いつの間にかワールドカップ・カタール大会が始まっていて、日本もまさかのドイツ撃破という偉業を成し遂げ、盛り上がったのもつかの間、ついさっきコスタリカに負けてしまいました。解説の内田が、「コスタリカ、弱え~」みたいなことしゃべってたから、なんか不吉な予感がするぜ~と思ってたら、案の定でした。これで予選突破には事実上スペインに勝つしかなくなったけど…
コロナも第8波がはじまって、どうなるかと心配しましたが、当院では1日に多くて数名と夏の7波に比べると立ち上がりもしょぼいし、こどもでは相変わらず二次病院に紹介するまでもない感じでまずは一安心です。しかし、内田みたいに「コロナ、弱え~」とか舐めてたら、どんなしっぺがえしが来るかわからないので、気を引き締めてかからないと。けど、この前まで専門家たちが、インフルエンザとの同時流行、「ツインデミックだ~」とか「フルロナやろ」とかいっていたけど、イメージ先行の造語だけが先走り。幸いにも同時流行するきざしは今のところないようです。東南アジアなどからの人流が本格的に回復するまではインフルエンザの発生も散発的のような気がしますが、実際はどうでしょうか
さて与太話は置いておいて、秋の学会シーズンが到来し、日本アレルギー学会も10月東京で開かれました。現地参加はできませんでしたが、参加費さえ払えば期間限定オンラインでいくつか覗くことができます。いずれも勉強になる話でした。その中の一つ、「ウイルス感染の影響を再考する」というシンポジウムのなかで、RSウイルスの下気道疾患の予防薬として開発されたニルセビマブ(商品名ベイフォルタス)というモノクローナル抗体製剤の話がありました。とても興味深く拝聴し、岸田さんではないですがその後も注視していたら、つい先日11月16日世界で初めてEUで承認取得したというニュースがでました
そこで今回の本ニュースではRSウイルス下気道炎重症化予防の切り札、救世主、ゲームチェンジャーになるであろう「ニルセビマブ」についてフォーカスします。是非最後まで目を通されてください
今月のフォーカス 今月のフォーカス RSウイルス感染症の重症化予防の救世主「ニルセビマブ」のお話
1.RSウイルス感染症のおさらい
2.RSウイルスワクチンの開発の経緯
3.ニルセビマブ(商品名ベイフォルタス)の概要と承認までの経緯
4.ニルセビマブの有効性を示したMELODY試験のデータの紹介
5.ベイフォルタスが実臨床に使われるようになればどうなるか
おまけ:沖縄でシーシーを買ってきました
~~~~~~~~~
1.RSウイルス感染症のおさらい
RSウイルスは私も過去にこのニュースで取り上げたことがあります。よかったらそちらもご参考ください。ここでは学会シンポジウムの高柳先生の講演からRSウイルス感染症のおさらいをしてみます
RSウイルスは1959年に同定された比較的古くから知られたウイルスで、1歳までに70%、2歳までにほぼすべてのこどもが感染するといわれていました(コロナまでは)。乳幼児では気管支炎や細気管支炎、肺炎などの下気道炎の原因の50~80%を占めるといわれています。入院が必要な下気道炎のケースの多くはRSウイルスが原因と、小児科医にとっては昔のロタ腸炎と並ぶ東西の横綱、それも朝青龍と白鵬レベルの恐ろしさを誇ります(個人的な感覚です。高柳先生は言及されていません)
感染経路は接触、飛沫感染で、初めに鼻の粘膜への感染成立。4~5日の潜伏期を経て、熱や鼻汁、咳などの上気道症状で発症します。その2~3日後に下気道へ進行し、細胞障害を引き起こします。発症してから10~2週間程度期間分櫃物からウイルスは検出され、鼻汁や咳で飛散された分泌物を通して他者に感染するといわれています
RSウイルスは上気道炎、喉頭炎、気管支炎、細気管支炎、肺炎など様々な臨床型をひき起しますが、3か月未満の児では効率に細気管支炎を発症させ(71% v.s. 3か月以降45%)、喘鳴や陥没呼吸など呼吸障害や呼吸不全をおこし、入院率、酸素投与率、人工呼吸管理率が高く、とくに早期乳児に対する感染対策や罹患児の対応が重要であります
