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シックキッズニュース 11月号 No78 ドラッグロス~医薬品不足の現状と原因、嘆き

シックキッズニュース 11月号 No78 ドラッグロス~医薬品不足の現状と原因、嘆き

秋もだいぶん深まり過ごしやすい日が続いています。猛威を振るった季節外れのインフルエンザも一巡し、ようやく下火になってきました。世界はロシアのウクライナ侵攻が続いているにもかかわらず、ガザ地区のハマスが暴発し、イスラエルも報復。双方多数の人間が犠牲に…そしてアメリカではまた銃の乱射事件で何十人も犠牲者が出ている。翻って日本は、わけわからない「定額減税」論議。あいも変わらず…てとこですか。ホント頭の中お花畑ですよね。「オレももらえるの?いつ?いくら?」とかくだらん問い合わせ業務や支払業務などで市役所の職員さんたちまた大変だろうな~配るのに大金いるやろうし、また中抜きで儲けるお友達もいるやろうし。金が余っているのだったら、日本の科学技術発展のために安月給にもかかわらず日夜頑張っている若い研究者たちへボーナスのための基金にでもすればいいのに。引用された論文の上位10%に入る(つまり真の優秀論文)日本の研究論文数は最近イランにも抜かれて13位(泣)で世界シェアも2%にまで減少。「日本の研究はもはや世界レベルではない、なんで?」ってNature誌も特集して世界の笑いものになるけど、このままでいいんですか?たまには票にならんこともやってくださいよ

ボヤキはこのくらいにして、ウクライナとかガザとかイスラエルとかアメリカとかに比べたら些細な問題かもしれませんが、最近巷で「薬がない」ことが問題になっていることはご存知でしょうか?咳止めとか風邪薬とか足りないとかであれば「またか」で笑って済ませられるのですが、解熱鎮痛剤とか抗菌薬がありません、とかいわれると問題です。そこで今月はコロナ騒動あたりから徐々に問題になってきている「ドラッグロス~薬不足」にフォーカスをあてます。現状はどうなのか、先進国と思われた日本でなぜ今こんな事態になったのか、調べてみました。最後は嘆き節ですがぜひご覧ください

今月のフォーカス ドラッグロス~医薬品不足の現状と原因、嘆き

  • 現在の医薬品不足の現状
  • 医薬品供給不足の変遷
  • ジェネリック医薬品メーカーの不祥事による品質に対する信頼失墜
    • 小林化工「睡眠薬混入」事件
    • 日医工「製造不正発覚」
  • コロナ禍による影響
    • ロックダウンで原薬の流通が止まった
    • OTC医薬品の「爆買い」問題
  • 医薬品業界の深刻な構造的問題
  • 薬なしでどうすりゃいいの

現在の医薬品不足の現状

先月10月6日、日本医師会は「医療用医薬品不足の現状と問題点について~緊急アンケート集計結果(速報値)」と題する記者会見を開き、8月9月に、全国の医療機関(薬局ではない)を対象に日本医師会が緊急で行った「医薬品供給不足 緊急アンケート」結果(速報)の概要、並びに、日本製薬団体連合会が行っている「医薬品供給状況にかかる調査」結果との比較分析の説明を行いました。詳細のほうは、会見動画説明資料をご覧いただきたいと思いますが、この資料の出だしは、このような印象的な文言で始めっています。「世界的に医療用医薬品の供給不足が問題になっている。しかしながら、日本のように大規模かつ長期間にわたって供給不足が続いている先進国はない」~この文言に問題の深刻さをうかがうことができます

とにかくこれが読売朝日など大手マスコミから報道され大反響になりました。これら資料から、現状の薬不足の実態はどうか、簡単に拾い上げますと、院内処方医療機関(薬を医院で出してくれる医療機関)2,989施設のうち医薬品が入手困難と回答があったのは、90.2%の2,696施設に及びました。一方、院外処方医療機関(当院のように処方箋のみ発行)では、5,654施設中、74%の4,184施設が院外薬局から医薬品在庫不足の連絡があったと回答しています。うち、我々小児科の院外処方医療機関からは、92.3%の医療機関から院外薬局から医療品在庫不足の連絡を受けている、という実態が明らかになりました

