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シックキッズニュース 3月号 No58 卵黄で起きる特殊なアレルギー、食物蛋白誘発胃腸炎とは 

シックキッズニュース 3月号 No58 卵黄で起きる特殊なアレルギー、食物蛋白誘発胃腸炎とは 

猛威を振るっているオミクロンがやっとピークアウトしてきた、と思ったらロシア軍によるウクライナ侵攻。しらん間にオリンピックも終わっているし。けどなんとかアンナシェルバコワは間に合ってよかったけど、パラリンピックはどうなってんの、ロシアとその仲間たちはしめだされるんだろうな、でも無茶苦茶にされているウクライナ在住の人々のことを思えばオリンピックなんかで騒いでいる場合じゃないですよね。そういえばピアノストのリヒテルもキエフの西、ウクライナ・ジトーミル生まれだったな。いまに日本も対岸の火事としてみてられなくなるかも。

さて、今月は、たまごのアレルギーの特殊なタイプ、「食物蛋白誘発胃腸炎・FPIES」にフォーカスします。ここ数年で一気にクローズアップされている赤ちゃんのアレルギー疾患です。つい最近までは「消化管アレルギー」と呼ばれることが多かったですが、最近、また名前を変えました。とにかく呼び名がころころ変わってきた病気です。

今月のフォーカス 卵黄で起きる特殊なアレルギー、食物蛋白誘発胃腸炎とは

1.食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES:エフパイス)とは

2.日本でのエフパイスの状況

3.自身がみた人工乳による典型的なエフパイス例

4.本題に入ります。卵黄によるエフパイスについて

5.なぜ卵黄エフパイスが突然注目されてきたのか

6.誤解なきよう、食べられる子は卵黄摂取を絶対やめないで。早期の卵黄摂取がエフパイスの原因とは立証されておりません

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1.食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES:エフパイス)とは

食物蛋白誘発胃腸炎は、以前は「新生児乳児消化管アレルギー」といわれていたものです。主に牛乳由来の人工乳を摂取した赤ちゃんが、その数時間後くらいから嘔吐、あるいは血便の症状を呈し、牛乳由来の人工乳を摂取した後に嘔吐や下痢などの消化器症状をおこし、まれに重症脱水になったり敗血病みたいなひどいケースもあることが知られていました。母乳性血便とかリンパ濾胞増殖症、乳糖不耐症などとかたづけられていた例もあったようです。

最初にミルクを飲んで血便が出て、ミルクを中止したら血便が治る赤ちゃんの症例報告があったのは、厚生労働省難治性疾患研究班、新生児-乳児アレルギー疾患研究会のまとめた診断の手引きをみると1949年といわれています。残念ながらこの論文を見つけることはできませんでしたが、その前年、1948年、ハワイのNANCEという先生が、「便中に好酸球を検出した乳児の消化管アレルギー」という題でこの疾患を発表していたようです。本論文の閲読が有料なので閲覧していませんが、この論文をはじめ、1960年代くらいまでには、一定の割合のあかちゃんが、ミルクでアレルギー性の腸炎を起こすことは知られていたようです。最初にまとまった症例を提示したのは1967年。イェール・ニューヘブン病院のジョイス グリボウスキー先生で、過去16年にわたり21人の牛乳による消化管アレルギーをまとめ、米国小児科学会雑誌「Pediatrics」誌に投稿しました。

その後も五月雨的に世界中から症例報告がありました。そして1970~80年代、アメリカ・テキサスのジェラルディン パウエル(女性学者)達のグループがこの疾患を盛んに解析して、1984年、ミルクを経口負荷した時に血液中に白血球の一種の好中球数が上昇することを発見し、新生児乳児が特定の食品(主に牛乳由来の人工乳)を摂取した後に腸炎をおこす疾患として「食物蛋白蛋白誘発腸炎(Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome: FPIES)=エフパイス」と命名し、1986年、Comprehensive Therapyという雑誌にエフパイスの疾患概念や診断基準などを解説しました。最近まで彼女らが35年前に発見した「ミルクを経口負荷時の血中好中球数が上昇する事象」が長らく診断基準として使用されていたそうです。

