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シックキッズニュース 1月号 No68 日本小児アレルギー学会の優秀演題候補ミニシンポジウムから

シックキッズニュース 1月号 No68 日本小児アレルギー学会の優秀演題候補ミニシンポジウムから

皆さん、あけましておめでとうございます。今年もかみぞのキッズクリニックをよろしくお願いします

12月も後半になり、急激に寒くなりました。私も大寒波の際に土曜の午後を休診にして宮崎に用事で出張してきたのですが、翌日宮崎―新八代間の高速バス「B&Sみやざき」が雪のため途中で宮崎に引き返す、という100年に1回くらいしかありえない事態に遭遇しました。結局JRで西鹿児島、もとい鹿児島中央駅経由で熊本から九州横断特急を利用して大分まで帰ってきました。途中、本当に何年かぶりで「A列車で行こう」で三角線に乗り、三角駅でちょっとだけ過ごしました。訪れた三角町は私が2012年まで6年間働いていた上天草の入り口で、JR三角線も福岡への帰省によく使っていました。考えてみると、天草を去りあれからもう10年。たいへん懐かしく、海の駅みたいなところでミカンや魚のすり身のてんぷらをたくさん買い込みました。雪で遅れなければ、本当は松島まで宝島ラインのシークルーズでのんびり行ってみたかったのですが、天草まで雪が降ったようで… またの機会の楽しみに

さて今月は、11月沖縄で開かれた日本小児アレルギー学会で発表された最新の話題から、ミニシンポジウム「優秀演題候補」計9題から、比較的わかりやすかった5つの演題について書いてみました。せっかくお休みをいただいて講演をききにいったので、今日本のこどものアレルギー界ではどんな話題がホットなのか、少しですが皆様方にご紹介してみたいと思います

今月のフォーカス 「日本小児アレルギー学会の優秀演題候補ミニシンポジウムから」

〇MS-1 乳幼児におけるより安全なタンパク接種開始量の検討 国立成育医療センター 高田数馬先生 (最優秀演題賞受賞)

〇MS-2 乳児期皮膚バリア機能とアレルゲン感作に関する観察研究(Fukushima study) 市川クリニック 市川陽子先生 (優秀演題賞受賞)

〇MS-5 新生児期からの保湿と洗浄を重視したスキンケア指導によるアトピー性皮膚炎予防効果の検証 千葉大学看護部小児科病棟 湯口梓先生

〇MS-6 喘息急性増悪時のSABA吸入方法に関する検討 筑波大学小児科 原モナミ先生

〇MS-7 多施設症例集積研究による卵黄FPIES(食物タンパク誘発腸炎)の寛解年齢と予後因子の検討 さいたま市立病院小児科 鑑涼介先生

〇総括と個人的感想、今年の目標

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●MS-1 乳幼児におけるより安全なタンパク接種開始量の検討 国立成育医療センター 高田数馬先生(最優秀演題賞)

アレルギーになりやすいこども(ハイリスク乳幼児)に食物アレルギーの原因になりやすい食物、例えば鶏卵、乳製品、小麦製品などを離乳食でなるだけ早く開始すれば、食物アレルギーになる確率を下げるといわれています。その流れに乗り、海外では赤ちゃんの食物アレルギーを予防する目的で、実際にミックス離乳食(EIF)が商品化され、「スプーンフルワン」という商品名で市販されています。その「スプーンフルワン」ですが、日本でも市販されるようになりました。16種類の食品を30mgずつバランスよく配合されている、というふれ込みです

日本の4団体から注意喚起の出ているスプーンフルワン(ネスレのHPから)

ところが、です。ところがアメリカ食品医薬品局(FDA)は、昨年「市販されているミックス離乳食には規制が必要」という声明を出しました。その年のアメリカアレルギー喘息免疫学アカデミー(AAAAI)総会で、市販されているミックス離乳食に含まれる食物アレルゲン量が一定ではなく、かなりばらつきがあり、中にはアナフィラキシーを起こす可能性のある量を超えて含有しているものがある、という報告に基づく警告がでました。それを受け、日本でも昨年10月21日付で日本小児アレルギー学会も日本アレルギー学会、日本小児臨床アレルギー学会、日本外来小児科学会、食物アレルギー研究会の4団体と連名で「乳幼児用のミックス離乳食(スプーンフルワン)の関する注意喚起」を行いました。つまり、「スプーンフルワンに含まれる30mgの量でもアレルギー症状を起こすことがある」、「製品説明の摂取上の注意の表記の問題点」の2つに注意喚起しています。16品目30㎎含有、といっても、そもそも食物アレルギーを起こすかもしれないハイリスクなあかちゃんに摂取開始する際の安全な量が30mgでいいのかさえ、十分に検討されているとは言えません