もともとRSウイルスは冬に流行するといわれていたウイルスですが、昨年や今年は夏に流行したし、今では1年中感染のリスクがあるウイルスとなっています。コロナ以降、マスク装着や海外渡航禁止などの生活様式の影響で、RSウイルスだけではないのですが、流行のタイミングや規模が不規則になっています
喘息との関連です。フィンランドから生後6か月未満の下気道炎の既往は、11~13歳の時点で医師から喘息と診断されるリスクが2倍であったという報告がありました。モンゴルの1歳未満の重症呼吸器感染症の既往は、6歳時点での喘息発症が優位に高かったと報告されています。これらの報告から、生後早期の下気道炎感染に伴う喘鳴は、その後の反復性の喘鳴や喘息発症リスクと強く相関していることが示唆されます
また、RSウイルス感染が呼吸機能に及ぼす影響も報告があり、乳児期に重症RSウイルス感染症に罹患した児の6年後の呼吸機能検査のいくつかの項目が優位に低下していた、とか生後24か月以前にRSウイルス細気管支炎、肺炎で入院した児を18~20歳まで追跡調査したところ、やはりいくつかの呼吸機能検査の項目の低下を認めたという報告があり、重症のRSウイルス感染症が乳児期の肺の環境を変化させ、下気道炎の治療後も肺機能障害が残存する可能性が示されています
以上、RSウイルス感染症のおさらいでした。乳幼児に重篤な下気道炎を起こすだけではなく、その後の呼吸機能低下や喘息・反復性喘鳴にもかかわっていることが示唆されており、コロナと違いRSウイルス感染症はこどもにとって本当に厄介です
2.RSウイルスワクチンの開発の経緯
RSウイルス感染症がアメリカで再びクロースアップされてきています。10月31日のナショナルジオグラフィックの記事によれば、全米の小児病院の病床ひっ迫が起こっており、原因はRSウイルス下気道炎だということです。アメリカではコロナはもう時代遅れとなりつつあるようです。米国立アレルギー感染症研究所の推定では毎年(ここ数年ではありません)世界で6,400万人がRSウイルスに感染し16万人死亡しているそうです。2022年5月19日付のLancet誌に掲載された論文によれば、コロナ前の2019年、世界の5歳未満のRSV感染症による死亡数は10万人を超えていたそうです。にもかかわらず、RSウイルスワクチンや有効な治療法はいまだ確立されていませんでした
RSウイルスが1956年に発見されてしばらくたった1960年ごろには、ワクチンは一応完成しました。ところがそれらワクチンはすべて失敗作で、むしろワクチンを投与された方が重症化してしまったのです。このころのRSウイルスワクチンは、ヒトの肺の細胞と結合する部分の突起の部分を狙って中和抗体を作らせるワクチンを開発したのです。ちょうど今のコロナワクチンでもそうですが、コロナワクチンのターゲットのコロナのスパイク蛋白のような感じです。しかしこれが失敗の原因で、コロナやほかのウイルスでは有効でも、RSウイルスに対しては逆効果だったのです
しばらく開発は停滞していましたが、開発開始から50年後の2013年になり、画期的な進展がありました。ウイルスが結合するのに使う部分ではなく、RSウイルスが肺の細胞と結合した後、ウイルスが肺の細胞と融合して侵入するときに使うたんぱく質をワクチンによる中和抗体やモノクローナル抗体などで安定化させれば、RSウイルスの肺の細胞への融合侵入することを防ぐことができそうだと気づきました。それ以後、RSVウイルス感染症の重症化を防ぐ薬剤の開発は画期的に進みました。が、ワクチン開発ガイドラインの不備やコロナ騒動のためにRSウイルスワクチンの開発は10年近く遅れてしまいました。2022年8月1日までに開発中のワクチンの一覧が非営利団体のPATHのWEBサイトにありました