院外薬局から医療品在庫不足の連絡を受けた院外処方医療機関(日医の資料から引用)

院外処方では処方困難な医療薬品の品目数は1,489品目にも及び、その主だった薬効分類名は「鎮咳去痰剤(咳止め、痰切り)、解熱鎮痛剤(熱さまし、頭痛薬)、抗生剤、一部の漢方製剤(風邪に葛根湯)など、いわゆる内科・小児科・耳鼻咽喉科を標榜している町の医院が処方する主力の品目がずらりと上位をしめました

日医の資料から引用

医薬品供給不足の変遷

現状の薬不足ですが、その要因はいろいろいわれています。現時点で挙げられている直接的な要因は、2020年末の「小林化工問題」「日医工問題」に端を発した「品質問題」と、2020年から始まった「コロナ関連」の2つ要因が大きかったと多くの人が挙げています。しかし、薬不足は、そんな外的な表面上の問題ではなく、調べれば調べるほど本当はもっと闇深く根深いことがわかってきました。つまり、国民の生命や安全の根本を揺るがす薬不足という嘆かわしい事態は、ジェネリック医薬品製薬会社の不祥事やコロナがきっかけで一気に表面化しただけで、その兆候は数十年前の改正薬事法施行あたりからぽつぽつ頭をもたげてきており、どうも内因的な問題があるようです。とても難しい問題で想像の域を出ていないこともあり、何を書いているのかよくわからない感じになってしまってますが、最後のほうで少し書いてみましたので、興味ある方はご覧ください

日医の資料から引用

ジェネリック医薬品メーカーの不祥事による品質に対する信頼失墜

2020年から2021年にかけて、コロナで世界中が大騒ぎしていた陰で、ジェネリック医薬品メーカーの不祥事で後発医薬品の自主回収(リコール)行政処分が相次いだがあったことを記憶している医療関係者、あまりいないのではないでしょうか。何を隠そう、私もあの頃はコロナで患者さんがぴたりとこなくなり、待合室に新装した水槽の魚たちがゆらゆら泳ぐのをぼんやり眺める日々が続いて、薬を処方するなく、薬のことなんか全然気にしていませんでした。正直、このころは待合室の水槽の維持費が払えるのか、のほうが心配でした。ということで、ジェネリック医薬品メーカーの信頼を失墜の引き金を引いた「小林化工」と「日医工」の2社の事件を復習しておきましょう

  • 小林化工「睡眠薬混入」事件

2020年の12月に入り、小林化工が製造販売したミズムシ治療薬「イトラコナゾール錠50MEEK」(ロットT0EG08)を服用後に、ふらつき、めまい、意識障害などの副作用報告が複数あり、同社が製造記録を確認したところ、12月4日になって睡眠導入薬「リルマザホン」が混入していることが発覚。前日まで製造販売していましたが、この時点で当該品ロットを全品回収すると発表し同時に記者会見も行われました

睡眠導入薬「リルマザホン」の混入量はイトラコナゾール1錠あたりなんと5mgもあったそうです。「リルマザホン1mg錠」の服用方法は通常睡眠前に1~2mg。ということはイトラコナゾール1錠につき5錠分のリルマザホンが混入していたことになります。問題のミズムシ治療薬「イトラコナゾール」の服用方法は50mg錠を1回2~4錠、1日1回食直後です。ということは、イトラコナゾール1回2錠飲んだ場合、睡眠薬リルマザホン混入量は10錠分の10mg、不幸にも4錠内服してしまった場合、睡眠薬も同時に20錠服用してしまったことになります

当然、睡眠薬入りのミズムシ治療薬を服用した人はどうにかなります。2021年3月8日時点で該当ロットを処方された患者は344例。うち324例が知らずに服用し、健康被害が認められたのは四分の3にあたる245例。主な健康被害は、ふらつき、めまい、意識障害、強い眠気ですが、当然内服してから車を運転してしまった方もいるわけで、自動車など車両運転時の事故例38例ありました。走行中、中央分離帯に激突した恐ろしいケースもありました。中央分離帯がなかったと想像したら…この報告時点で、救急搬送・入院例41例、死亡例は2例(因果関係は不明)。当然の結果です