そこで成育医療センターの高田先生たちは、本当に30mgで大丈夫なのか、どれくらいであれば、食物アレルギーを起こすリスクの高い赤ちゃんたちも安全に摂取可能なのかをしらべました。2014年1月から2020年12月の7年間、国立成育医療センターアレルギーセンター受診中の0歳から1歳の小児のうち、明らかにアレルギー症状を起こした小児、もしくは食物経口負荷試験(今回は茹で卵白、牛乳、茹でうどんの3食品に限定)で症状が出て陽性を判断された小児を対象にしています。口やのどがイガイガする、腹痛や吐き気などの主観的な微妙な症状だけのこどもは今回研究から除外されています。そして3食品の食物蛋白30mgでの症状がでる確率と、集団中5%(20人中1人)にアレルギー症状を引き起こす量(eliciting dose:誘発用量)の推定を行いました

対象は、茹で卵白が279人、牛乳159人、ゆでうどん128人でした。これら対象の0~1歳児には男児がやや多く、おおむね8割にアトピー性皮膚炎があり、そして8割が食物経口負荷試験をする前にアレルギーを起こしたことがありました。採血検査での卵白、牛乳、小麦の租抗原のアレルギー検査はおおむねクラス3相当の感作がありました

結果ですが、まず卵白、牛乳、小麦の食物たんぱく30mg相当量(全卵0.25g、牛乳0.9mL、うどん1.2gとごく少量です)を摂取した時のアレルギー症状がでた確率は、茹で卵白負荷試験で6%、牛乳では17.5%、茹でうどん7.3%と、無視できない確率の高さでした。アナフィラキシーは卵白負荷ではおらず、しかし牛乳で6人(うちアドレナリン筋注1人)、茹でうどんで1人いました。とくに牛乳ではわずか1mLたらずの負荷試験でだいたい5~6人に1人と高率にアレルギー症状がでて、6人がアナフィラキシー、うち1人アドレナリン筋注を要したという結果でした。そして、集団の20人中1人(5%)症状がでる(負荷試験陽性)最小の量は、卵白で24.7mg、牛乳3.9mg、小麦23mgでした。牛乳にいたっては0.7mL飲んだら20人のうち1人は明らかな症状が出たということになります

つまり、食物負荷試験が必要と判断されるような0歳から1歳の食物アレルギーのハイリスクな乳幼児では、集団中5%(20人中1人)にアレルギー症状を引き起こす量(eliciting dose:誘発用量)は、卵、牛乳、小麦すべて30mg以下でした。このように、現時点ではあかちゃんに離乳食開始するときに、この量ならば安全といえる摂取量は最適化されておりません。ネスレが猪突に出してきた30mgという開始量は何ら安全性が保障されているわけではない、ということです。各学会連名で発表された注意喚起を裏付ける結果になりました

確かに食物蛋白の早期開始がその後の食物アレルギーの発症を予防しているという数々のエビデンス(研究調査を行ったうえで、その考えを支持している論文)は出てきているのは確かです。しかし、アレルギーの家族歴があったり、アトピー性皮膚炎と診断されているお子さん、あるいは涎負けしやすいなどお肌の弱いお子さんで、もしかしたら食物アレルギーがあるかも、と思うようなハイリスクのあかちゃんにスプーンフルワンのような利潤追求型の市販のミックス離乳食を開始する場合は、特別の注意、たとえばアレルギーに精通した医師によるミックス離乳食の負荷試験などによる判断がのぞましいと結論づけています

●MS-2 乳児期皮膚バリア機能とアレルゲン監査に関する観察研究(Fukushima study) 市川クリニック 市川陽子先生(優秀演題賞)