2.日本でのエフパイスの状況

日本でも1990年終わりくらいから、牛乳由来人工乳児の腸炎の症例報告が散見されるようになりました。しかし、診断治療法について有力な指針がなく、また多くは大きくなれば自然治癒していたこともあり、各施設がそれぞれに対応していたようです。2006年に私は帰国して天草の田舎の病院に就職しましたが、このころ国内では、エフパイスをめぐり2つの大きな勢力がしのぎを削り調べていました。1つは静岡県立こども病院の木村光明先生のグループ。そしてもう一つは国立成育医療センターの野村伊知郎先生のグループです。静岡のグループは、ミルク特異的リンパ球刺激試験(アレルゲン特異的リンパ球刺激試験ALST:保険未収載)でこの病気を診断する方法を確立しました。一方、成育医療センターのグループは、新生児乳児消化管アレルギーと診断された赤ちゃんの症状、つまり嘔吐と血便の有無によって、4つのクラスター(患者グループ)に分類。これにより、食物蛋白でやられている消化管病変が推定できる(例えば嘔吐あり血便なしのクラスターは食道、嘔吐なし血便ありのクラスターは大腸など)。2016年からは、野村伊知郎先生が研究代表を務める厚生労働省難治性疾患研究班、新生児-乳児アレルギー疾患研究会、日本小児栄養消火器肝臓病学会ワーキンググループが診療治療指針を作成、定期的に改定をしています。

成育医療センターが提唱したエフパイスの4つのクラスター分類

3.自身がみた人工乳による典型的なエフパイス例

ちなみに私自身も、大分こども病院在職中に人工乳による典型的なエフパイス例を経験しました。まだ野村先生たちの診断基準が発表される前の2015年でしたが、母親が感染症のために母乳禁止の生後1か月の赤ちゃんが、人工乳開始後に高熱、炎症反応高価で、こども病院を受診しました。

最初菌血症や敗血症を疑いました。入院し、輸液して、型通り抗菌薬を投与しましたが、効果が乏しく、血液の培養検査でも細菌の検出がみられず、主治医の若い先生も私もなんか変だなと感じました。そういうことが短期間に繰り返し、嘔吐や下痢の消化器症状がでて体重増加不良もみられ、人工乳による消化管アレルギーを強く疑いました。最初は糖水から経口スタート(除去試験)したとたん、高熱、嘔吐、下痢は直ちに治りました。そこで牛乳由来から大豆由来の人工乳に変えて発熱や嘔吐下痢のエピソードは起きなくなりました。この赤ちゃんには、その後、木村光明先生方が開発したアレルゲン特異性リンパ球刺激試験(ALST・保険未収載)を行い牛乳蛋白添加でリンパ球が反応することを確認。入院でのミルク経口負荷試験で発熱や嘔吐が再現され、輸液と糖水経口で速やかに症状が治まることを確認し、診断確定しました。

その経過を症例報告として2015年11月に奈良市で行われた日本小児アレルギー学会で「当院で初めて確定診断しえたIgE非依存性消化管アレルギーの一例」を発表しました。質疑応答で、座長の木村光明先生に「消化管アレルギーと簡単に言う医者が多い中、このようにきちんと診断できた例は貴重」と好評得たことを覚えています。

4.本題に入ります。急にクローズアップした卵黄によるエフパイスとは

今回は卵の黄身の話ではないのか?と思われる方も多いと思いますが、つい最近黄身でも起こすことが知られるまでは、この胃腸炎をおこす食物蛋白は、本当に牛乳由来のタンパクと相場は決まっていたのでした。たまに魚や大豆、稀に米で報告がある程度でした。ただ、卵も調べれば報告例がないことはないようです。2011年、ニューヨーク、マウントサイナイ医科大学のジャンクリフトフ コベット先生たちは、血便を繰り返す乳児で生後12か月時にスクランブルエッグを摂取(生まれて2度目の卵製品摂取)で数時間後に嘔吐を頻発した乳児を詳細に検証した結果、鶏卵によるエフパイスと診断できた症例を米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に報告しました。

この報告を受け、オーストラリア・シドニーのウエストミード小児病院のサム ミーア先生たちも2008年から4年間、同病院のアレルギー外来を受診したエフパイス患児38人中4人が卵によるもので、その4人の詳しい臨床学的特徴(嘔吐が主な症状で、1名を除いて鶏卵皮膚テストは陰性で、なかなか治りにくいなど)をコメントとして報告し、卵も比較的頻繁にエフパイスを起こすと警告を鳴らしていました。しかしそもそもあかちゃんに離乳食として卵料理を食べさせることが少なかったせいか?もしくは食物不耐症として片付けられていたのか?この後しばらくは卵黄によるエフパイスの話題が盛り上がることはありませんでした。