事故発生のいきさつですが、読売新聞の同年12月19日の社説によれば、同工場内で睡眠薬も製造しており、睡眠薬原薬がミズムシ治療薬の近いところで保管されており、ミズムシ薬製造過程で減った材料を補充しようとして、見た目は同じ粉なので気づかずに隣の睡眠薬どうも混入してしまったようです。社内規定では2人1組で製造にあたることになっていましたが、現場には1人しかおらず、作業記録に睡眠薬投入を示す記載があり、サンプル検査でも異物混入が疑われたのに、そのまま出荷してしまったそうです。「そもそも、薬の成分を途中で補充する行為は、厚生労働省が認めた手順に反している。いったいどうなっているのか。組織として緩んでいるとしか言いようがない」と、例のごとく鬼の首でも取ったかのように、怒り心頭のご様子を表明していました

小林化工は自主回収の常連会社だったそうで、4年の間にこれで5件目だったそうです。厚労省、福井県、PMDA(医薬品医療機器総合機構)は複数回の立ち入り検査を実施。同年12月24日までに、出るわ出るわ20品目で適切な手順に従って試験を実施していなかったことが判明し回収着手。ついに2021年2月9日福井県は小林化工にたいして過去最長の116日の業務停止命令と業務改善命令を下しました。小林化工は自主再建をあきらめ、2021年3月、サワイグループホールディングスが設立したトラストファーマテックに福井県の工場など資産を譲渡しました。「何よりも患者さんのために~」と同年4月より後発品製造販売を再開しています

  • 日医工「製造不正発覚」

ジェネリック医薬品メーカーの信頼を失墜させ、2021年のジェネリック医薬品メーカーの行政処分の将棋倒しを招いたきっかけの事件となったもう一つの事件が、後発品メーカー最大手の一つ、「日医工」による製造不正の発覚です。詳細は富山県GMP査察調査委員会が2021年5月21日に発表した「富山県の GMP 査察体制及び査察方法等に関する調査報告及び提言」に書かれています。簡単に経過をまとめます

小林化工事件の起きる10か月前の2020年2月。富山県は事前通告なしに「日医工」の富山第一工場へ査察を行いました。この抜き打ち査察の結果、製造品質検査の段階で検査方法に問題があることを指摘されました。その後の自社調査の結果、出荷試験で不適合となった製品は別のロットで再試験を行ったり、製品を再粉砕・再加工した後で試験を行ったりしていたことが判明。要するに製品の初回試験の不適合の結果、原因究明を行わず、合格がでるまで繰り返し、再試験を実施している等の慣行が明るみとなったわけです。こうした不正な対応が2011年頃から10年近く続けられてきていました。この間も富山県は2年おきに富山第一工場への査察を行ってきましたが、10年間パスしてきたことになります。いろいろな意味で唖然としてしまいますが、最大の啞然はこのような不正なやり方で試験をパスした日医工のジェネリック医薬品も、その間有効性や安全性には特に問題なく使い続けられたことでしょうか。いづれにしろ、この抜き打ち査察がきっかけで、日医工は2020年4月以降自社製品の自主回収(リコール)が相次ぎ、その数は2020年から2021年1月までに75品目に上りました

同社からの製造不正の調査結果の報告を受け、富山県は2021年3月3日、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等 に関する法律」に基づく32日間の業務停止命令行政処分を下しました。その結果、日医工が製造する1,496品目のうち、約15%にあたる221品目の販売中止となりました。さらに3月9日には日本ジェネリック製薬協会(JGA)から5年間の「正会員の資格停止」措置を受けることになりました。

2021年4月26日に富山第一工場は操業再開しましたが、財務状況は急速に悪化。2022年5月に本事業再生ADR手続きを利用すると発表し、全15金融機関の6割強の985億円の債権放棄が決まりました。2023年2月ジェイ・ウィル・パートナーズが管理・運営する合同会社ジェイ・エス・ディーへの完全子会社化を株主総会で決定。現在も後発品は供給し続けています