新生児期からの保湿によるアトピー性皮膚炎の予防について、いくつか大規模な研究が行われてきましたが、わが国での研究では「アトピーは予防できても感作の予防効果はなかった」、とか、ヨーロッパの研究では、残念ながら「感作のみならずアトピーも食物アレルギーも予防できませんでした」、という報告がでて、いまだきちんとした評価はされていない、というのが現状です(詳細が知りたい方は、過去のシックキッズニュース「食物アレルギーの診療を変えた疫学調査や臨床研究」もご参照ください)

この市川先生たちが行っている「Fukushima study」では、新生児期から肌の洗浄と保湿によるスキンケアをおこなった乳児の皮膚のバリア機能の変化とアレルゲン監査の関連を調べました。前向き出生コホート観察研究という質の高い疫学調査です。 皮膚洗浄と保湿のやり方は、20年近く前に増販された当時話題の山本一哉先生の「子供のアトピーによくみる50の症状」に沿って行いました

研究対象は、2019年3月~2020年8月に福島市のいちかわクリニックで出生した正期産児177名です。家族のアレルギー歴の有無など問わない一般集団です。対象者全員にナチュラルサイエンス社「ママ&キッズ ベビーヘアシャンプー、ベビー全身シャンプー」による洗浄と、同社「ママ&キッズ ベビーミルキーローション」という保湿剤によるスキンケアを行いました。具体的には1日1回、洗浄剤でこすらずに手で優しく洗いました。もちろん頭髪はヘアシャンプーで、顔と体はベビー全身シャンプーと分けています。最後にしっかりと40度以下の温水でしっかり洗い流すように指導しました。保湿の方法は、1日朝晩2回、指定の保湿剤の全身塗布と、それに加え、口周りとオムツ部分は吹くたびに保湿剤を塗布しています。保湿剤の塗布量は、たっぷり刷り込まず塗布するよう指導しています

妊娠中から登録を開始して、36週に母親から血液、唾液、便のサンプル採取。出生時の臍帯血を採取して、全例「フィラグリン」という皮膚のバリア機能に大切なたんぱく質の遺伝子解析を行っています。新生児退院前にあかちゃんからいろいろな検体採取(感作状態を調べるため採血検査を含む)を行うとともに、スキンケアした赤ちゃんの皮膚のバリア機能を評価するために経表皮水分蒸散量(TEWL)角層水分量を計測します。母親からも皮膚や乳首の細菌培養検査や母乳などの採取を行いました。以後、生後1か月、4か月、6か月、12か月の時点で退院時と同じ検査を行いました

被検者の背景ですが、出生時の男女差はなく、帝王切開出生が39人(22%)、母乳栄養児が87人(49.2%)でした。児の家族のアレルギー歴有が132人(75%)とアレルギーの家族歴ありが4分の3を占めていました。家族のアトピー性皮膚炎歴は40人(22.6%)でした。 経過をフォローした生後1年までのアトピー性皮膚炎と食物アレルギー発症率ですが、アトピーは生後4か月に1人、6か月で4人、1年後にわずか8人と1年たっても5%以下という少なさでした。食物アレルギーにいたっては、生後4か月で0人(まだ離乳食を始めていないので当然ではあるが)、6か月で2人、1年後も1人と発症率1%ちょいでした。日本の1歳前後の乳児のアトピーの罹患率が10%前後0歳児の食物アレルギーの発症率は7.7%という報告もありますが、これに比べて圧倒的に低い罹患率でした

一方、採血検査での各種食物蛋白に対する感作状況はいいとは言えず、卵白に対する特異的IgE値のクラス2以上の割合は、生後6か月で32%、生後12か月で40%と高率に感作成立が認められました。つい数年前までだったらこれだけで医師から鶏卵摂取制限をされかねない児が3割とか4割もいたということです(実際は普通に摂食可能でありながら)。残念ながら保湿に加え、洗浄をしっかりしても特に鶏卵に関しては感作成立を抑えることはできなかったようです。発表を聞く限りではありますが、大変残念なことに保湿だけ、もしくは洗浄だけ、あるいはいずれの指導もされていなかった対象群との比較検討はこの研究ではなされていないようですので、この割合が本当に高いかどうかはわかりません

