3月13日からついにマスクの着脱が個人の判断が基本となりました。といっても、屋外では花粉や黄砂が猛威を振るっているし、店内では同調圧力の眼が痛いし、そもそも病院内や介護施設でのマスク着用の推奨はかわらないし。3年続いたマスクの習慣が一朝夜で変わるとは思えませんが、それでもマスクをなくしてしまって気まずい思いをしながらコンビニにはいっても、叱られることはなさそうです
さて、4月から2つの定期予防接種が大きく変わります。先月は四種混合ワクチンが生後2か月から接種可能になるのは、このニュースでも先月取り上げお知らせしたところです。今回は、もう一つ目玉があり、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の一つ、「シルガード9」が定期接種で使用可能になります。待望のシルガード9の定期・キャッチアップ接種ですが、接種方法が少し異なり、また既存のワクチンを済ませた人たちに関しては注意点もありますので、今回の変更点についてフォーカスします
今月のフォーカス 今月から「シルガード9」がHPVワクチンの定期接種とキャッチアップ接種で使用可能になります
1.シルガード9とは
2.4月からの主な変更点
3.シルガード9が定期接種使用可能になった経緯
4.当院のHPVワクチンの方針
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1.シルガード9とは
若い女性で問題になっている子宮頸がん。その原因はほぼヒトパピローマウイルス(HPV)であることが知られています。このヒトパピローマーウイルス(HPV)ですが、もともと「いぼ」の原因として分離されたのですが、子宮頸がんはもちろん、外陰部がん、膣がん、肛⾨がん、中咽頭がん、尖圭コンジローマなど、さまざまな病気の原因であることが知られてきました日本産婦人科学会の「子宮頸がんとHPVワクチンに関する最新の知識と正しい理解のために」の、質問5)日本における子宮頸がんの原因となっている HPVの種類は? の答えとして「日本においては子宮頸がん全体のほぼ 100%(ごく一部の稀なタイプを除き)に高リスク型 HPV が検出され、型別では 16 型と 18 型が多く、2つを合わせると 65%(他の型との混合感染を含めると 67%)を占めます」とあります
子宮頸がんの原因のHPVは16型と18型の2つで3分の2を占めるので、2価ワクチンのサーバリックスや4価ワクチンのガーダシルで16型と18型のHPVの感染を防ぐことでかなりの子宮頸がんを予防することはできます。ちなみに当院で採用されているガーダシルは、16型、18型のほかに、尖圭コンジローマの原因の6型、11型のHPVの感染を防ぐ4価ワクチンで、任意接種ではありますが、男性にも使用可能です。一方、子宮頸がんの原因となるHPVの残りの3分の1は16型、18型以外です。知られているのは31型、33型、45型、52型、58型です。これに多くを占める6型、11型のHPVを加えると、この7つの型で子宮頸がんの90%を占めるといわれています
「シルガード9」は、これら子宮頸がんなどを引き起こす7つの型のHPVに加え、ガーダシル同様、尖圭コンジローマを引き起こす6型と11型のHPVの感染も予防するワクチンです。 今回の9価ワクチンは、世界ではすでに2020年7月の段階で「ガーダシル9」として80か国以上が承認され、2020年3月の時点で米国、カナダ、オーストラリアなど35か国以上が定期接種として組み込まれています。そして遅ればせながら日本も2021年2月24日から任意接種で使用可能となりました。そしてついに今回2023年4月から定期接種とキャッチアップ接種での使用が認可されました

なお子宮頸がんとHPVワクチンについてもっと深く理解されたい方は、日本産婦人科学会「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」などを一読していただくことをお勧めいたします。また、厚労省のリーフレットなどもわかりやすくて参考になると思います
2.4月からの主な変更点
①シルガード9もHPVワクチンとして定期接種とキャッチアップ接種にしようできるようになります。キャッチアップ接種とは、「積極的勧奨差し控え」の時期だった2013年から2021年に接種年齢になっていたためにHPVワクチンを受けられなかった世代で、具体的には平成9年度(1997年4月2日)から平成16年度(2005年4月1日まで)にうまれた女性に対して、無料でHPVワクチンを接種するものです
※キャッチアップ接種は2025年3月いっぱいまでの措置で、ご自分が対象なのか、いつまで対象か、は我々医療機関では個別に判断するのが大変複雑ですので、ご自分で厚労省のリーフレットや厚労省のホームページ、大分市のホームページ 、あるいは大分市福祉保健部保健予防課☎(097)535-7710などでご確認のうえ、接種されるようにお願いいたします
②シルガード9を定期接種として使用する場合、1回目の開始が15歳未満であれば、2回接種で完了となります。間隔は少なくとも5か月以上の間隔をあけ、通常は6か月後に接種します
③シルガード9を15歳以上から始めた高校1年生までの定期接種と、キャッチアップ接種の場合は、これまで通り3回接種となります。用量・用法はガーダシルと同様です
④1回目や2回目を2価(サーバリックス)、1回目や2回目を4価(ガーダシル)で接種した場合、残りの接種は、同じ種類のワクチン接種で完了することを原則とします(WHOポジションペーパーp20参照)
⑤ただし、残りのワクチン接種をする際に、やむを得ない理由(院内に在庫がない、過去にどちらのワクチンを接種したかわからないなど)があれば、十分な説明をして非接種者に納得していただければ、シルガード9を接種しても差し支えないとしています(交互接種といいます)
3.シルガード9が定期接種使用可能になった経緯