以上、この2社の不祥事が明るみに出て、日本ジェネリック製薬協会(JGA)は2021年3月会員企業に対して製造販売承認書と製造実態の調査と結果の公表を要請。その状況を「ジェネリック医薬品に対する信頼の回復に向けた当協会の取組みについて」のサイトで公開しています

AnsereNewsから引用

この取り組みは痛みも伴い、各社の自己点検の結果、さまざまな虚偽やずさんな品質管理などが発覚。2021年にはコロナ騒ぎの陰で、毎月のようにどこかのジェネリックメーカーが業務停止命令や業務改善命令などの行政処分を受けて、そのたびに業務命令を受けていないメーカーに玉突き的に代替需要が高まり、医薬品の供給不足が加速していった、というわけです

コロナ禍による影響

  • ロックダウンで原薬の流通が止まった

コロナ禍は医薬品不足にも多少影響を与えました。2020年からのコロナ禍前半では、世界中の流通がストップしていたため、特に海外から輸入していた薬の成分の「原薬」が入手しづらくなりました。本格的に流行が始まった2021年からは、原材料不足に加え、解熱鎮痛剤や風邪薬の買い占め問題も少なからず影響を与えました

日本で使われている医薬品、とくにジェネリック医薬品の原薬の多くは、安価な海外製ということをご存じでしょうか?ジェネリック医薬品の薬価は先発品に比べて低く抑えられています。先発品と同じ有効成分を含み、莫大な開発費用の必要がないためです。ジェネリック医薬品メーカーのビジネスモデルは安価な原薬を大量に仕入れて大量に製造し大量に販売するスタイルです。キモは安価な原薬をどのように大量に仕入れるか、です。その実態ですが、厚労省が三菱UFJリサーチ&コンサルティングに委託した令和3年度「後発医薬品使用促進ロードマップ検証検討事業」の膨大な報告書のp23の表をまとめた日本医師会の表を引用します

日医の資料から引用

これによると、国内で製造される後発薬の中で調査に協力した企業が製造・販売する9,054品目のうち、4割超に当たる3,955品目は輸入した原薬をそのまま使っています。原薬の輸入調達先1,914社の内訳は、中国の364社(19.0%)が最多で、次いでインドが318社(16.6%)に上りました。実際にはもっと偏りがあるのではないかと推察します。なぜなら、「原薬は欧州から調達していても、そのもととなる化学物質の多くは中国やインド製」と明かされているからです。安く仕入れることに注力した結果、仕入れ先が偏った国になってしまいました。化学肥料原料はもっとひどい状況で、ほぼすべて輸入にたより、それも主に中国やロシア、ベラルーシからだそうで、聞くだけで「日本の農業、終わったぁ~」って感じです。ウクライナ戦争などの地政学的リスク、コロナのような世界的な感染症などで世界的に物流障害をきたすと、ジェネリック医薬品を中心にたちまち原薬が手に入らなくなります。原薬や肥料原料入手のためのリスクヘッジの必要性は以前から指摘されていたようですが、我が国のお上にこのような大局的な対応を期待するほうが間違い、というわけです

  • OTC医薬品の「爆買い」問題

最近、OTC医薬品という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。OCTとかカッコつけてますが、要するに「ルル」とか「ナイシトールゼット」とか「コーラック」「キャベジン」とか「コバヤシ製薬」とか、薬局で買える一般用医薬品のことで、薬屋さんでカウンター越し(Over The Counter)に売買できるのでこう呼ばれています。アメリカとかよほどでないと病院にかかれないので、こどもが熱出したり風邪をひくとCVSでタイレノールとかOTC中心です。これまで話題の中心のジェネリック医薬品市場だけでなく、OTC医薬品市場も国民の高齢化や健康志向の高まりで安定的に発展してきましたが、近年はドラックストアーチェーンの出店加速、医療費のさらなる削減の切り札の「スイッチOTC」(もともと医療用医薬品だったものを処方箋不要のOTC医薬品として認める、例えばアレグラとかアレジオンとか)の普及、そしてとどめはコロナあけのインバウンド需要の高まりを背景にして、爆発的に伸びてきています。OTCの需要拡大の割を食った感じになったのが、医療機関が本当に必要な患者さんに処方している医療用医薬品、というわけです