皮膚のバリア機能が卵白感作成立に関与しているか調べるために、ほほの部分の経皮水分蒸散率(TEWL)の新生児退院前と生後1か月時での変化率と生後6か月時点の卵白感作の割合の関係を調べています。生後1か月時点で新生児退院前に比べて蒸散率が高い(つまり皮膚バリア機能が弱く皮膚から水分が抜けやすい)あかちゃんほど卵白感作の割合が高いことがわかりました。生後12か月時点の卵白感作に関しては、ほほだけでなく額のTEWLの変化率が高い(つまりスキンケアに関わらず皮膚のバリア機能が生後1か月時点で低下してしまった)児ほど卵白感作成立した児の割合が多かったようです

フィラグリンというたんぱく質の遺伝子変異があれば、皮膚のバリア機能がおちるといわれていますが、今研究では177人全員にフィラグリン遺伝子の変異を調べており、うち16人(9%)に変異が認められたそうです。フィラグリン遺伝子変異している群は、生後6か月時点での卵白のIgE値がフィラグリン遺伝子正常群と比べて優位に高値で、卵白IgEクラス2以上の感作率は、生後6か月(56.3%)だけでなく12か月時点(62.5%)でも統計学的に有意に高い割合でした(遺伝子正常群は6か月時点で29.4%、12か月時点で37.1%)。フィラグリン遺伝子変異の有りなしと表皮水分蒸発量の1か月時点での変化率をみると、ほほではなく額で有意に水分蒸発量の変化率が高いことがわかりました。以前から知られていたように本研究でもフィラグリン遺伝子の変異はこの研究でも皮膚からの水分蒸発量か多い、つまり皮膚のバリア機能低下に関わっていることが示唆されるデータが出ています

この研究で、のぞましい洗浄剤や保湿剤で適切な方法でスキンケアすることで、1歳までのアトピーや食物アレルギーの発症を想像以上に抑えそうだということがわかりました。一方、卵白の感作(採血検査でクラス2以上で陽性)に関しては、いくら洗浄しても保湿しても防ぐことはむずかしそうで、洗浄や保湿よりもやはり赤ちゃん自身が持つ皮膚自体のバリア機能(生後1歳時点でのTWEL変化率やそれに大きくかかかわるフィラグリン遺伝子変異など)に影響されるようだということがわかりました。

以下は私自身の感想です。千葉大学や慶応大学、それにナチュラルサイエンス社という企業の協力はあるにしろ、クリニックの医師一人でやった前向き出生コホート疫学調査で、脱落もほとんどなくこれはすごい労力で大変示唆に富む結果を出してただただ敬服するばかりです。当然この発表は優秀演題の一つに選出されています。ただ、若輩者の私が言うのもなんですが、途中でも少し触れさせてしまいましたが、一番大事な対象群、つまり、スキンケアや洗浄などの指導を受けていない群を作っていないことは決定的な欠落点だといわざるを得ません。千葉大や慶応大学がついているようですので、もしかしたらパイロットスタディ―で、今後本格的な研究をして比較検討をして本当のホントにナチュラルサイエンス社製の洗浄液や保湿剤で正しくスキンケアすることで、少なくともアレルギー疾患の発症予防を証明されるのかもしれませんが、このパイロットスタディ的な予備調査で大変な労力も財も費やしているような気がしてなりません。対象群をきちんとおいて調査することはほとんど決定的な結論は得られますが、往々にして今研究で得られたデータを出すよりも難しいことです。そもそもスキンケア用品ももらえず、またスキンケア指導などもしてくれずに、便を含めた検体採取や赤ちゃんへの侵襲的な採血にだけ協力してくれる人はいなし、倫理的にも問題が多いので、オイルやワセリンでの保湿やふつうの石鹸など洗浄剤によるスキンケア指導なし、となるでしょうか

●MS-5 新生児期からの保湿と洗浄を重視したスキンケア指導によるアトピー性皮膚炎予防効果の検証 千葉大学看護部小児科病棟 湯口梓先生

これも先にご紹介したFukushima スタディと関連する発表です。最近、新生児期からのスキンケアがアトピーから食物アレルギー、喘息、鼻炎に進展する「アレルギーマーチ」という負のカスケードを止めるかもしれない、と注目されているところです。千葉大学小児科病棟では、厚労省のアレルギー疾患対策都道府県拠点病院モデル事業費補助金千葉県アレルギー疾患対策推進事業として、同研究を行っていたそうです