グラクソ―スミスクライン(GSK)社は、高齢者用の膜融合前の遺伝子組換えF糖蛋白質抗原を標的にしたワクチン「GSK3844766A」を10月21日に、なんと世界で初めて日本で承認申請しています。世界17か国の60歳以上の成人2万5千人でワクチンを評価したところ、RSウイルス下気道炎に対して82.6%の有効性を示したようです。日本につつき10月中に欧州で、11月には米国で申請受理されたそうですが、なんで日本が最初なんか、違和感がありました。コロナワクチンの接種加速に驚いた製薬会社が、まさか日本人はみんなが打てばなんでもほいほい打ってくれると勘違いしているのではないかと勘繰りたくなります。なんでもいいですが、これがとりあえず世界で初めてのワクチンの承認申請となりました。まだ承認はされていないようですが、高齢者用ということもあり、とりあえず小児科にはあまり関係がないかなと思います。ヒトメタニューモウイルスでは高齢喫煙者でCOPDが悪化する、と同じシンポジウムで九州大学の呼吸器内科の神尾敬子先生が話されていたのでヒトメタ用のワクチンなら高齢者でも使用したいところではあります。ただし、高齢者の療養施設では時にRSウイルスによる集団感染による犠牲者も散見されるので、意外とニーズはあるかもしれません
小児科関連では、ファイザー社の妊婦向けワクチン「PF-06928316」を開発中なので気になります。妊婦に接種して母体内で高い中和抗体を作らせることで、胎盤を通して胎児に高濃度の中和抗体を送るシステム(胎児にとっては受動免疫療法)を目指しています。2022年4月に発表された後期第2相試験では高いレベルの抗体価を得ることが証明されました。高齢者を対象にした第3相試験でも重症化予防で85.7%の有効率を示せたそうです。来年中の承認認可を目指している、ということですが、妊婦に使用する以上、いくらBTD(画期的治療薬)としてFDAから優先開発・認定のお墨付きをもらったとはいえ、十分に安全性が示されないと、乳幼児用や小児用コロナmRNAワクチン同様、普及しないような気がします
そのほか、モデルナが高齢者用のmRNAワクチン「mRNA-1345」、ヤンセンファーマー社も高齢者用のアデノウイルスベクターワクチン「Ad26.RSV.preF」米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の「VAC18193」などがP3試験を実施中。第一三共の「VN-0200」やサノフィ「SP0125」はP2試験を行っています。苦節50年を経て、RSウイルスワクチンもようやく日の目を見そうな感じです
3.ニルセビマブの概要と承認までの経緯
一方、今回ここで紹介する、先日EUで認可された世界初のRSウイルス重症化予防薬「ベイフォルタス(ニルセビマブ)」はワクチンではありません。現在、早産児や心臓病などのあかちゃんに既に使用されて救世主となっているシナジス(パリビズマブ)同様、モノクローナル抗体によるRSウイルス「受動免疫療法」です。つまりワクチンのようにヒトの免疫反応を利用してリンパ球に中和抗体を作らせるのではなく、すでに人工的に体外で出来上がった中和抗体を体に打ち込む、ということです。mRNAワクチンのようなよくわからないものとは違い、この方法は日本でもすでに20年前からシナジスで早産児や心臓病、ダウン症、免疫不全のいわゆる基礎疾患を持ったあかちゃんに日常的に行われている方法で安全性も有効性も十分に保証されている薬剤です。現状では乳児用の有効なワクチンが開発途上であり、主に早産児や心臓病のあかちゃんたちに使われてRSウイルスから命を救ってきたシナジス(パリビズマブ)のようなモノクローナル抗体の開発が急がれていたわけです
RSウイルス感染症重症化予防薬としてすでにモノクローナル抗体製剤の「シナジス」を商品化していたアストロゼネカ社は、RSウイルス感染症流行シーズンを生まれて初めて迎えるすべてのあかちゃんに1回接種で重症化予防効果を持続できる長期間作用型のモノクローナル抗体「MEDI8897」の開発を進めていました。同社開発のシナジスは旧型なのでRSウイルス感染流行期が終わるまで月に1回の追加接種が必要ですが、同社独自開発の半減期延長技術(YTE)を利用することでこの頻回の筋肉内注射の回数を単回に改善できました。製品化を一層加速させるため、2017年、3月3日にサノフィ社と共同で開発商品化することで合意しました。つまり、製品開発し承認を得るまではアストラゼネカ社が、その後の商業的活動はサノフィ―社が担うという契約だそうです。同社はまず29週から35週未満の早産児に対する治験を勧め、2020年7月30日、ニルセビマブ研究グループがついに早産児に「MEDI8897」、つまりニルセビマブ単回接種でRSウイルス感染症重症化予防に70.1%の有効性がある、という報告をしました