コロナ禍中の薬の買い占め事件も懐かしい笑い話でした。どうしてもひとつだけ、といわれれば、あれでしょう。大阪府知事がやらかした「イソジン」事件。そしてコロナ禍も後半になると、もうええやろ、というわけで海外からの人流を再開したら、今度は日本の風邪薬を「爆買い」する訪日客のおかげで、OTC医薬品の在庫がショートすることになりました。どんな薬でもバカ売れしたみたいですが、とくに笑えるのが「龍角散」。のどにくるコロナにはうってつけ、というわけで、かの国から大挙して日本の薬局に押し寄せ買い占めました。おそらくかの国で「神薬」として転売しているのでしょうか。ついに厚労省も重い腰を上げ、2022年12月26日付で、ドラッグストアや薬局などの業界団体に対し、一般用解熱鎮痛薬等の安定供給のために1人が購入できる量を制限することなどを要請しました

医薬品業界の深刻な構造的問題

以上、主にドラッグロスの外的要因を述べてきました。「ジェネリック医薬品メーカーの不祥事」とか「コロナでロックダウン」とか「訪日客の爆買い問題」などの外的要因に関しては、大衆にもわかりやすくマスコミ受けして派手ではありますが、規制を加えたりして一つ一つ課題を乗り越えれば将来的にはドラッグロスは解決してゆけるだろうとまだ明るく考えられます。ところがどっこい。ドラッグロスにはもっと深刻的な問題があります。医薬品業界の深刻な構造的な内的問題です。この問題は複雑でわかりにくいため、あまりマスコミなどでも取り上げられることはありません。よってあまり知られていないことです。医薬品と常にかかわっている私のようなものでも問題の根が深すぎて完全な問題点の把握は不可能でした

日医の資料から引用

例えば、医師会の資料を見ても、「共同開発」「バイイングパワー」「委受託完全分離」「トレーサビリティー問題」「多品種少量生産」などなど、意味ふワードのオンパレードで、これも問題の根深さを表します。とはいえ、わかりません、では話にならないので、ない頭なりに調べてみたところ、どうも2005年4月の改正薬事法をきっかけに起きた医薬品業界の小泉流「構造改革」の後遺症では?という思いに行きつきました

以前、医薬品販売業者は医薬品製造工場を持つことが義務づけられていました。というか、今の今まで、製薬会社は薬を開発・製造して、医者にMRさんを送り込んで、おまけをくれたり接待したり手をかえ品をかえ薬を宣伝して自分の会社の薬をたくさん処方してもらえるようにして、実際に販売するのが仕事でしょ、とおもっていました。その考えは20年くらい遅れていることが判明しました。2005年の改正薬事法で「製造販売業」という概念が新たに導入され、医薬品製造行為(製造業)販売行為(製造販売業)が明確に分離されました(委受託完全分離:田辺製薬・永繁晶ニさんのJAPICニュース巻頭言「すべては患者さんのために」がわかりやすい)。これにより製造販売業であれば、外部製造業に全面的に委託することが可能になりました。同時にこの改正薬事法でジェネリック医薬品の「共同開発」も可能になり、他社のデータを合わせて共同で開発できるようになりました

一方、医療費薬剤費削減の切り札につかえると、国は「ジェネリック医薬品使用率8割目標」のスローガンが掲げられました。それまでぞろぞろ模造品が作られるから、と「ゾロ」とか「後発品」とかネガティブイメージの強かった言葉で呼ばれて馬鹿にされていた医療品ですが、いつのころからかみんな「ジェネリック」などというおしゃれな響きのよさげな言葉をみんなが使うようになっていました。「ジェネリック医薬品を希望します」シールが現れたり、と。私のような古い医者にとっては後発品は「ゾロ」のイメージが強いので、そんなシールが張られた保険証などみると、こんなこと言うと叱られそうですが、「高い税金らや社会保障費払ってんのになんでわざわざどこで作られてんのかわからん安物選ぶのか?」感が強いです。財務省やら協会けんぽとかは助かるんでしょうけど。このイメージ作戦とともに、医療機関や薬局にジェネリック処方のインセンティブをつけることによる診療報酬上の使用促進策(ジェネリック医薬品を処方調剤しやすいように一般名処方した医療機関には加算、ジェネリック医薬品を調剤した薬局にも加算、と一粒で2度おいしい)が功を奏し、2022年には後発品使用率ついに8割達成。それに飽き足らず今度は今年度中に全都道府県8割狙いで新たな目標を掲げておるようです