国立成育医療センターから新生児期からの保湿剤によるスキンケアでアトピー発症が統計学的に有意な発症を抑えられたという発表が出た一方、欧州のいくつかの大規模な調査では、保湿剤によるアトピー発症リスクの現象は見られず、むしろ皮膚感染リスクの懸念から保湿剤使用は推奨されていない、という残念な提唱がされており、いまのところ新生児からの保湿剤使用がアレルギー疾患の発症予防をもたらすかどうかは、決着がついていないところです

そこで千葉大学産科病棟では、2020年から同院で出生した新生児の沐浴を、従来の「顔面はお湯で濡らしたガーゼで清拭する」、「沐浴槽の中で洗浄する」、「保湿剤の指導は特にしない」から、「顔面を含め、よく泡立てた洗浄剤で洗浄する」、「全身を手で洗う」、「保湿を必ず行う(保湿剤の指定はない)」に方針を変更。大将軍と介入群をそろえるために1月から9月までの出生児に対象をしぼっています。生後6か月と12か月の時点で、皮膚の状態と保護者のスキンケアに関する行動をアンケートで調査しました。対照群の従来法が132人、介入群の手で全身を泡立てた洗浄剤による洗浄後に保湿剤で保湿する方針変更が140人あつまりました。うち、生後6か月まで追跡できたあかちゃんは、対照群で84人、介入群で108人。12か月目まで追跡できたあかちゃんは対照群66人、介入群86人で、残念ながら1年たつと半分は追跡脱落してしまいました

追跡できたあかちゃんのアトピーの発症率は、生後6か月の時点で対照群18人(21.4%)、介入群も18人(16.7%)。生後12か月の時点で対照群9人(13.6%)、介入群6人(7%)と、介入群で低い傾向は認められましたが、統計学的に有意とはなりませんでした。ただし、1月から3月の冬季出生のあかちゃんに絞れば、生後6か月時点では有意差はなかったものの、生後12か月時点では対照群36人中7人(21.2%)と高率にアトピーと診断されているのに対し、洗浄保湿介入群は35人中わずか1人(2.9%)だけと統計学的に有意差が出ました

保護者の洗浄や保湿などのスキンケアに関する行動ですが、「顔を洗浄剤で洗顔している」、「手で全身を洗浄している」のは、対照群では生後1か月では50%を切っていたのが、指導されて退院した介入群では生後12か月時点でも80%以上キープ。「保湿剤を毎日使用している」のも対照群では80%程度なのが、介入群では90%以上と、明らかに洗浄・保湿を指導して退院する介入群がスキンケアの意識が高いことが示されていました

冬に生まれたあかちゃんにかぎれば、洗浄と保湿を組み合わせたスキンケア指導で1年後のアトピーを予防できるかもしれない、という結果が出ています。 1~3月生まれのあかちゃんに、より保湿や洗浄が効いた理由として、発表者の先生の考察として、「冬季は湿度は低く乾燥しているからでしょうか?」と答えていたようです、以下は私個人的な意見です。生まれた冬より、これから迎える夏に問題があるような気がします。冬生まれのあかちゃんたちは、一般的にお肌の調子が悪くなり皮膚科の開業の先生が忙しくなる夏の時期にちょうど生後4~6か月になります。このころはもちろん皮膚の代謝も変わるだろうし、離乳食も開始時期と重なります。このように環境が激変する時期が夏だと、きちんと皮膚が守られたあかちゃんたちは、そうでないあかちゃんに比べ、皮膚への影響が最小限にとどまることが考えられます。本当の理由はわかりませんが、とにかくスキンケアとアトピー発症に関しては、まだまだ詳細に検討する余地がありそうです

●MS-6 喘息急性増悪時のSABA吸入方法に関する検討 筑波大学小児科 原モナミ先生

喘息発作が起きた時にお世話になる、おなじみのベネトリンやメプチンなどの「短時間作動型気管支拡張薬(SABA)の吸入療法」ですが、吸入方法には大きく2つの方法があります。1つは、病院や医院に備え付けられている吸入器(ネブライザーやコンプレッサー)が発生する薬液のミストを時間かけて吸入される方式。もう一つはふいごのような構造のエアロチャンバーなどのスペーサーに加圧噴霧式定量吸入器(pMDI)をシュッとスプレーして薬液をチャンバー内に充満させてそれを5-6回吸い込む方法に分かれます

