や頻呼吸で体力がおち、しばしば細菌の二次感染、つまり中耳炎、副鼻腔炎、肺炎、そしてヒブワクチンや肺炎球菌ワクチンのなかった2008年以前だったら菌血症、敗血症、細菌性髄膜炎の懸念もあります。医師に注意深く経過を診てもらい、2次感染が起きていないか、疑えば採血検査などで炎症の強さを評価し、強ければ肺炎になっていないかレントゲンなど画像検査が必要になることもあります。最低でも解熱して食欲が回復して体力がもどるまではきちんとフォローしてもらうことが必要です

特に1歳未満の乳児、とりわけ3か月未満の早期乳児や新生児では、無呼吸発作をおこしますので容易に呼吸不全をきたすことが知られています。咳がひどい兄弟や保護者がいる場合はますます要注意。実際先月、即病院送りになり人工換気が必要になった2人のあかちゃんは「咳がひどいから」と受診していたにもかかわらず「熱が出たらまた来て」とかいわれたとのことです。たまたま上の兄弟の咳がひどく、その兄弟受診のついでにみて、と言われて診察したら呼吸状態が悪く、1名はRS迅速検査陽性(他1名も当院の迅速診断は陰性でしたが搬送先のPCRスクリーニングでRS陽性が判明)、あわてて即紹介になりました。コロナでSNSなんかで指摘されていた「儲け目的の煽り」はよくありませんが、熱とかなくてもあかちゃんのRSウイルス感染症は大変で、小児科医の多くはRS流行を聞くたびに恐れおののいている有様です。多くの小児科医が、心音や呼吸の状態を聴診器で必ず確認するのはダテでやっているのではないのは、こういうことがあるからです

また、初診時に伺う家族歴や既往歴、そして急性期の症状の強さで、肺炎や呼吸不全を併発したり、症状が遷延する恐れが十分考慮される場合には、やむを得ず1-2日間の経口のステロイド剤を処方せざるを得ないケースもあります。しかし、そもそも気管支喘息と異なり、細気管支炎でのステロイドの有効性を示すエビデンスは実は乏しく、一定の結論は得られていません。例えばデキサメサゾン単回投与では4時間後の呼吸状態や入院率に改善は見られなかった、とするアメリカの他施設無作為化対照化試験がある一方、カナダのアルバータ大学で行われた気管支拡張薬とステロイドの単剤投与または併用の有効性と安全性を比較する系統的レビューとメタ分析では、アドレナリン単回投与で救急外来受診から1日目の入院を有意に減らす効果が認められ、7日目の入院を減らるためには、アドレナリンとステロイドの併用が望ましいようでした

気管支喘息の主軸の吸入ステロイド療法と異なり、経口や注射によるステロイドの全身投与には思わぬ落とし穴があり、入院の上など注意深い観察が必要で、当院のような町の診療所で安易に処方するのは、本来は「禁じ手」です。当然症例は限られます

③ 慢性化への対応

この時期の乳幼児期の咳が、喘鳴を伴ったり長期間遷延するケースもかなりみられます。今の時期の咳や鼻汁の原因の多くはライノウイルス感染症ですが、ライノウイルスには喘息発作を誘発したり増悪させたりすることはよく知られています。またRSウイルス感染症の後、一見症状が改善したように見えても、その実、感染により障害を受けた気道(とくに先にある細い気管支:細気管支)の炎症は消えておらず、以後風邪をひくたびにぜこぜこするようになることも知られています。RSウイルス感染症後の反復性喘鳴は、小児喘息のメインの「ダニ感作後のアトピー型の喘息」とは異なるもので、「非アトピー型の反復性喘鳴」といわれています。乳幼児期にはすぐにぜこぜこしていても、就学後は喘息発作が起こらなくなった場合、大方RSウイルスなどによる気管支炎後の反復性喘鳴だったケースが大多数といわれています

どちらにしろウイルス性の気管支炎・細気管支炎の後、密かに慢性的に気道の炎症が残存することがしばしばみられます。この場合、いつもの咳止め鼻水止めでは全然改善しません。ではどうするか。咳嗽や鼻汁が遷延する場合は、気管支喘息児に使用する長期管理薬、具体的にはシングレアやキプレス、オノンの「ロイコトリエン受容体拮抗剤」や、「吸入ステロイド療法」を積極的に導入し、数カ月の単位で慢性の気道炎症をゆっくり直していきます

診療内容:小児科・アレルギー科・予防接種・乳児健診
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