日経新聞から引用

委受託完全分離」と「共同開発」により大幅なコスト削減が可能になり、また「ジュネリック医薬品使用率8割目標」国策にも乗り、ジェネリック医薬品市場は一気に拡大。なんと200社以上も誕生。が、そのほとんどは工場を持たない販売業者でした。ジェネリック急激な市場拡大と同時に、大規模病院や大規模チェーン薬局など「共同購入組織」による購買力、いわゆる「バイイングパワー」強化によるジェネリック医薬品納入価格引き下げ競争(いわゆる買いたたき)も激化。それに伴い国が決めた正式な薬価と納入価格との乖離してしまうことになるので、2021年から正式に「毎年薬価改訂」を行い乖離率を縮めてきました。この悪循環により一粒がチロルチョコより安価と揶揄されるジェネリックも出現。ジェネリック医薬品が低収益市場に成り下がってゆきました。そのため収益が期待できなくなった時点で撤退する新参企業の「売り逃げ」も起きるようになりました。過当競争をなくすように業界再編が必要ですが、儲かっていた成長期ならばいざ知らず、例えば不祥事を起こした日医工も2018年にエーザイの後発品メーカーの子会社「エルメットエーザイ」を買収するなど業界再編が自然に進んでいましたが、収益性が落ちて魅力のなくなった時代を迎え、クソ決算連発のジェネリック医薬品メーカー同士くっついても…と業界再編も進まない状況です

このように、ドラッグロスの根本的な原因は、おそらく2005年の改訂薬事法施行をきっかけに引き起こされた後発品市場の爆上げと爆下げにより、最終的には国内医薬品メーカー業界全体が落ち込んでしまったにもかかわらず、国策として「ジェネリック医薬品を希望します」などによるジェネリック医薬品需要の急伸、そうせざるを得ない高齢化による2025年問題など、いくら頑張ってもどうしようもない事情が絡んでいることがわかりました。その解決には国全体で乗り越えるべきたくさんの大きな壁があり、単に「コロナが済んだから原薬が中国やインドからはいってくるやろ」とか、「薬の買い占めを規制する法律を作ればいいやろ」とか、「不祥事を起こした会社には退場してもらえばええやん」とかいう問題ではないことがわかりました

薬なしでどうすりゃいいの

これから冬を迎え、感冒が流行する時期を迎えます。年が明ければスギ花粉症・・・と、薬の需要は増えるにもかかわらず、今後も特に内服の咳止め、抗菌薬、解熱剤などを中心に供給不足は長引くことが予想されます。こどもしか飲まない粉やシロップならまだましなほうで、特に内科の患者さんと被る「錠剤」製剤の供給不足はマジでやばいです

風邪薬でしたら、ないならないで、里見清一(白い巨塔・町医者役)流に「風邪だからね、うどんでも食って暖かくして休んでいりゃそのうちなおるよ」と開き直ればいいのですが、さすがに解熱剤とか中耳炎や気管支炎、肺炎、尿路感染症の際に絶対的に必要な抗菌薬や、ステロイドがなくなると厳しいです。また鼻炎などで使う抗ヒスタミン薬がないと、原因物質が埃で除去不能なので、うどん食って寝ていてもなおらず、苦しいです。ほんとに効いているかわからない薬でも、うなされているこどもさんになんとなく投薬しているだけで救われる思いがしますよね