そしてついに今年の3月4日、第3相臨床試験で35週以降の後期早産児や健常乳児でも単回接種で74.5%の有効性と安全性もともに示せたと、ニューイングランドジャーナルに発表しました。それを受け、欧州医薬品評価委員会が9月16日に承認認可を推奨。11月16日に欧州委員会はニルセビマブを承認しました
4.ニルセビマブの有効性を示したMELODY試験のデータの紹介
それでは3月3日にニューイングランドジャーナルに掲載されたニルセビマブの有効性と安全性を示す第3相試験の結果をご紹介します。ちなみに掲載されているニューイングランドジャーナル オブ メディスンは、ハーバード大学医学部が発行する機関誌で、世界最高峰の医学週刊誌です。コロナのmRNAワクチンの治験の結果など、これまでも医学のエポックメーキングとなった重要なデータはたいていここかロンドンのLancetに発表される臨床医学雑誌の最高峰です
MELODYスタディーと名付けられた第3相試験は、2019年7月23日から2020年3月15日までに間に35週0日以降に出生した後期早産児から満期産の1歳未満で、生まれて最初のRSウイルス流行に入る前のあかちゃんを対象にしています。コロナでRSウイルスが一時消える直前で、何とかRSウイルス感染流行1回とることに成功しています。体重5kg未満が50mg、5kg以上は100mgのニルセビマブを1回筋肉内注射した群(約1000名)、対して偽薬群(約500名)を全世界からエントリーし、接種後511日(約1年半弱)まで健康観察を行いました。日本からも1名の乳児がエントリーしているのですが、コロナでフォローが中断されています
この観察期間内にどれくらいRSウイルス下気道炎にかかったか調べたところ、偽薬の投与を受けた群496人のうち25人(5.0%)に対し、ニルセビマブ投与群994人中12人(1.2%)と有意にニルセビマブ投与を受けたほうが低く(p<0.001)、有効性は74.5%でした。 接種後150日目までの観察では、偽薬群496人中8人(1.6%)に対しニルセビマブ投与群994人中6人(0.6%)がRSウイルス感染症関連で入院しました。統計学的に有意に減少(p=0.07)で推定入院阻止有効率は62.1%でした
投与後の薬物動態ですが、ニルセビマブの平均血中半減期は68.7±10.9日でした。ニルセビマブ投与後151日目の平均血中濃度は、接種量の多い5kg以上のあかちゃんで31.2±13.7μg/mL、5kg未満のあかちゃんは19.6±7.7μg/mLでした。なぜか4名いずれの時点でも血中ニルセビマブが検出されませんでした。原因はわかりませんが接種時のエラーの可能性も否定できません
ニルセビマブのようなたんぱく質を投与したら、そのたんぱく質に対する抗体ができることがあり、それにより投与されたニルセビマブの失活が早まる可能性があります。ニルセビマブ投与群で測定可能な951名のうち58名(6.1%)に抗ニルセビマブ抗体が検出されました。抗体出現頻度が高かった時期ですが、ニルセビマブ投与後361日目に最も多く検出されました。361日時点でのニルセビマブ血中濃度は、やはり抗ニセルビマブ抗体が検出されたあかちゃんで全体的に低く出ました。抗体ができるとニルセビマブの安定に実際にかかわることが確かめられました
安全性ですが、注射後 7 日以内の有害事象の発生率は、ニルセビマブ 投与群で 13.4%、偽薬群で 12.8%でした。ほとんどがグレード1~2の軽症と判定され、しかも偽薬群、ニルセビマブ投与群間で大きな違いは認めず、安全上の懸念はないと考えられました。重篤な有害事象は、ニルセビマブ投与者の 6.8% (乳児 67 人) およびプラセボ投与者の 7.3% (乳児 36 人) で報告されました。投与群でたまたま3名死亡していますが、元々発育不良のあった1名は接種140日目に原因不明で死亡したもの、2名は胃腸炎がひどいのに医療機関に連れて行っていないケースで、3名ともにニルセビマブ投与に関連した死因ではないと判定されています。アナフィラキシー例はありませんでしたが、ニルセビマブ投与された1名に接種6日後に全身に斑状公判が出現し、グレード3と判定されました。20日後には何の治療も必要なく自然軽快しています