2013年、サムミーア先生たちが報告した4人の卵黄エフパイスの臨床像

急に卵黄のエフパイスが日本でクローズアップされるようになったのは、今から1年半前。2020年10月15日に、国立成育医療センター慶応大学から同時に出た1つのプレスリリースがきっかけです。コロナ第2波が収束してGoToキャンペーンが開始されたころでした。「卵黄」を食べて数時間後に嘔吐などを繰り返す赤ちゃんは注意 -食物アレルギーとは異なり、食物蛋白誘発胃腸炎では「卵黄」が原因に-と題されたプレスリリースは、慶応大学小児科から2日前に出された論文をもとにした注意勧告です。米国アレルギー臨床免疫学会の姉妹紙に投稿された雑誌「鶏卵によって誘発された食物タンパク質誘発胃炎症候群の患者の多施設後ろ向き研究」という演題で発表された雑誌は、残念ながら有料閲覧なので本文は読めていません。

普通卵のアレルギーというと、卵黄は食べられても、卵白に進んだとたん、食べてすぐにぶつぶつが出るパターンを思い浮かべると思います。しかし卵のアレルギー症状は、小麦や牛乳に比べ、圧倒的に吐くことが多いことは、経口負荷試験をしているアレルギー医は気づいていました。しかもそのようなお子さんでは、卵蛋白のアレルギー検査や皮膚テストには全く反応しないのです(それでエフパイスは一時、IgE依存性食物消化管アレルギーと呼ばれていました)。それをエフパイスととらえず、ふつうの鶏卵アレルギーとか、食物不耐症などととらえるアレルギー医がほとんどでした。おそらくエフパイスはミルクで起きるという先入観にとらわれていた結果でしょう。

最近になり慶應大学の賢い小児科の先生方はこれをエフパイスととらえたようです。慶応大学小児科とその関連病院で2015年1月から2019年10月までに、近年増えてきた鶏卵による食物蛋白誘発胃腸炎と思われる赤ちゃん26人の臨床症状を後方視的に詳しく調べてみたところ、全員卵黄に反応したそうです。普通の食物アレルギーでみられる卵白ではなく、エフパイスを起こした赤ちゃんはすべて卵黄でした。そしてなんと88%にあたる23人は卵黄のみに反応。のこりの3人は卵黄と卵白共に反応したので、卵黄に反応せずに卵白だけに反応した赤ちゃんは一人もいなかったそうです。また、実際に経口負荷試験をおこなった15人をみてみると、卵黄に反応する赤ちゃんはごく微量で嘔吐症状が誘発されたのに対し、卵白には比較的多い量を摂取しても症状は誘発されませんでした。今後、卵黄のどの部分がエフパイスの原因になっているのかを明らかにしてゆきたいとのことです。

2020年10月慶応と国立成育のプレスリリースによるエフパイスの解説図から引用

この、卵白ではなく「卵黄」でエフパイスを起こすという現象はこれまでの鶏卵アレルギーの常識を覆す現象でした。早速、マスコミ各誌がこのプレスリリースを取り上げ特集しています。そしてこれは余談ですが、まだ卵黄によるエフパイスが注目されていなかった2018年、杏林製薬が出している月刊医療情報誌「ドクターサロン」62巻10月号に、大分県開業医からの質問コーナーで、まさに卵黄によるエフパイスの症例を群馬県立小児医療センターの消化管アレルギーの第一人者の山田佳之先生に質問されています。山田先生も、ここに提示されている症例はまさにエフパイスで間違いないと思うが、エフパイスは普通人工乳でおこすので、この卵黄で起こす例は大変珍しい、とコメントしています。2018年の段階では、山田先生のようなエフパイス第一人者にとっても、あまり経験がないようなめずらしいものでした。ちなみに大分県会開業医、というのは私ではありません。

大分の開業医の先生の質問(杏林製薬情報誌ドクターサロン62巻10月号から引用)

5.なぜ卵黄エフパイスが突然注目されてきたのか

ではなぜ近年急に卵黄によるエフパイスの赤ちゃんが増えて注目されるようになったのでしょうか?以下にお話しすることは、原因として特定されたわけではないですが、巷でその一因としてみなされているのは、日本小児アレルギー学会が2017年10月12日の提言、「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」です。

コロナが流行る以前、このニュースでも幾度も話題にしてきた、「肌の湿疹を治療してスキンケアしながら、離乳食早期から全卵を1/200個レベル(卵黄で1/4個)、生後10か月から1/40個レベル(卵黄1個)を摂取すれば、1歳時点での鶏卵アレルギーが激減する」というものです。当院でも湿疹が多く食物アレルギーの予備軍と思われる赤ちゃんたちに、積極的にゆで卵黄負荷試験をして、離乳期から積極的に茹で卵黄を取っていただくことをお勧めして、たくさんのあかちゃんが鶏卵アレルギーになるのを防いだり、自然治癒を速めてりしてきました。ただ、一部のあかちゃんに、卵黄を奏しても吐いてしまうお子さんがいることも気づいてきました。おそらく、2017年の日本小児アレルギー学会の提言が出てから、ご自宅でも積極的に茹で卵黄を摂取させるご家庭もあらわれ、以前は潜在していた卵黄エフパイスが顕在化したのではないか、と推測するアレルギーを積極的にしている小児科医の間でひそひそ話がひろまっています。