しんけんどうにかなりそうです。医師、特に我々小児科医など内科系の医者にとって、「診たて」と「患者さんのつらい症状をいかに取ってあげれるか」が医者の優劣の大部分を占めていることは疑いのない事実です。保険診療の療担規則には縛られますが、その範囲内で、個々の患者さんの病状をよく観察してそれにあった薬を、ない頭をひねりながらいろいろブレンドして処方しています。効かなければできうる限りの検査で原因を想像して薬の品目を入れ替えたり増やしたり、逆に抜いたり・・・これが仕事の大部分です。いかに効く薬をだしてあげるかが命です。特に私のようにちびデブ不細工、上から目線で愛想までない、田舎訛りが強く何言っているのかわからないような、ないないづくしの売りのない医者にとって、薬までないといわれたら医者の価値の半分はなし、といわれても過言ではありません。それだけ深刻な問題ととらえています

一方、日医工の製造不正発覚事件の章も触れましたが、日医工は過去10年にわたり、たくさんの薬で不正な品質試験を続けており、だけど驚くべきことにその間、特に有効性や安全性に危惧を持たれたケースはなかった、ということでした。つまり、翻ってみれば「日医工流のいい加減に作って薬でも、それなりの効果や安全性は担保されていたっぽい」という事実をあえて考えてみましょう

日本で医薬品承認の申請資料の製造方法欄に原薬や製剤の製造方法に関する細かな内容を記載することが求められるようになったのは、2005年に厚労省が出した通知がきっかけだそうです。この結果、製造方法の詳細は承認書にも反映されるようになりましたが、2016年、化学及血清療法研究所(現KMバイオロジクス)で薬機法違反が発覚し、承認書と製造実態の照合の徹底が強く求められるようになりました。その承認書と製造実態とを目くじら立てて一字一句照らし合わせるような規制の在り方に疑問を示す声も上がっています。元厚生労働省職員の津田重城氏は「国際的な水準からかけ離れた、過度な文書主義がまかり通っている」と指摘しています。元厚労省職員で現在は東京大学大学院薬学系研究科医薬品評価科学講座の准教授を務める小野俊介氏も「米国の承認書は品質を満たせば、『どうやるか』には柔軟性がある。日本の承認書は文書に落とし込みすぎており、しゃくし定規になりやすい」と語っています。感染対策の徹底とか、手洗いマスク着用の徹底とか、人に徹底させて安心を求める日本人の徹底好きぶりのメンタリティーが見て取られます。会社をつぶしておいて薬が足りないから何とかしろ、といわれてもね。金の卵を産む鶏の腹を裂いて金を得ようとして、金の卵を産む鳥を殺してしまう、という事態になっているのかもしれませんね

医者になって30年以上になりますが、ここまでのドラッグロスは初めてです。2000年半ば頃、乳児の予防接種が世界最貧民国と同じレベルの時代があり悔しい思いをしたことはありますが、今の薬供給不足の状況はそれ以上の事態で、ここはほんとうに令和の日本ですか?令和だからこんな事態になったのですか?と嘆き、処方できない患者さんに対し、力不足の感で心底忸怩たる思いです。何度も言うようにこの問題は国全体の危機で、町医者が嘆き叫んでもどうにもならんのですけど、今月はたくさん嘆き叫ばせていただきました

追記:この記事を書いている10月下旬、後発品最大手沢井製薬の九州工場でも2015年あたりから胃薬の品質試験の不正があったという残念な報道がありました。「沢井!君までが~」と財前ゴローの恨み節が聞こえそうですが、幸いにも現時点で健康被害の報告はなく「有効性や安全性に大きな影響を与える可能性は低い」というそうです。薬価調べたら、問題となったテプレノンカプセル50mg「サワイ」1粒がたった 6.3円、先発品でもエーザイのセルベックスカプセル50mg1粒 9.6円です。チロルチョコでも一粒10円はするのにゾロでもいちお医薬品がそれ以下。これで品質を徹底させるほうがどうかしているとは思いませんか。馬鹿にしすぎです。沢井の不祥事どこまで広がるか、今後の展開が不安ですが、まさか日医工のように70品目以上とかにはならないですよね。そんなことにでもなれば、本当に薬はなくなるでしょう。最後の嘆きでした

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