短時間作動型気管支拡張剤のpMDI製剤(メプチンキッドエアーが右)
吸入補助具のスペーサーの一つエアロチャンバー

吸入器もコンプレッサータイプを頑張って購入してやられる方もいますが、高価で吸入に時間がかかり管理も難しいので、自宅など院外で使用する喘息発作治療薬としては、スペーサーを購入し、メプチンなどのpMDIを処方して吸入する方法が一般的です。一方、病院や医院では、ネブライザーやコンプレッサーで吸入するケースがほとんどでした。しかしコロナ騒ぎで海外ではAAAAIがコロナ禍では病院や家庭での吸入療法にはpMDIを使用するように勧告しています。それに準じ、日本小児アレルギー学会も「COVID-19流行期における喘息発作に対するネブライザー使用時の注意喚起」をだしています

これらの注意喚起で、ミストを発生させるネブライザーやコンプレッサーの使用が感染対策上問題とされ、いままでライノやRS、ヒトメタなど、子供にとってはコロナ以上に喘息発作を誘発してやばい感染症のときでも、平気でジャンジャンモクモク盛大に吸入させていたのに、なかにはマジで喘息発作時への治療としての吸入療法をやめた医院もあると聞き、正直本末転倒感、いまさら感甚だしい気持ちになります。別にこれまで通り吸入ルームでやればいいんじゃね。以上、個人的感想でした

海外では、乳幼児でもスペーサーを使用すればpMDIでもネブライザーやコンプレッサーと遜色なく手軽に吸入できる、という報告があるのですが、小児科でスペーサーやpMDIがぜんぜん普及していない日本ではあまり検証されていないのが実情です。そこで発表者の先生たちは、短時間作動性の気管支拡張薬の「メプチンキッドエアー」2パフの単回吸入前後の修正肺指数スコア(MPIS)息苦しさの数値評価スコアスコア(NRS)の改善を、「メプチン吸入液」0.3mL+生理食塩水2mLのコンプレッサー吸入の前後を比較してみました。 結果はこれまでの先行検証研究の通り、予想通り、スペーサーでのpMDI群もコンプレッサー吸入群もいずれも修正肺指数スコアや息苦しさスコアを改善させ、その改善の変化率も同等でした

反復吸入を要した、あるいは1週間以内の再診、入院となった吸入治療効果不良群の割合も両群とも変わりませんでした。吸入後の脈拍の上昇もどちらともみられず、安全性も担保されていました。次に吸入するとしたら、同じ方法がいいか尋ねたところ、スペーサーでのpMDI群のほうが「とてもそう思う」、あるいは「どちらかというとそう思う」と答えた好評率は9割を超え、コンプレッサー群は6割にやっと届く程度なので、やはり手軽に短時間に施行できるスペーサーでのpMDI吸入はコンプレッサー吸入と同等の有効性と安全性があるだけでなく好評のようでした。ただし、pMDIのスペーサー使用に関しては、pMDI本管の消毒は不能で、スペーサーの消毒も手間がかかり、病院や医院の消毒の手間は多くなるようです

スペーサーはコンプレッサーに比べると安価とはいえ、それでも数千円もかかり、購入費用には保険が適応されません。このため本邦ではなかなか普及が進みませんが、喘息の定期薬としてのステロイド吸入もpMDI製剤が用意されており(例えばフルタイドエアーやアドエアー)、スペーサーを使用して効率よく吸入できますし、本来ならば喘息児は保険でスペーサーを処方できるようにして大いに普及させ、自分専用のスペーサーとpMDI(メプチンキッドエアー)を持参していただき、院内で前後で評価しながら個人のスペーサーで吸入させるほうがいいと考えます。同時に吸入指導もでき、日本のこどもではなかなか進まないステロイド吸入の普及も一気に進むと思うし。今の日本の現状は自費でのスペーサー購入なので、スペーサーの普及は望めず、まだまだウイルスをミストとともにまき散らすらしいネブライザーやコンプレッサーでの吸入が続くように思われます