6.誤解なきよう、食べられる子は卵黄摂取を絶対やめないで。早期の卵黄摂取がエフパイスの原因とは立証されておりません

しかし、ここで誤解してなりません。赤ちゃんに「卵を早期に食べさせる、という行為が赤ちゃんに卵黄エフパイスを引き起こすわけではない」ということです。まだ消化管の機能が未熟な赤ちゃんのなかには一定の割合で卵黄のタンパクで胃腸炎をおこすケースがあり、それを生後6か月で食べて、その病気の子を早期発見した、ということに過ぎないのではないかと思います。例えれば、今盛んに行われている、近くでコロナが出たから、といって症状がないのに無理やりPCRされて、運悪くたまたま陽性であるのがわかり、感染性も症状もないにもかかわらず隔離されてしまう例がある、というケースに似ている、といったら過言でしょうか?卵黄の早期摂取がエフパイスの原因という証拠はありません。ただ、卵黄エフパイスのあかちゃんを必要以上に早く見つけてしまった、というだけだと思うのです。

牛乳由来の人工乳によるエフパイスで得られてきた知見からは、生後1年から数年たてば、腸管の機能がアップして、卵黄エフパイスも自然に軽快すると見込まれている説が強いので、卵黄エスパイスのお子さんは、診断されたら、病院の定期的な負荷試験で自然治癒を確認するまで卵黄はお預け、です。卵黄にはいわゆる普通の卵アレルギーを治癒させたり予防する力もあり、なんといっても良質で豊富な蛋白、アミノ酸、そして鉄や亜鉛を含有しますので、これが離乳食で使えないとなるとたいへん痛いです。しかし、普通の卵アレルギーのように、食べつつければいつの間にか治癒する、というものではなく、無理して食べさせ続けたらむしろ好酸球性胃腸炎などのおそろしい慢性的な消化管疾患になってしまうかもしれません。生後半年で茹で卵黄を少量食べさせた後に繰り返し吐くお子さんは、病院で数か月に1度のペースで負荷試験をしてもらい、吐かなくなったことを確認したのち卵黄をスタート。吐かなければ栄養のことも考え積極的に摂取することを強くお勧めいたします。

左の青が典型的な食物アレルギー出現時間で右の赤がエフパイスや好酸球性胃腸炎の出現時間(成育医療センターのHPより引用)

お詫び:2月28日から3月2日まで、院長の目の病気による緊急手術と術後の安静のため休診とさせていただきました。このシックキッズニュース3月号の配信も遅れることになりました。かかりつけの皆様方には急に休診となり大変ご迷惑をおかけいたしましたことをお詫びいたします。また火曜のコロナワクチン担当医も急にキャンセルさせていただき、代わっていただいた先生、大分市医師会をはじめ関係者の皆様方にもお詫びと感謝申し上げます。

医者は病気しないといわれていますが、一方、病気にかからないことをいいことに、長きにわたり暴飲暴食や不規則な生活をして、医者の不養生と呼ばれる状況になりがちです。私も肥満や血圧などの生活習慣病は20年以上もっていますが、仕事に係るような病気はありませんでした。あっても時々尿管結石で痛みを座薬でこらえながら仕事するくらいでした。

この度、数週間前から右の眼の視野の一部に暗点が現れ、まさか・・・と気になっていましたが、いつも患者さんの紹介でもお世話になっている眼科の先生が日曜あけておられ、ご相談したところ、緊急に手術が必要、と診断され、月曜に紹介していただきその日のうちに手術していただきました。2日間横になるよう厳重に指示がありました。こじらせてこれ以上皆様方にご迷惑が掛からないようにしっかり指示を守りました。眼科の開業の先生方やスタッフの皆さまのおかげで、なんとか3月3日(木)からまた元気よく診療再開できそうで、本当に良かったです。

寝室で2日間寝ていたら、朝ドラの棗黍之丞ではないですが、「暗闇でしか聴こえぬ歌がある」はどうかと思いましたが、「暗闇でしか見えぬものがある」という心境は実感したような気がしました。今後とも何卒よろしくお願いいたします。

診療内容:小児科・アレルギー科・予防接種・乳児健診
tel.097-529-8833
診療時間
9:00~12:00
14:00~18:00
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土曜午後は17:00まで

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