いつの間にか初夏の訪れを迎え、いよいよゴールデンウイーク。コロナ患者数は高止まりしていますが、すでに5割超の国民はワクチン3回接種を終わらせたし、コロナの正体もだいたい見えてきたし、今年こそ懐かしい故郷や行楽地に出かけられる方も多いのではないでしょうか。さて、今年は2年に1度行われる診療報酬改定の年でした。今回はいつもにまして当院にかかわりの多い改訂が行われました。就学児以上の窓口負担がある方には、インフレで出費多端の折、心苦しいのですが、少なくとも9月までは(10月には大分市も中学生以下の外来窓口負担が500円上限になる見込みです)幾分かのご負担をお願いすることになりますので、簡単にご説明いたします。
今月のフォーカス 2022年度診療報酬改定から、当院に係るものについて
1.「アレルギー性鼻炎免疫療法治療管理料」が新設されました
2.「小児食物アレルギー負荷検査」の加算対象年齢と回数が改善されました
3.「外来感染向上加算」が診療所・クリニックでも算定できるようになりました
4.「電子的保健医療情報活用加算」の新設
5.最後に
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1.「アレルギー性鼻炎免疫療法治療管理料」が新設されました
アレルギー性鼻炎免疫療法とは、ダニやスギ花粉のアレルギーによる鼻炎の患者さんに、ダニ抗原やスギ花粉抗原が含まれる注射液や舌下錠を数年間(おおむね3~5年)にわたり定期的に投与する治療法です。一般的には舌下免疫療法、皮下免疫療法といわれているものです。シックキッズニュースでも取り上げてまいりました(No24シダキュアア舌下錠など)。
舌下錠に関しては、舌下錠処方有資格医の下でしか処方できません。当院はスギ・ダニの舌下免疫療法も皮下免疫療法も行っています。3月まではアレルゲン免疫療法を行っても診療報酬的にはなんのメリットはありませんでした。この不遇な状況が4月から改善されました。この4月からは「アレルギー性鼻炎免疫療法治療管理料」として、これからアレルゲン免疫療法を始めるいわゆる初診の患者さんには280点、そして2か月目以降は25点の加算ができるようになりました。就学児のお子さんは月100円弱のご負担をお願いすることになりましたので、ご了承ください。
2「小児食物アレルギー負荷検査」の加算対象年齢と回数が改善されました
小児食物アレルギー負荷検査とは、いわゆる経口食物負荷検査のことです。疑わしいアレルギー食品を摂取させて、アレルギー症状が出現するのか確かめる検査です。採血検査や皮膚テストと違い、その食品が本当にアレルギーを起こすのか確実に診断できるのはもちろん、アレルギー症状が出現するのであれば、そのくらいの摂取量でどれくらいの症状がでるのかを確認できます。本来ならば症状は出ないに越したことはないのですが、アレルギー症状がでたとしても、どのような対応をすれば症状を抑えるのか、実際に、そして具体的に保護者が経験することで、アレルギー出現時の対応法を学べる貴重な機会となります。また食物アレルギーは消化管や免疫機能の向上とともにいつの間にか自然治癒することも知られています。自然治癒したか確認するためにも食物アレルギー負荷検査は不可欠です。食物アレルギー診療については、その変遷の歴史とともに過去のシックキッズニュース(No33食物アレルギー診療の変遷)、No48食物アレルギー診療を変えた疫学調査や臨床研究)でも解説しておりますのでご参照ください。
これまでも一定の施設基準を満たした医院や病院で「小児食物アレルギー負荷検査」が1回につき1,000点算定できましたが、3月までは9歳未満の児に年に2回までしか算定できませんでした。これが4月から16歳未満、年3回までできるようになりました。食物アレルギーの場合、アレルギー疑似食品が多品目にわたることもあるし、当然9歳を超えても食物アレルギーが自然治癒しないお子さんも多数います。年2回までで9歳未満とか制限されると、病院によってはそれ以上検査できないと言い出すところも出てくるのも仕方ないところではあります。今後はこのような状況がすこし改善されてくるのではないでしょうか。
3.「外来感染向上加算」が診療所・クリニックでも算定できるようになりました
コロナ流行で医院の感染症対策が注目されてきました。例えば、発熱などの感染徴候のある患者さんのゾーニング、空気清浄器を各部屋に設置する、受付などへのアクリル板の設置、非接触検温器を備える、品薄のマスクや消毒液の準備など、この3年はどこも手間と準備、それに経費増に苦しんでいました。それどころか、最近ではさすがに減りましたが、発熱などの感染徴候のある患者は診ません、などと開き直る診療所も出てくる始末でした。