●MS-7 多施設症例集積研究による卵黄FPIES(食物タンパク誘発腸炎)の寛解年齢と予後因子の検討 さいたま市立病院小児科 鑑涼介先生

以前このシックキッズニュースでも取り上げましたが、日本では最近、卵黄を食べて嘔吐や不機嫌、下痢、血便などの胃腸炎症状をおこすあかちゃんが増えています。残念ながらまだ新しい概念の疾患故、いつになったら治るのかなどの自然歴や、何が治りやすくするのか(例えばアレルギー持ちが治りにくいのか、とか、食物アレルギーみたいに頑張って少量ずつ食べればなおりがはやいのか、とか性別で直りやすさが違うのか)などよくわかっていません

そこで、卵黄のFPIESのことを最初に問題視した慶応大学のグループは、卵黄FPIESの感懐時期や予後にかかわる因子を明らかにするため、同じ系列の病院を中心に症例を集めて後方視的に詳しくみてみました。卵黄負荷試験で1個接種可能になった時点で寛解したと定義しています。寛解した群と寛解しない群で性別、アレルギー疾患合併の有無、家族歴、出生歴、重症度、特異IgE値、症状誘発総回数などなどいろいろと評価項目を決めてどれが寛解促進に関連する因子か調べました

5年間で1歳未満で発症した38人の卵黄FPIESを登録しました。この5年の間に寛解した群18人(47%)、治らなかった群(非寛解群)20人(53%)でした。患者背景は男性21人(51%)、卵黄接種開始月齢の中央値が生後7か月、FPIES発症の月齢の中央値が生後8か月、総誘発回数の中央値は3回、アトピー性皮膚炎の合併は10人(24%)、ほかの食物アレルギー合併をしている児も8人(19%)しかいませんでした

それでは、卵黄FPIESと診断され登録された子供がどの後どうなったかですが、発症して2年の時点で約35%、3年後の時点で約50%が寛解していたそうです。寛解した群としなかった群ちょうど半々となったようですが、それぞれの群をいろいろな評価項目で比較検討したところ、発症月齢や発症時の重症度は特に関連性がみられなかったようです。ほかに、そう誘発回数、アトピーの合併率、ほかの食物アレルギー合併頻度、初診時特異的IgE値なども関連性は見られませんでした。唯一、両群間に差が出たのがなぜか、「性別」でした。寛解群の72%が男性で、一方まだ治っていない非寛解群では70%が女性だったそうです。つまり、今回の研究では、明らかに男性のほうが治りやすく、女児は明らかに寛解しにくかったという結果が出ました

ほかにも同じように卵黄FPIESの感懐時期や予後関連因子の報告が3つほどあり、14人で解析したWatanabeらの報告では2歳までに約2/3(64.3%)が寛解した(中央値は生後18か月)と報告。Okuraらは、21人の卵黄FPIES児の経過をフォローし、早期診断群で中央値2歳4か月、後期診断群では中央値2歳2か月が卵黄負荷試験陰性になり、21人中13人(65%)で寛解したと報告。12人の卵黄FPIESを解析したMakitaらの報告では、2年後の寛解率は約30%、3年後は80%でした。これら3つの既報では、今回の慶応大学のグループの検討に比べると寛解する児は思った以上に早く寛解しているようです。しかし、既報では本研究に比べ症例数が少ないので、本研究のように症例数が多くなれば、卵黄FPIESの寛解は遅れる可能性があると、発表者は考察しています

では、寛解にかかわる因子として、性別に関してはこれまで一定の見解は出されていません。Watanabeらの報告では、早期耐性獲得群の9人で比較すれば男児のほうが有意に多かったようで、本研究と同様に男児は治りにくく、女児は治りにくい可能性が示唆されていました