5.ベイフォルタスが実臨床に使われるようになればどうなるか
ここからは、私個人の見解であるということを前置きいたします。50年前のワクチン開発失敗からいろいろな苦難を乗り越え、ようやくあかちゃん全員にRSウイルスから守れそうな薬ができました。まさに救世主です。これまであった同じような受動免疫療法のシナジス(パリビスマブ)は、早産児、気管支肺異形成症、先天性心臓病、ダウン症、免疫不全にしか適応がなく、しかも半減期が大変短いので、RSウイルス流行中の毎月接種が必要でした。日本でも承認が待たれるベイフォルタス(ニルセビマブ)は、全乳児を対象に治験が行われ、しかも単回接種でシナジスよりも強い効果が得られそうなこと。しかも受動免疫療法なので、接種したあかちゃんの免疫系にはほとんど影響することはありません。コロナワクチンなどで問題になる接種後の発熱、倦怠感(赤ちゃんの場合はぐずりでしょうか)はあまり起きないでしょう。いいことずくめのベイフォルタス。少なくとも昔からあるシナジスを接種した早産児や心臓病などのあかちゃんたちではRSウイルス感染症による重症化は明らかに減らせていました。かりにベイフォルタスが保険診療可能になり、乳児への接種率が高まれば、これまでワクチンで制圧してきた麻疹、風しん、水痘、ロタ腸炎、細菌性髄膜炎などのように、RSウイルス感染症を過去のものにできるかもしれません
しかしそれには課題もあります。まずは薬価、カネの問題です。現在使用されているシナジスでは3kgのあかちゃんに50mgバイアル1本を毎月筋注していますが、このシナジスでも50mg入りバイアルで1本55,518円もします。これは定期の予防接種ではないので、市町村が負担するわけではありません。限られた基礎疾患を持つ児だけに保険診療しています。もし全乳児を対象に保険収載されれば、多くの大分県の市町村の就学前の乳幼児は乳幼児医療費助成制度で、実費は市町村が負担するので、保護者の負担は実質無料ですが、シナジスでさえ小さいもので1本5万以上、大きい100mgバイアルでは11万円もします。シナジスは年に3-6回くらい接種が必要ですが、仮に全乳児に年1回といっても大分市の0歳児が1,700人弱なので、ざっと年間1億円の負担となります
当然ベイフォルタスの薬価はシナジス以上の値が付くと思いますので、単回接種でいいとはいえ、かなりの負担になるかと思います。おたふくかぜワクチンやインフルエンザワクチンでさえ一部しか公費を出せていないのが現状。ということで、おそらくは最初から保険で接種ができるのは、現在シナジスで保険診療されている、早産児、気管支肺異形成症、心臓病、ダウン症候群、免疫不全の乳児からになるのではないでしょうか。しかしそれでもシナジスからベイフォルタスに変更することはかなりの利点になります。というのは最近のRSウイルスは1年を通して流行している感じなので、接種開始月や終了月の決定するのが大変でしたが、ベイフォルタスに切り替えれば、1年に1回どこかで単回接種すれば終わりになり、かなり楽になると思います。あかちゃんも痛い注射が1回で済みますし、シナジスよりも理論的には効果があるようだし。それに受動免疫療法なので、ワクチンのように接種開始月齢を気にすることもなく、適応疾患と診断された時点でできるだけ早く接種すればいい感じになると思います。このように運用はすごく改善されます
全乳児に保険診療できない場合、あるいは保険診療になるまでの間は、接種費用は自費になります。例えばロタウイルスワクチンも最近までは任意接種、つまり自費でした。大変有効なワクチンであることは知られていましたが、接種費用が1回数万、それを2~3回必要で、それはさすがに高すぎだろ、ということでワクチン接種率が低く、自費時代にはロタを制圧することはありませんでした。定期接種に切り替わった2020年10月以降、一斉に早期乳児全員にロタワクチンを接種が進み、横綱朝青龍のように小児科医が恐れていたロタ腸炎はすっかり消えてしまいました。まあ、コロナでキレイキレイの生活様式の変化もすこしはあるのかもしれません