詳細は、厚労省のHPをご参照ください。またこのシックキッズニュースでも、子宮頸がんワクチンとして、定期接種だけど接種希望者がいなくなった経緯(2020年6月No37号)や、2020年7月に「シルガード9」の製造販売が承認されたこと(2020年12月No43号)を取り上げましたので、長いですがそちらもこの際見ていただけますと幸いです。
2020年7月にガーダシル9が「シルガード9」と名称を変更して製造販売が承認されました。同年8月の厚労省の委員会で、シルガード9を定期接種化のための議論のたたき台として、シルガード9の「ファクトシート」作成を国立感染症研究所に作成してもらうことを決めました。2021年1月末に同研究所から「国立感染症研究所より、「9価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン ファクトシート」が厚労省の委員会に提出されました。2021年4月、厚労省の委員会で、シルガード9の定期接種化のための論点を6個に絞ることを決め、ファクトシートをもとに議論することにしました
2022年3月、同委員会で前年度にでてきた各論点について検討し、ここでシルガード9の定期接種化を念頭に今後議論することを決めました。同年8月の委員会で、定期接種化した場合に出てくるであろう論点3点、つまり接種対象者と、接種回数、それに現在3種類のHPVワクチンがあるが、定期接種に用いるワクチンに種類について、次回までの課題としました
同年9月22日、厚労省から「9価HPVワクチンの定期化に係る技術的な課題についての議論のまとめ」を発表し、シルガード9も定期接種に使用可能であること、9価ワクチンであれば接種年齢は9歳程度に引き下げたり、26歳程度に引き上げたりしても、技術的な観点からは特段問題がないことが示されました。使用するワクチンについては、技術的にはシルガード9が望ましいが、製造・在庫状況や、2価や4価ワクチンで接種開始した人もおり、当面が2価や4価のワクチンも使用してはどうかという意見がでました
2022年10月4日と11月8日の同委員会で、①令和5年4月(つまり今月)からシルガード9をHPVワクチンの定期接種開始できるように準備すること、②接種方法や標準的な接種間隔は、4価ワクチン(ガーダシル)と同様にすること、③交互接種について、原則は同じワクチンで終わらせる。しかし在庫がない。過去の接種歴が不明などの理由があれば、説明して納得できれば9価ワクチンを接種しても差し支えない、④キャッチアップ接種も同様に交互接種可能とする、⑤2回接種については、製薬会社が製造販売承認に向けて準備中で、承認されれば、速やかに議論し認める方向にする、ことが決まりました。2023年2月の厚労省委員会で、規定の接種回数を完了している場合、追加接種は定期接種には位置づけないことになりました
2023年2月27日薬事審議会で9価ワクチンの用量・用法追加があり、2回接種で完了する方法の一部変更が承認されました。先月、3月1~3日の予防接種基本方針部会で、2回接種の方法、対象年齢が以下のように決まりました

いた合計2回の接種とすることができる」、と添付文書上はかかれています
4.当院のHPVワクチンの方針
このニュースも、HPVワクチンについて何度か取り上げてきたように、私自身、とても強い関心を持ってHPVワクチン関連の流れについて注視してきました。2020年10月のHPVワクチンの積極的勧奨差し控えの撤回で、自治体からの接種勧奨が再開され、しかもキャッチアップ接種も認められたにもかかわらず、コロナの乱痴気騒ぎのせいもあったのか?HPVワクチンの関心は薄かったようで、接種対象の方も全然接種を受けに来られません。でもコロナ第8波も特段何の対策もしないうちに自然と消え、しかも多くの国民がすでに感染してオミクロンであれば肩透かしの感も否めず、正直いまさら感が強くなり、ワイドショーなんかでも言わなくなり、やっとみんなコロナコロナと言わなくなりました
そしてこのタイミングで、より広範囲のHPVの遺伝子型に効き、おそらく3回打てばほとんどの子宮頸がん原因のHPV型に対応可能であろう念願のシルガード9がようやく定期接種でも使えるようになり、しかも9歳から15歳未満ではたった2回で効果がある。このインパクトはかなりのものだと思います。そもそも「風邪とがん、どちらがこわいか」・・・一世を風靡した感染症の専門家の方以外ならば、どうみたってがんのほうがこわいです。シルガード9が起爆剤となり、今度こそ子宮頸がんやHPVワクチンに注目していただける方が増えてくるものと信じております。まだ接種を始めておられない多くの中・高校生や接種機会を逃された平成9年度(1997年4月2日)から平成16年度(2005年4月1日まで)に生まれた女性の方は定期接種・キャッチアップ接種として無料で受けられますので、WEB予約されてぜひ接種しに来られてください
シルガード9の接種回数ですが、小学6年生から15歳未満の女子がシルガード9で開始した場合は「6か月開けて2回」、15歳以上の定期接種とキャッチアップ接種をシルガードで開始された場合は、ガーダシル同様、1回目と2回目を2か月、2回目と3回目を4カ月開けてシルガード9を3回接種することになります
当院は3月までは4価ワクチンの「ガーダシル」を定期接種で使用していましたが、4月から1回目のHPV定期接種は、「シルガード9」で始めます
すでにガーダシルで開始された方には、WHOポジションペーパーの原則論「前回使用した種類のワクチンで完遂する」に従い、院内在庫がある間は「ガーダシル」で残りの接種を行います。そもそもガーダシルの代わりに1回シルガードを打っても、HPV31/33/45/52/58型に関してはデータがないし、おそらく不十分でしょうから(2回接種ならば話は違います)
しかし、ガーダシルの院内在庫がなくなれば「シルガード9」にて交互接種をすることにしています。交互接種では15歳未満でも合計3回の接種になります。当院在庫が切れた後に「どうしても同じガーダシルで」と希望される方は、卸に発注しますので、希望日の数日前までに電話などで先にご一報ください