結論として、卵黄FPIESは3年で半数が寛解し、男児のほうが女児よりも治りやすい可能性がある、ということです。私自身の経験ですが、まだ開業して負荷試験を行い始めてまだ6年目ということもあり、また卵黄FPIESは時間がたって激しく嘔吐する、比較的厄介な代物ですので、大分こども病院での日帰り、あるいは1泊入院の上での負荷試験を奨励していることもあり、負荷試験症例集積もあまり多くなく、しっかりと検討はしていませんが、そういえば卵黄が食べられるようになった児をまだあまり経験していない印象で、だから、別に男児が治りやすいとか女児は治りにくいとかいう印象もなかったので、これは来年くらいにでもしっかりまとめてみて調べてみる必要があるなと感じました。いずれにしてもなんで最近になって爆増してきているのかを含め、なぞ多き、故に今、日本のアレルギー界ではホットな疾患であることは間違いありません

●総括と個人的感想、今年の目標

このほかにも、皮膚の細菌が産生する毒素が食物アレルギー発症にかかわるお話、一般的にはやっていない4歳未満の乳幼児への舌下免疫療法のお話、鶏卵の経口免疫療法中に出現するオボムコイド親和性のIgEのリスクに関するお話、小児好酸球性消化管疾患の内視鏡所見のお話の4つも優秀演題候補に挙がっていました。一般の方には少し難しい検査などがあり、今回はこれらには触れず、比較的理解しやすい5つの演題を特にピックアップしてご紹介しました。この9題の中から座長の斎藤博久先生と海老沢元宏先生が採点し、最優秀演題賞1題、優秀演題賞2題を選出しています。結果、ミックス離乳食を話題にした国立成育医療センター、高田数馬先生の「乳幼児におけるより安全なタンパク接種開始量の検討」が選出されました。優秀賞は市川クリニック、市川陽子先生のFukushima studyの「乳児期皮膚バリア機能とアレルゲン監査に関する観察研究」と、今回ここには紹介していませんが、順天堂大学小児科、山田啓迪先生の「皮膚の黄色ブドウ球菌デルタトキシンは経皮感作による食物アレルギーの発症を促進する」でした

優秀演題候補に選ばれた演題をみると、今どんな話題が日本のこどものアレルギーのトピックになっているかわかります。こどもの皮膚洗浄や保湿剤によるスキンケア、皮膚細菌叢が産生する毒素がその後のこどものアレルギー疾患発症にかかわるという話が3題、卵黄FPIESや小児好酸球性消化管疾患などのアレルギーに似た腸炎の話が2題、最近話題のミックス離乳食や経口免疫療法といった食物アレルギーの話題が2題、喘息のスペーサーによるpMDI吸入の話が1題、舌下免疫療法の話1題。ひところアレルギー学会の花形だった喘息の話題がへり、新生児からの皮膚スキンケアや卵黄FPIESがホットになってきています。また、日本小児アレルギー学会が注意喚起した「ミックス離乳食」と「コロナ流行中のネブライザー使用」の話題が2題あり、この辺は少し恣意的なものを感じましたが、気のせいでしょうか

それぞれこれからの日本のアレルギー界の発展を担うであろう若い先生方の発表でした。やはりアレルギーで有名な大学や拠点病院所属の先生方が多く、唯一開業医は優秀賞受賞された市川先生だけでした。その市川先生もホームページを見てみると、開業医とはいえ大病院のようです。アレルギー疾患はご存じのようにこどもの病気のうちでは、むしろ「コモン・ディジィース(風邪のようなありふれた普通の病気)」のひとつで、大病院よりむしろ我々のような町の小さな開業医がふつうに対応している病気です。優秀候補演題の中身を見てると、一部の特殊な検査をテーマにしているものを除けば(今回はそのような難しい演題は解説対象から除きました)、しかもそんなに登録患者数も多くなく、MS-2のFukushima study、市川先生のところでも述べましたが、どちらかといえばパイロットスタディ的、話題提供し、これから大規模に調べてみようか、という感じの演題をあえて優秀演題候補に選んでいたのではないかと思いました。意外と普通に一般診療でも研究できそうで、なんか俺でもできそうかも、と変な自信がでてきました

私も開業して以来6年間、一回も発表しておらず、論文も日本語で1つしか出していません。それも前に勤めていた大分こども病院の症例でした。せっかく多くのアレルギー児を診させていただいている立場ですので、そろそろなんか出さないといけないかなと感じていたところで、簡単に出せそうなものから少し調べてみようかなーと思っています。志の低い開業医にならないよう、学会発表1つだすことを今年の目標にしようと思いました

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