自費となればベイフォルタスの接種費用はどれくらいになるでしょうか。ベイフォルタスの薬価次第ですが、例えばHPVワクチンのシルガード9が3回で総額10万円程度ですので、ベイフォルタス1回接種は10万円程度でしょうか?これではいい薬ということはわかっていても、さすがに高すぎだろ、ということで、全乳児に対して保険で使えなければ普及は難しく接種は進まないでしょう。感染症制圧には、全対象者(この場合、全乳児)に一斉に接種するのが効果的ですが、これではRSウイルスの制圧まではゆかないでしょう。RSウイルスの蔓延が続けば、ベイフォルタスは受動免疫療法なので、接種しても終生免疫がつくわけではありません。半減期は2か月ちょいなので、接種したベイフォルタスが徐々に失活すればいずれはRSウイルスにかかってしまう、ということです。やはり能動時に免疫をつくる安全な乳幼児用、あるいは妊婦用のRSウイルスワクチンの開発も待ち望まれます。重症化しやすい早産児、気管支肺異形成症、心臓病、ダウン症、免疫不全のあかちゃんには診断がつき次第直ちにベイフォルタス接種、もしくは妊婦用ワクチンをして受動免疫療法によりとりあえずあかちゃんをRSウイルス感染から護り、そしてワクチンが安全に接種できる時期が来た全乳幼児には乳幼児用ワクチン接種をして能動的に免疫をつける。これでRSウイルスの制圧に近づけると考えます。ベイフォルタス承認もRSウイルスワクチン開発もあと一歩のところまで来ているようなので、今から待ち遠しいです
おまけ:沖縄でシーシーを買ってきました
先月11日の昼からお休みをいただき、沖縄で開催された第59回日本小児アレルギー学会に参加させていただきました。コロナで久しぶりの現地での学会参加、ほんの少し勉強してきました。それ以上に楽しみだったのは、沖縄での骨董品屋巡りでした。昔、ある骨董品屋で一部サンゴ製の大変貴重な(と勝手に信じている)シーサーをゲットしたことがあり、今回も2つ目のどじょうを狙った、というわけです。店に入るや否や、大量の置物に押しつぶされるように顔の部分だけ苦し気にのぞかせている1体のシーサーがすぐに目に留まりました。詳細に観察したところ、表面に細かい多孔性の石でできているようです。これはもしかして琉球石灰岩を掘って作ったあの有名な石獅子(シーシー)では???と店のおばさんに聞いてみたら「古いよ~骨董シーサーだよ」とのこと。全体像が見れずに少し心配でしたが、一目ぼれして直ちに購入を決断。郵送してもらうことにしました。おまけで戦前製(あくまでおばさんの説明です)の南蛮壺ももらったし、だいたい値段が異様に安かったし(郵送代の方がかかった)、とどめは会計後におばさんから「部品が欠けたらボンドでくっつければいいよ」とアドバイスをもらい、不安がまた突き抜けましたが…
届いたものを確かめてみたら、恐れていたひどい傷みはなかったなかったものの、残念ながら髭は漆喰もしくはセメントみたいだし胴体など古瓦が埋め込まれており、大方漆喰かセメントで作られているようです。口の中には、お店の客がこっそり捨てるために突っ込んたのでしょうか、お菓子か何か包んでいたようなプラスティックバックのようなごみをも挟まっているようです。奥にあるので取れそうもなくそのままにしています。もしやと期待した琉球石灰岩を掘り出したひと岩彫りのシーシーとはどうも違うようです。が、顔の部分はやはり多孔性の石でできているようにも思い(というか、なんでも鑑定団の相談人のようにそう信じています)、よって石灰岩にも思え。牙も1本抜けていてしっぽが黒くかびていますが、それも愛嬌。いかにも孤高のライオン、という感じがして大変気に入りました。診察室の入り口側をにらむように診察室の奥に設置しています。遠く故郷を離れて、ここでこどもさんの病気や厄除けに活躍してもらいましょう