そこで診療所の感染対策を評価するために、ある一定の感染対策の基準をクリアした施設、例えば、「感染防止対策部門」を設置して、それぞれの事情に合わせた標準予防策、洗浄・消毒・抗菌薬適正使用などを盛り込んだ手順書を作成し、少なくとも2回程度定期に院内感染対策研修を行うなど、一定の施設基準を満たせば、当院のような診療所も「外来感染向上加算」を6点算定してもよい、ということになりました。併せて二次病院(大分市の場合、アルメイダ病院)と連携して、定期的な報告と指導を受ければ「連携強化加算」3点を診療所でも患者さん全員に加算できるとされました。当院はすべての施設基準を満たすので2つの加算併せて9点となります。ちなみに当院での感染症対策については、過去のシックキッズニュース(No42インフルエンザと新型コロナを念頭に置いた当院の発熱児の対応)に記載しておりますのでご一読ください。。
一方、これまですべての6歳未満児の診療の際に加算されていた「乳幼児外来感染予防策加算」は、昨年10月に100点から50点に減点されていましたが、今年4月の改定で正式になくなりました。6歳未満児は多くの市町村で「子ども医療費助成事業」で窓口負担がない年齢層ですので、こんな加算があったことをご存じでなかった方も多かったと思います。6歳未満児の診療に係ることの多い我々小児科医や耳鼻科医にとって、特に患者さんが激減した一昨年には大変助かっていました。今回この加算がなくなったので、6歳未満児に新設された「外来感染向上加算」を9点算定しても残念ながら実質的には41点のマイナスとなります。
4.「電子的保健医療情報活用加算」の新設
これって何のことか自分にもよくわかりませんでした。調べてみると、オンラインで患者さんの保険や薬剤などの確認を行った場合に算定する、ということです。月1回の保険証確認の代りに、マイナンバーカードのICチップを特殊な読み取り機で患者の保険資格、薬剤情報などを確認した場合、「電子的保健医療情報活用加算」を初診の場合7点、再診の場合4点を加算できるものです。
マイナンバーやオンライン資格確認が普及するまでは、おそらくマイナンバーカードを持参する方はほとんどいないと思われます。特にお子さんに、顔写真が必要な面倒で特に特典もないマイナンバーカードのようなものを作っている方はほとんどいないと思います。それではオンライン資格確認が普及しないので、国はマイナンバーを活用しなくても、オンライン資格確認システムを導入している医療機関であれば、現時点では2024年3月末までは時限措置として月1回3点を加算を認めてくれるそうです。
当院は、顔認証付きカードリーダーが5月末にようやく国から送付予定ですので、オンライン資格確認ができるようにセットアップ後に加算することになるかもしれませんので、先にお知らせしておきます。
5.最後に
今月は、2年に一度行われる診療改定で、特に当院に関係のあることについて説明しました。当院は小児科医院ですので、こどもの病気全般的にみていますが、会員以来特にアレルギー診療に力を入れて行っています。アレルギー診療は詳しい問診をはじめ、たいへんな手間暇がかかり、いろいろと経費も掛かります。もちろん専門的な知識や診療手技も必要で、この技能を取得するのに、これまで多大な時間とお金をかけています。
しかしこれまでは、そのことに対して診療報酬で評価されることはありませんでした。むしろアレルギーは慢性疾患とみなされるので初診料が算定できずマイナスです。そんなこんなで、アレルギー疾患は国民病といわれるほど困っている人が多いにもかかわらず、そしてどこの街に行っても看板はクリニック物で埋め尽くされているほど診療所があふれかえっているにもかかわらず、アレルギー診療をまともにしようという医者がでてこないのもむべなるかなです。当院のようにアレルギーを売りにする医者は変人、もしくはよほど集客に困っているんじゃないか、と思われても仕方ないです。
今度の2年に一度の診療報酬の改定では、感染防止対策をしながらコロナなどの新興感染症診療を行う医院はもちろん、これまで陽が当たることがなかったアレルギー疾患をみる診療所にも幾分かの施しをしていただけることになりました。一方、特に窓口負担が発生する就学児以上の皆様方には、出費多端のなか幾分かのご負担が発生するかと思います。ご理解の上ご承諾いただけますようお願い申し上げます。・・・幸いにも大分市や別府市においても、今年度10月にはこども医療費助成制度が中学生までに引き上げられる動きがあります。アレルギーなど慢性疾患のために定期的な受診と処方が必要な小中学生の方には朗報です。インフレの加速が見込まれる中、子育て世帯の皆様方の負担軽減のためにも是非進めていただきたいと願っています。